テラーノベル
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女の子ちょんまげのタボちょん。イイワル本編並びにご本人様とは全く関係ありません。ご了承の上どうぞ!
手元にあるのは、通販で買った可愛い下着。
白を基調としたフリルがいっぱいのブラジャーは、ピンクの花が刺繍されていてとても可愛い。これを見て買ったと言ってもいい。
「……大胆、かなあ」
サイズは心配だったが、ちょんまげの控えめな胸にもちゃんとフィットしている。中の厚めのカップのおかげで谷間も出来ている。
「半分くらい、偽物だけど」
ターボーと初めてのお泊まりデート。しかし、これでは盛り胸詐欺にはなるかも……。
「いや、大丈夫。多分……うん、可愛い」
なんとか自分を納得させて、ちらっとベッドの上を見る。
ここまではいいのだ、ここまでは。
「で、パンツ……」
ベッドに置かれた、フリルのパンティ。摘んでゆっくり広げると、どう見ても紐の部分が見える。
「ティーバックなんて、聞いてないよぉ」
いや、多分ちょんまげが見落としただけなのだが。可愛いデザインのそれは穿いても可愛らしいが、尻は丸出しになる。
「……さすがに、コレはないよね……」
遊んでるように見えるだろうか? 正真正銘の処女なのだが。若くて社長でイケメンでリーダーシップがあるターボーは、とにかくモテる。どうしてチビで目立たなくて何もできない自分を選んだのか、理解できないほどに。
それでも、ターボーはちょんまげを選んだ。だからちょんまげも、少しでもターボーに釣り合っているように見えるようにしたいのだ。
大好き、だから。
「でも、これは引かれるよね……」
やっぱり、いつもの下着にしよう。いつも大人しめのデザインだが、なるべく可愛い物を選んでいるのだから大丈夫だろう。
「うん、そうしよ、それがいいに決まってる」
だいたい、泊まりだとはいえ『そういう事』がある、とも限らないのだし。パジャマパーティーで一晩明かすという可能性だってなくはない。
とはいえ、やはりせっかく買ったんだし、という思いもある。この機会を逃せば、きっと永遠にタンスの肥やしだ。
もったいない、でも恥ずかしい。
「うー、どうしよ……」
まさか、この歳になって下着に悩むことになるとは。
そんな事を考えながら、ちょんまげは一晩悩んだのだった。
旅行当日。
「寝不足?」
ラフな格好のターボーは眩しく、ちょんまげは思わず目を細めて首を振る。
「だ、大丈夫」
夏も真っ盛り、半袖から出ているターボーの腕は太く逞しい。雄のオーラがムンムンと出ている。
(やっぱり、カッコいいなあ)
見惚れていると、ターボーはちょんまげの手を握る。指を絡め、解けないように。
「今日も暑いな。倒れそうになったら言えよ?」
「う、うん」
ターボーの目がチラチラとちょんまげを見る。一応スマホと睨めっこして、オシャレには気を遣ってみた。白いシアーブルゾンと大人しめのワンピース。大人っぽいターボーに合わせたつもりだが、やっぱりどこか変だろうか……?
