テラーノベル
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「それで、これは一体どういうことなんですか!」
船はなんとか陽が落ちる前に『竜の帝国』の港を出航。
小さな窓のある薄暗い船室に案内された私は、リューと二人きりになってすぐに彼を問い詰めた。
ローサがこの部屋の前で見張りをしてくれているので聞こえてしまわぬよう出来るだけ抑えた声で。
カネラ王子は私たちをこの部屋に案内すると「じゃ、ゆっくりしてね~」と手を振りどこかへ行ってしまった。
彼には別の部屋がちゃんと用意されているのだろう。
と、リューはきょとんとした顔で私を見上げ答えた。
「だから、俺もコハルと一緒に砂漠の国へ」
「そうじゃなくて! ……や、それもそうなんですが、なんで身体が小さくなってるんですか!」
とりあえず一番気になっていたことを口にする。
「ま、まさか、それが本来の姿とか言わないですよね!?」
先ほどそんな疑念が頭を過り私はひとり青ざめた。
(もしそうだとしたら、なんか色々とマズイ気がする……!)
「あぁ、これか。俺も初の試みだったんだが、翼を出すのと同じ要領で魔力を調節したら出来てな」
なんでもないことのように言われて軽く眩暈がした。
でも初の試みだったということは、やはり本来の姿は大人の方のリューなのだろう。そこはホっとする。
「本来の姿にも戻れるぞ。そら」
言うや否や、目の前の少年が急に大人の姿に成長してびっくりする。
「コハルはどっちの俺がいい?」
目線の高くなった彼に艶っぽい目つきで見つめられてドキっと……してる場合ではない。
「誰かに見られたらどうするんですか!? すぐに戻ってください!」
「そうか?」
少し残念そうに再び少年の姿に変化した彼は自分の姿を見下ろしながら言った。
「まぁこの姿なら俺が竜帝だとはバレないだろうからな。これで一番側でコハルを守れる」
(うぐ……っ)
こちらを見上げ、にっと笑った彼に不覚にも胸がきゅんとしてしまった。
7年前リュー皇子がこんなふうに笑うことは滅多になくて、だからその分たまに見せてくれる笑顔の破壊力は半端なかった。
(でも、いま中身は大人のリューなんだし)
「守るって、そのためにお城を出てきたんですか?」
「ああ。やはり心配だったのでな」
はぁと溜息を吐く。
心配してくれるのは有難いし、リューが傍に居てくれたら確かにとても心強い。
でも、どうしても素直に喜べない。
(きっと今頃お城は大変なことになってるだろうし……)
「もしかして、昨日からそのつもりだったんですか?」
「昨夜コハルが言っただろう。俺と離れるのは寂しいと」
「!? 私そんなこと……!」
言ってません、と言いかけてハっとする。
――離れて寂しいのはリューだけじゃないです。
(言った……)
自分の発言を思い出して、またこれかと私は頭を抱えたくなった。
「そのときに、ついて行こうと決めた」
「そうですか……」
「それに、もし万一コハルに何があったら、俺は城に残った自分を許せそうにない」
その真剣な声音を聞いて、結局私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
もう一度小さく息をついて、ずっと抱っこしたままだったメリーを壁際に設置されたソファの端っこに寝かせる。
(明日、メリーが起きたらまた大変なことになりそうだなぁ)
メリーは7年前のリューを知っている。
だからきっと弟なんていう嘘はすぐに見破られてしまうだろう。
――と、そのときだ。
「うわっ」
船がぐらりと大きく揺れて私は慌ててメリーの隣に座り込んだ。
「大丈夫か、コハル」
「は、はい」
しかしすぐに次の揺れが来て、私は危うくソファから滑り落ちそうになったメリーを膝の上に抱っこした。
「やはり結構揺れるな」
言いながら、リューは難なく小窓の方へと歩いて行き、そこからもう暗い海を覗き込んだ。
(そうだった。これから数日間この揺れと付き合わなくちゃいけないんだ)
思い出したかのように胃がムカムカとしてくる。
マズイ。船酔いしたら癒しの魔法をかけてもらおうと思っていたメリーはぐっすりお休み中。きっと朝まで起きてはくれないだろう。
「ごめんなさい。リュー」
「コハル?」
「私、やっぱり、ダメそうです……」
そう言い残し、私はメリーを抱き枕にしてソファに倒れ込んだ。
リューの心配そうな声が聞こえたけれど、私は全ての感覚をシャットアウトするため無理やり眠りに入った。
――そして。
「なぁーーーー!?」
間近で聞こえたそんな大声で私は深い眠りから引きずり出された。
「な、なな、なっ、な」
「メリー……?」
壊れた目覚まし時計のような妙な声は確かにメリーで、どうしたのだろうと起き上がろうとして自分がハンモックに寝かされていることに気付いた。
昨夜、眠ってしまった私をリューが運んでくれたのだろうか。
船内で寝るときは基本ハンモック。これは7年前に得た知識だ。
普通のベッドや床で寝ていたら大きな揺れが来た時に転がってしまって危ないからだ。
小さな窓からは淡く光が差していて、もう夜が明けたのだとわかった。
と、メリーは私のお腹あたりからぴょーんと空中に飛び上がると、私の隣をびしっと指した。
「なんでこいつがいるのですかーー!?」
そこにはうずくまるようにして小さなリューが眠っていて、私は漸く理解する。
(やっぱ即バレだよね……)
と、もぞもぞとリューが動き出した。
「うるさい……コハルが起きてしまうだろう」
そう言いながら金の瞳がゆっくりと開いて、私を見た。
「ああ、コハル。起きていたか。具合はどうだ?」
「すみません、運んでくれたんですね」
「一度元の姿に戻ってな。おはよう、コハル」
そうしておでこに優しくキスを落とされて、何とも言えない気持ちになる。
「……その姿で、こういうのは止めてください」
「なんでだ?」
「なんでって……」
「おいこら無視すんな! どういうことだって訊いてんだ!」
「貴様の魔法でコハルの船酔いをどうにか出来ないのか?」
「え?」
顔を真っ赤にして憤慨していたメリーがリューのその言葉で我に返ったように私の方を見た。
「船酔い、ですか?」
「そうなの。メリー、お願いしてもいい?」
「お、お安い御用なのですコハルさまー!」
とりあえずメリーの怒りは治まったようで、私はほっとした。
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