テラーノベル
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「……今日も決着がつかないようなら、明日の業務に支障が出ます」
夕食後、リビングで淹れたての緑茶をすすりながら、菊が極めて事務的に切り出した。
その表情は真剣そのものだ。
「昨夜はお互いに意地を張りすぎました。今夜こそ、どちらが『上』になるか明確な決着をつけましょう」
「望むところなんだぜ、菊!」
ヨンスは湯呑みをドンとテーブルに置くと、腕組みをしてニヤリと笑った。
「昨夜はお前のテクニックにちょっと焦ったけどな、俺には年上としての意地と、お前よりデカい体があるんだぜ! 今夜こそ絶対に俺が『攻め』になって、お前を可愛がってやるんだぜ!」
「ふっ…威勢がいいのは結構ですが、体格差だけで勝てるほど夜の営みは甘くありませんよ」
二人は再び、戦場となる寝室へと向かった。
ベッドに上がった瞬間、昨夜と同じように互いの肌を探り合う攻防が始まった。
菊は巧みな指使いでヨンスのパジャマの襟元をくつろがせ、性感帯を的確に突いて声を漏らさせようとする。
「っ……! 菊、相変わらず容赦ないんだぜ…!」
ヨンスの呼吸が乱れ、今にも甘い声が漏れそうになる。
菊は勝利を確信したように、妖艶な笑みを浮かべてヨンスの耳元で囁いた。
「どうです? 素直に声を上げて、私の下でその身を委ねてしまえば楽になれますよ…」
(くっそ…! このままじゃ俺が下にされちゃうんだぜ…!)
追い詰められたヨンスの脳内に、閃光が走った。
(待てよ…? 『技術』で勝てないなら、俺の最大の武器を使えばいいんじゃないか!?)
「甘いのはお前だぜ、菊!!」
「――なっ!?」
次の瞬間、ヨンスは持ち前のリーチの長さと腕力をフル活用し、菊の両手首を片手でガシッとまとめて頭上に押さえつけた。さらに、その大きな体躯で菊の上からすっぽりと覆いかぶさる。
「く…っ! なんという力…!」
「へへんっ! 押し倒して身動きを封じちゃえば、いくらお前のテクニックが凄かろうと関係ないんだぜ!」
「ズルいですよヨンスさん! これは知略の勝負では…っ!?」
抵抗しようとする菊の言葉は、ヨンスの力強い口づけによって途中で遮られた。
強引でありながら、どこか愛おしそうに何度も重ねられる熱い唇。
さらにヨンスは空いた方の手で菊の腰を力強く引き寄せ、体格差を思い知らせるように全身で覆い尽くしていく。
「ん……ッ……ふ……」
物理的に完全に抑え込まれ、退路を断たれた菊の口から、ついに小さく甘い吐息が漏れた。
「……あ」
静まり返った寝室に響いたその声に、二人の動きが止まる。
「……聞いたんだぜ菊。今、小さく『ん』って言ったんだぜ!」
ヨンスが勝ち誇ったドヤ顔で菊を見下ろすと、菊は両手を拘束されたまま、悔しそうに顔を真っ赤にして背けた。
「……不覚です。まさか力ずくで押し切られるとは…」
「勝ちは勝ちだぜ! 約束通り、今夜は俺が『上』だ!」
「…わかりましたよ。勝負は勝負です。…今夜は、あなたの好きにしてください」
観念した菊が、小さく溜息をつきながらも、どこか諦めたような熱い瞳でヨンスを見つめ返す。
その色気に、勝者となったヨンスの胸が高鳴った。
翌朝。
眩しい朝日が差し込む寝室で、ヨンスは満足気な顔で目を覚ました。
腕の中には、すっかり疲れて深く眠っている菊の姿がある。
(へへっ、やっぱり俺が年上のお兄さんとしてビシッと決めてやったんだぜ!)
満足感に浸りながら菊の髪を撫でていると、ふとうっすらと目を開けた菊が、かすれた声で呟いた。
「……ヨンスさん」
「おう! 目覚めはどうなんだぜ、俺の可愛い奥さん?」
菊は少しだけ目を細めると、ヨンスの首に手を回した。
「…今回はあなたの『力』に免じて上を譲りましたが…次はこうはいきませんよ。次は私の『手管』で、完全にあなたを屈服させて見せますから」
「……え?」
「政略結婚の夜の領権争いは、まだ『一引き分け一敗』ですからね。これからですよ。…覚悟しておいてください」
不敵な笑みを浮かべる菊を見て、勝ち誇っていたヨンスはゾクッと背筋が凍るのを感じた。
上司の命令で始まった二人の結婚生活。
昼間はビジネスパートナーとして完璧に協力し合い、夜はどちらが「上」かで永遠に揉め続ける――そんな騒がしくも愛おしい二人の毎日は、これからも続いていくのだった。
【おしまい】
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