「……可愛い」
ぽつりと呟かれた言葉はちょんまげの耳にも入り、聞こえないフリをしながらもその耳は真っ赤になる。
「いこっか」
「うん」
ターボーの車で避暑地に向かう。忙しいターボーには一泊の旅行がせいぜいだが、あまり外に出ないちょんまげにはそれすら新鮮な経験だ。
「見て、ターボー! キレイな湖があるー!」
「おー、いい雰囲気だなー」
自然が広がる避暑地には、ポツリポツリと建物が建っている。そのうちの一つに車を駐め、二人で空気を吸い込んだ。
「んー、いい空気だな」
「緑の匂いがする」
「だなー」
建物はちょんまげの予想していた木の素朴な家ではなく、綺麗なホテルのような一戸建てだった。
「……ここ、泊まるの?」
「そ、プライベートヴィラ。完全貸切だから、裸で過ごしてもバレねえぜ」
「もうっ」
入れば広い玄関とフカフカのスリッパが二人を出迎える。
「お邪魔しまーす……」
「いや、明日までは俺たちの家だから」
ちょんまげが先に入り、ターボーがそれを追いながらニヤニヤと様子を見る。広いリビングにダイニング、大きな窓からは陽射しが降り注ぎ、きらきらと反射する水面は……
「ぷ、プールがある!」
「俺たちだけのプールだぞー」
広い庭には何に使うのか分からない道具もあり、大きな冷蔵庫には食材もある。
「これ、食べていいのかな?」
瑞々しいブドウを見ながらちょんまげが喉を鳴らす。ターボーは笑いながら一粒取り、ちょんまげの唇に押し当てた。
「いいんだよ、これもプランの内だから」
ぱくり。小さな口がブドウを食べた。もぐもぐと口を動かし、うっとりと目を細める。
「美味い?」
「んー」
「ま、調理は自分でするスタイルだから、夜はバーベキューしような」
腕が鳴るぜ、とターボーは笑う。その口に今度はちょんまげがブドウを一粒。大きな口が指ごと食べる。
「ん、美味い」
「……だよね」
ターボーは指に滴る果汁まで舐め取る。それがくすぐったくて、ちょんまげは手を引っ込めた。
「ひゃっ」
「あははっ」
子どものように笑うターボーに、ちょんまげはつられて笑う。
「さっきから、何ー?」
「いや、ちょんまげが可愛いから見飽きない」
手を繋いで次はバスルームへ。広いそこはもうお湯が張ってあり、よく見ると温泉のようだ。源泉掛け流しというやつだろうか。
「うわあ、贅沢……」
「たまにの旅行だしな」
お風呂に入れば、あの下着の出番だろうか……? 一応、荷物の中には入れてきたが。
ちょっと恥ずかしくなってきたちょんまげは、パタパタと二階へ。そこには大きなシアタールームがあり、外に続く扉の向こうにはテラスもあった。
「……せっかく自然の中にきて、映画観る人いるのかな?」
「非日常を求めてても、自然が好きな人ばかりじゃないさ」
虫も多いしな、とターボーが補足する。確かに、夏は虫刺されが多いから、それを避ける人は多いだろう。もう一つの部屋は広いベッドルームで、綺麗な花びらがハートマークに並んで、ベッドを飾っていた。
「……なんだか、新婚さんみたい」
ぽつりと呟いたちょんまげに、ターボーは「いいじゃん」と軽く言う。でも、繋いだ手が少しだけ強くなる。
(新婚さん……)
ターボーの隣で、白いドレスを着る自分。夢見ているのに、どうしてもうまくイメージ出来ない。
会社には、もっと若くて綺麗な人がいる。上手く話せる人がいる。ターボーの隣に相応しい女性は……自分より優れた女性はいくらでもいる。
(僕、やっぱりターボーには相応しくないかも……)
「こーらっ」
ぺちり。大きな両手が優しくちょんまげの頬を包む。
「変な事、考えてるだろ」
「考えて、ない」
「俺を騙せると思うなよ?」
その両手はゆっくりとちょんまげの身体を抱き締めた。密着したターボーからも、ちょんまげからも、ドキドキと高鳴る鼓動を感じ合う。
