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フェーズ1のM視点
俺の歌に合わせてステージを走り回る君。
普段は驚くほどドジで不器用なくせに
体内にメトロノーム入ってる?というくらい
正確に拍子を刻み俺の呼吸の合間に入れ込んでくる煽りの掛け声が気持ち良いくらいピタリとハマる。
ステージ上で俺たちは完全にひとつになっている。
ステージ上の君を輝かせたくって
キラキラした君をずっと見ていたくって
俺は歌い続けるのかも知れない。
インディーズデビューから2年、俺たちはメジャーデビューした。
やっと、始まった。
中学時代から俺を信じてずっと着いてきてくれた若井と
俺が初めて自ら惹かれて手に入れたいと思った涼ちゃん
それからバンドの屋台骨を支えてくれるしっかり者の綾香と最年長のくせにボケ役の高野。
俺たちは完璧で負け知らずで
俺は俺の生み出す歌に絶対的な自信があった。
だけどプロの世界はそんなに簡単なものじゃなくって
響く歌を作りすげえ演奏をしていれば売れる、なんて単純な世界ではなくって。
売れるためには「自分」を切り売りしなきゃならない場面が増えていった。
「元貴くんの好みのタイプは?」
ファンクラブコンテンツでのQ&Aコーナー。
あー最悪。一番嫌な質問が来た。
まさにタイプど真ん中の涼ちゃんはいつも通りニコニコと
「そういえば聞いたことなかったかも〜」なんて笑ってる。
なんかムカつく、と思いながら
深く考えずに
「えっと、夏が似合う人!」
と即答しちゃってから、ヤバかったかな?と俺は涼ちゃんをチラッと見る。
涼ちゃんはいつも夏大好き!と言ってて
大きな口でニッコリ笑う様はひまわりのように輝いていて、本当に涼ちゃんほど夏が似合う人を俺は知らない。
でもさすがにメンバーの、男の、涼ちゃんがタイプとは言えないから。
金髪ショートの涼ちゃんを見ながら
「髪の毛は黒で、えっと、長めの女の子!」と慌てて答えた。
涼ちゃんはどう思ってる?
全然関係ないって思ってる?
俺のタイプなんて気にもしない?
最終的には初恋の相手を当てるゲームなんて始まって
仕方ないから幼稚園の頃、ちょっとだけ仲良かった女の子の名前を挙げる。
本当はさ、俺の初恋は涼ちゃんなんだよ?
こんなにも恋焦がれて、貴方と一緒にいるためなら自分の心にだって蓋をして道化を演じることだってできるのに。
あぁ苦しいな。
歌の中ではいくらでも君に対する想いを綴れるのに。
届くことはなくっても、でも詞に載せて歌えるだけでも、俺の想いは昇華されるのに…
こんな風に嘘を吐かなきゃいけないことにどんどん心が疲弊していく。