「旅行が終わるまでは二人きりなんだから。俺の事だけ考えてろ」
「……うん」
ターボーの熱を感じる。そっと離れると、二人の間を涼しい風が吹き抜けた。
「気持ちいいね」
「避暑地だからなあ」
「じゃ、お散歩しようよ」
「いいね」
ヴィラを出ると、辺りは貸切らしい。さわさわと葉擦れの音とミンミンと蝉の声が、ハーモニーを奏でている。
「蝉の声聞くと、暑い気分になるね」
ちょんまげは言うが、風は気持ちいい。木々のおかげで日陰は多いし、少し歩くと小さな川まである。
「わあ、見て! 魚いるかな?」
「えー? いるかー?」
パシャリ。サンダルを脱ぎ捨てて、ちょんまげが川に入る。
「あ、おいっ」
「気持ちいいー!」
パシャパシャと水を踏み、ちょんまげは笑う。それが眩しくて、ターボーは自分もと靴を脱ぐ。
「うわ、浅いな」
「ほら、冷たくて気持ちいい!」
「だなー」
川底の石は少し滑っていて、ターボーは滑らないように気を付ける。途端にちょんまげが視界から消え、バシャンッと音がした。
「ちょんまげっ!?」
「ありゃ……」
川の中で尻餅をついてしまったちょんまげは当然ずぶ濡れで、ターボーはひょいと抱き上げる。
「わっ、ターボーも濡れちゃうよっ」
「すぐ乾くだろ」
抱き上げたターボーもやはり濡れて、ちょんまげは申し訳なくて顔を伏せる。ターボーはそんなちょんまげを抱き上げたまま川を出て、大きめの岩の上にそっと下ろした。
「ターボー、ごめん……」
「いいんだよ、ここは会社じゃねえし、俺たちは自由だ」
脱ぎ捨てられたサンダルを、そっとちょんまげの足に履かせる。大事な物に触れるように、丁寧に。
「前も、こんな事あったよな」
「? そうだっけ?」
「ほら、ガキの頃。秘密基地の近くの川でさ」
ターボーも隣の岩に座り、木漏れ日に目を細める。
「お前、チビで女のくせに、いっつも俺たちにくっついてきてただろ」
「それ、今はセクハラ。貧ちゃんだって、一緒だったし」
「で、川で追いかけっこしてたらお前転んでさー」
だんだんちょんまげも思い出してくる。確かに、全身ずぶ濡れになった覚えがある……ような……
「で、泣けばいいのに我慢しちゃってさ、膝も擦りむいて血だって出てたのに、まだやるって言って……で、俺がおんぶして帰ったじゃん」
そうだ、あの頃はみんなと一緒にいたい一心だった。ニコちゃんと喋ったり、見てるだけという選択もあったけど、ちょんまげも貧ちゃんも、男子に混じって遊びたかった。
「そ、そうだったね……あの頃も、ターボーはまだ遊びたかったのに、先に帰ってくれたんだよね……」
その背中で、ちょんまげはようやく泣いた。痛かったとか、濡れたからとかじゃない。ただ、ターボーに迷惑をかけた事が、嫌われるんじゃないかという不安が怖かった。
「そうそう」
だが、ターボーは楽しそうに笑う。
「あの時だったかも」
「え?」
「お前の事、好きになったの」
優しい目が、ちょんまげを見ている。
「だって、あんな……嫌だったでしょ? 遊びの最中だったのに」
「まあ、最初はそうも思ったと思うけど」
ターボーの言葉は素直で、だからこそ嘘はないと感じる。
だからこそ、信用できる。
「でも、背中で泣いてるお前を、守りたいって思ったんだよ」
「……ターボー……」
楽しいはずなのに、視界が滲む。岩から降りたターボーの指が、それを拭う。
「泣くのは、俺の前だけな」
「……どうして?」
「じゃねえと、すぐに涙拭けねえだろ?」
濡れてるのに、とか思ったけれど、ちょんまげは岩から降りてターボーに抱き付く。
「僕っ、ターボーに迷惑ばっかり掛けちゃうから……」
「うん」
「でも、好きで……ターボーが、好きで……っ」
「うん」
ターボーはちょんまげを抱き上げ、ただその言葉を聞く。嬉しそうに、少し照れたように。
ターボーの服が、また少しだけ濡れる。それでも、ターボーはちょんまげを離したりしない。
「……ごめんね、ターボーの事、好きになっちゃって……」
どうしても自信が持てない。そんなちょんまげに、ターボーは笑う。
「俺も、ちょんまげが好きでごめん。そのせいで、泣かせてごめん」
ターボーはそう言って、ちょんまげに口付ける。ごめんなんて言いながら、二人とも離れたくなくて。
「……それに」
唇を離し、ターボーはちょんまげを見つめる。
「逃してやれなくて、ごめん」
その眼はギラギラとした光を宿していて、手首を掴む手は少しだけ震えていて。
「ずっと側にいろ」
強い言葉なのに、震えた手はターボーの弱さもみせていて。
「……うん」
ちょんまげの声に、ターボーはまた唇を合わせる。今度は少し深く、お互いの熱を分け合うようなキス。
「……ターボー、大好き」
「ん、俺も」
少しずつ、日が暮れていく。遮るものがない風景は、辺りをオレンジ色に染めていく。
綺麗だな。
ちょんまげがそう思っていると、静かな場所にそぐわないクラクションの音が響く。
「おーい、ターボー! ちょんまげー!」
「え?」
振り返ると、大きな車が近くの道に停まっていた。その運転席から手を振っていたのは、
「カンタロー?」
「おー、もうそんな時間か?」
ターボーはそう言って、「こっちなー」と誘導する。駐車場に並んで停まった車から降りてきたのは、カンタローと貧ちゃんだった。
「えー、貧ちゃんもー?」
「あれ、ターボーから聞いてねえの?」
貧ちゃんはそう言って、ちょんまげに手を挙げる。
「俺たちも、隣のヴィラに泊まるんだよ。せっかくだし、晩御飯は一緒に食べようってさ」
「それって、カンタローに料理してもらおうって……」
「ま、それもあるかもな」
貧ちゃんはそう言って笑う。スタイルのいい貧ちゃんはノースリーブにワイドパンツと、スッキリした服を着ている。スラリとしたボディラインだが胸はしっかりあって、ちょんまげは思わず自分の胸をちらり。
「それより、ちょんまげ濡れてるじゃん。シャワー浴びて着替えてこいよ」
「うん、ありがとう」
確かに、着替えた方がいい。ちょんまげは広い温泉の側のシャワールームでさっと身体を洗い、着替えを手にして考えた。
いつもの下着と、念の為に持ってきた、買った下着。いつもの物に手を伸ばしかけ、ふと貧ちゃんを思い出す。貧ちゃんの、胸元を。
(詐欺に手を染めるか……)
すうっと息を吸い込み、覚悟を決める。白とピンクのブラジャーを着け、辺りから肉をかき集めて収める。
「ぜ、贅肉どこ……?」
なんとか胸に谷間ができ、ちょんまげはパンティに脚を通す。可愛いデザインだ、前から見れば。
「……服着たらバレない!」
ラフなタンクトップに細身のデニムで動きやすい格好になり、ちょんまげはみんなの元に行く。プールのそばに出現したバーベキューコンロからはいい匂いが漂ってきた。
「ちょんまげー、肉焼けた……」
ターボーが皿を持ってきて、ちょんまげの前で止まる。
「あ、ありがとう」
ソースのいい匂いがする。ちょんまげは受け取ろうと手を伸ばしたが、ターボーはそのまま動かない。
「? ターボー?」
「あ、うん」
ターボーが皿を差し出し、隣に座る。
「んー、お肉美味しい」
「……」
食べているちょんまげを見つめる目は、どこか熱を感じる。
「……どしたの?」
詐欺がバレたか。もしや、ティーバックに気付いたのか。
ヒヤヒヤしているちょんまげを見つめて、ターボーはその視線のまま呟いた。
「いや、いつもはふわっとしてる服着てるからさ……」
確かに、タンクトップだけで外出などしたことがない。もしや、貧相な身体付きに困惑しているのでは……。
「似合ってる」
その一言はちょんまげの後ろ向きな心に染み込んでいく。
「こら、ターボー! サボってんなー」
向こうからカンタローが呼んでいる。立ち上がったターボーは、着ていたシャツをちょんまげにふわりと掛けた。
「え?」
「夜は虫が多いからな」
そのままバーベキューコンロに行くターボーを見送る。シャツはちょんまげにはかなり大きくて、ターボーに包まれている気分になってくる。
「ヒューヒュー」
「わ、貧ちゃん!」
「相変わらず、カッコつけだなあ。ターボーは」
「……えへへ」
嬉しそうに笑うちょんまげに、貧ちゃんも頬を緩ませる。
「それにしても、貧ちゃんたちも来るなんて知らなかったよ」
向こうでは、カンタローが下拵えした物をターボーが焼いている。それを一緒に見ながら、貧ちゃんは「まあな」と言った。
「最後の婚前旅行だからなー」
「……えっ」
驚くちょんまげに、貧ちゃんは笑う。
「なんだよ、そんなにビックリしなくても」
「え、だって、それって」
「まー、仕方なくだよ。カンタロー、しつこいから」
そんなことを言いながらも、貧ちゃんのカンタローを見る眼差しは優しい。
「ほんとに?」
「そりゃそうだろ。俺たちももういい歳だし、まあカンタローで妥協してやってもいいかなってさ。向こうだってそうだろ? 若い子にもモテるのに、わざわざ俺みたいな捻くれたのにするなんてさ。お互いとりあえず妥協しときゃ、世間体的にも悪くないし」
「……」
一気にそう言った貧ちゃんを見て、ちょんまげは笑った。心にもない事を言っている時、貧ちゃんはやたら喋る。子どもの頃から変わってない。
「カンタローはさ、妥協しなかったんでしょ?」
ちょんまげの一言に、貧ちゃんは黙り込む。そして、ちらりと視線をよこした。
「まあ、しつこかったな」
「ふふ、おめでと」
ニヤニヤしているちょんまげに、貧ちゃんは少し意地の悪い笑みを浮かべる。
「ちょんまげだって、今夜は初めての夜になるんじゃねえの?」
「……え」
「そんな胸元開いた服なんか着て、誘惑中なんだろ? 意外と大胆だよなぁ」
「え、え」
こうなると、完全に攻守交代だ。タジタジになるちょんまげに、貧ちゃんが絡んでいく。
「え、もうヤッたことはあんの?」
「まだ、だけど」
「じゃあ今夜かあ、ちょんまげも大人になっちゃうなあ」
「もう大人だからっ!」
四人は同い年の幼馴染なのに、小柄なちょんまげはいつも子ども扱いだ。口を尖らせていると、貧ちゃんはそのほっぺをつついた。
「風船みたい」
「……ターボー、貧ちゃんがイジメるー!」
思わず助けを呼べば、調理中のターボーが皿を持ったまま飛んで来た。
「こら、ちょんまげをいじめんなっ」
「別にいじめてないし。カンタロー、フルーツまだ?」
「いい感じだから、こっち来いよー」
貧ちゃんはさっさとカンタローの方に行き、ちょんまげはターボーの服を摘む。
「肉、食う?」
「うん」
皿のソーセージは熱く、ちょんまげは先だけ齧って「あちっ」と呟く。
「あ、舌大丈夫か?」
「いひゃい」
「見せてみ?」
ちょんまげは素直に舌を出す。少し赤くなっているのを確認し、ターボーは近くのコップに水を入れた。
「ほら」
「ありがと」
隣同士、すぐそばの距離。炭の弾ける音と虫の声。
「貧ちゃん、カンタローと結婚するんだって」
ちょんまげがつぶやくと、ターボーは「え、マジ?」と声を上げる。
「先越されたなー」
「とっくにずっと前を走ってる気がするけど」
ターボーとちょんまげが再会する前から、あの二人は再会を果たしていたはずだ。それからずっとカンタローがアプローチしていた事も、ちょんまげはターボーから聞いている。
「おめでとう、だね」
ちょっと羨ましい気持ちを込めて言ったちょんまげの手を、ターボーはそっと握る。
「そう、だな」
視線の先では、カンタローが飾り付けしたフルーツを貧ちゃんが食べている。飾り切りで綺麗に完成させたいカンタローのそばで、飾ったものから食べていく貧ちゃん。チグハグに見える二人なのに、息ピッタリのコメディに笑みが溢れた。
「……ターボー」
耳まで熱い。でも、伝えたい。
「僕たちも……一歩、進めるかな」
意を決して伝えたその意味を、ターボーはしっかり受け止めていて。
「……ああ」
短い一言と、力がこもった手。その意味をちょんまげもしっかり受け取っていた。
線香花火が辺りを照らし、やがて落ちる。
「あー、これで終わりだ」
最後の線香花火を手に取って、ターボーが笑った。
カンタローと貧ちゃんは、花火の最中に帰っていた。だから、ここには二人だけ。
「はい、火」
バーベキューコンロももう片付けたから、ヴィラの窓からの光と月だけがこの辺りを見やすくしている。庭は薄暗く、すぐにまた花火のノスタルジックな光が明るく照らした。
「俺、線香花火って初めてかも」
パチパチと弾く光をじっと見つめて、ターボーが言う。
「そうなの?」
「ガキの頃は花火って言えば噴き出すヤツのイメージだし、あとは見に行った打ち上げ花火、かなあ。こんなのじっと持ってるの、苦手だったし」
確かに、ターボーとキングはススキ花火を振り回しているイメージだが。
「大人になったんだねー」
貧ちゃんに言われたようにターボーに言ったちょんまげだが、ターボーは「そだな」と静かに答える。
いつまでも、子どもではいられない。
線香花火の球が大きくなる。パチ、パチと弾く音と火薬の匂い。
「あ」
球が落ちる。しん……と静まり返った庭を照らすのは月になり、プールの水面を静かに揺らす。
「プールは明日にしようか」
「うん」
花火をバケツに入れて、二人でヴィラに戻る。
繋いだ手は、少しだけ緊張していた。
シャワールームに向かうちょんまげを、後ろから抱きしめる。
「ターボー?」
「も、いいか?」
もはやワンピース状態のターボーのシャツが脱がされる。ちょっとだけ頑張った、タンクトップ。その胸の膨らみを見て、ターボーは笑った。
「今夜はセクシーだ」
「……貧ちゃんほど、魅力的じゃないけど」
つい比べてしまう。スラリと長い脚にキュッとくびれたウエスト、そして綺麗な胸。憧れても、手に入らない。
ついうつむくちょんまげに、ターボーはふにっと胸の下を触る。
「頑張ってるじゃん」
硬いパットだって、今のちょんまげの頑張ってアピールしている証だ。
「それに、俺にとって魅力的なのはちょんまげだけ」
「ターボー……」
少し屈んで、その額にキス。そのまま頬に、唇に。
「シャワー……」
「そのままベッド行く」
軽い身体をひょいとお姫様抱っこし、ターボーは階段を上がる。揺れていたちょんまげは、何かを思い出して笑った。
「ん?」
「再会した時の事、思い出した」
それは、ターボーにとっても忘れられない思い出。ある雨の日の事だった。
アメリカで起業して、ようやく軌道に乗ってきた頃。
ターボーは、何度か日本に戻っていた。
表向きは里帰りだが、本当の目的は違う。
(そろそろ、日本にも支社が持てればな……)
そんな野心を燃やしていた頃だった。
そんなある雨の日。深夜の街を車で走っていたターボーは、ふと歩道を歩いている女性に気が付いた。
(あー、なんで傘さしてねえんだろ)
海外では意外と普通の光景だが、日本では傘をさす人の方が多いのに。ワンピースは濡れて体に張り付き、女性は俯いたまま歩いている。
(いるよなあ、悲劇のヒロインに浸ってる女)
信号は赤、車は止まっている。都会の夜、彼氏と喧嘩でもしたのだろうか。そんな事を考えていると、車の横をその女性が追い越した。
(……まさか、家出少女とかじゃねえよな?)
意外と小柄な姿に、ターボーはふと不安になる。知らない少女がどうなろうと、ターボーには関係ないはずだ。しかし、考えるよりも先に身体が動いた。
「おい、どうした……」
車を降り、その腕を掴む。俯いていたその顔を見た時、ふと自分の背中で泣いていた初恋を思い出した。
「……ちょんまげ?」
「……え?」
彼女は涙を溜めた目を瞬かせる。その肩が細かく震えていて、冷たい腕を掴んだまま車に引っ張り込む。側から見れば、誘拐に見えたかもしれない。しかし、そんな事はどうでも良かった。
「うわっ」
簡単に連れ込まれたその女性は、やはりちょんまげな気がする。何か拭くものを、と車に乗せていたタオルを取って頭を拭くと、不信感満載の視線がターボーを突き刺した。
「あの……」
「俺、小山隆弘。ターボー。覚えてるか?」
これでちょんまげじゃなかったら、とふと思ったが、彼女は小さな声で「ターボー、なの?」と返してきた。
「おう、そうそう。久しぶり!」
なるべく明るい声で、タオルにかける力は優しく。髪を、頬を撫でていくと、白かった顔色がほんのりと色を取り戻す。
(良かった)
そうは思ったが、濡れたままでは風邪も引くだろう。服を買うにも、もう開いている店も少ない。
パパーッ
クラクションに急かされ、ターボーはシートベルトを締めて車を出す。
「ちょんまげ、シートベルト」
「……」
黙ったまま、ちょんまげもシートベルトを締めた。窓の外は次第に暗くなり、人通りも少なくなっていく。
「家まで送る。どこだ?」
鷹里小学校の近くまで行けば、助手席のちょんまげが小さく首を振った。
「……帰りたく、ない」
何度か、こういうシチュエーションには遭遇してきた。ターボーがアメリカで社長をしていると知った女は、酔ったふりをしたりボディタッチをしながらそういうセリフを言ってきた。
しかし、ちょんまげは違った。本気で家には帰りたくない、そういう意志を感じた。
「……ホテルでいいか?」
ハンドルを切り、街中へと戻る。黙っていたちょんまげは、ぽつりと呟いた。
「……ありがとう」
「気にすんな」
早く部屋に入れたい。そうすれば、風呂に入って温まれる。濡れた服を脱げば、浴衣なりなんなりが着られる。そうすれば、きっと泣かなくてよくなるはずだ。
「……さっきね、病院に行ってたんだ」
ちょんまげの言葉を、ターボーは黙って聞く。その方が、きっといいと思うから。彼女のペースで話してほしかった。
「お母さん、死んじゃって……」
涙声が混ざる。その肩を抱き締めたくなるが、今は運転中だ。グッと我慢する。
「今、葬儀屋さんに家まで送ってもらって……でも、見たくなくて、怖くて、出てきちゃったんだ……ダメだよね、僕。親不孝な娘で……」
ぽたりぽたりと涙が溢れる。場違いなのは分かっているが、ターボーにはその雫が綺麗に見えた。
「でも、どうしたらいいのか、もう分からなくて……」
「大丈夫だ」
ビジネスホテルに車を駐め、ターボーはその雫を拭う。
「俺が手伝う。遠慮なく頼れ」
「でも、ターボーに迷惑かける……」
「迷惑なら言わねえ。だから」
シートベルトを外し車を降りたターボーは、助手席側の扉を開ける。
「お前を守らせてくれ。あの頃みたいにさ」
差し出した手。ちょんまげの小さな手が、怖々と指先を乗せる。
「僕、寂しくて……ひとりぼっちに、なっちゃって……」
「一人じゃない。これからも」
お姫様抱っこをして、ホテルのツインルームに連れて行く。軽くて冷たい身体を少しでも温めたくて、熱を分け与えたくて。
部屋のシャワーを浴びさせて、備え付けの部屋着を着せる。狭い部屋で男と女、しかしそれぞれのベッドで身体を休める。
布団から出たそれぞれの手は、しっかりと繋がれたまま。
「あの頃から、ずっとターボーに頼ってきた。守られてきた。だけど、僕だってターボーの隣を歩けるようになりたいんだ。……好き、だから」
「それで、背伸びしてこれか?」
胸元に目をやり、ターボーが笑う。
「……詐欺、だけど」
「いいんじゃね? 可愛いからさ」
寝室に入ると、ハート型の花の中央に下ろされる。スリッパを脱がせ、ターボーはちょんまげにキスをする。タンクトップとデニムを脱がされると、白い下着が晒された。
「大胆だな、お尻」
ひっくり返され、ちょんまげは恥ずかしくてクッションに顔を埋める。ぷるんとしたお尻を撫でて、ターボーはそっとキスを落とす。
「可愛い。桃みたい」
「……やめてー」
小さな声に、ターボーは笑ってちょんまげを仰向けにする。そっとブラジャーに手を伸ばし、少しだけ跳ねた肩に目を細めた。
「怖くないか?」
「……ちょっとだけ」
ちょんまげが素直に言うと、ターボーはそっと足の指を舐める。
「なるべく、優しくする」
「なるべく?」
「嘘は言わねえ。お前には」
その目はもう猛々しく、その中にも熱い愛を感じて。
「愛してる、ちょんまげ」
「僕も、ターボーを愛してる」
そっと夜の帳が下りる。美しい月の光だけが、二人を見守っていた。
朝、ゆっくりと温泉を堪能し、ターボーが作った簡単な朝食を摂る。
「ちょんまげ、プールは?」
「……むーりー」
痛む腰に介護されっぱなしのちょんまげは、唇を尖らせてターボーに文句を言った。
「これじゃ溺れちゃうよ」
「ちゃんと抱っこしてやるぞ?」
「だーめー」
結局プールサイドのデッキチェアに座らせてもらい、ターボーはプールに入る。時々ふざけたターボーがちょんまげの方に水を弾き、笑いながらちょんまげはそれを手で防ぐ。
「あー、泳いだ」
「お疲れ様ー。ねえ、ターボー、水ー」
「はいはい、お嬢様」
今日は思い切り甘えてしまおう。ちょんまげの小さな一大決心を、ターボーもしっかり理解している。
「パイナップルジュースでもいいかー?」
「うん、ありがとう」
ワクワクしながら待っていると、大きなグラスに並々とジュースを注いだターボーが現れる。トロピカルな花を付けたカップルストローを挿したそれを、ちょんまげの前に置いた。
「うわ」
「お待たせ〜」
それぞれがストローを咥え、そっと吸う。冷えたパイナップルジュースの甘さが喉を潤していき、ちょんまげは思わずため息をついた。
「美味しい」
「だなー」
なんてことのない休日、特別な人と特別な場所で。
「……幸せ、だなあ」
小さく呟いた声は、しっかりターボーにも届いている。
「また、来ような」
「うん」
「毎年、夏に」
「うん」
いつか、特別な夏がいつもの夏になるだろう。
日が暮れて、日常が近づいてくる。
その前にと合わせた唇は、夏の味がした。
コメント
1件
わあ、読み終わりました…すごく素敵な夏のひとときでしたね🌷 ちょんまげちゃんの下着に悩む感じとか、ターボーに釣り合いたいと思う気持ちの描写がすごくリアルで、胸がぎゅっとなりました。お互いが「好きでごめん」って言い合うところ、あれ本当に良かった…優しさと切なさが混ざってて。幼い頃の思い出が今につながっていくのも自然で、あったかい気持ちになりました。続きが気になるというより、この一編でちゃんと一つの宝物みたいな物語になってて、読んで良かったです🤍
21
ハイハイ
30
はるき
69