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# 『透明標本』
「親切週間」が始まります。
朝のホームルームで先生がそう言った。
困っている人を助けるとポイントがもらえる。
ポイントが一番多かった人は、全校集会で表彰されるらしい。
教室は少しだけ盛り上がった。
生徒「いいじゃん。」
生徒「表彰とか嬉しくない?」
そんな声が飛び交う中、prは小さく眉をひそめた。
pr「……なんか、変やない?」
隣の席のakが顔を上げる。
ak「何が?」
pr「優しさって、集めるものなんかな。」
akは少し考えてから、静かに笑った。
ak 「さあ。でも、みんな嬉しいならいいんじゃない。」
その日から学校は変わった。
消しゴムを落とせば、何人も拾いに来る。
荷物を持てば、取り合いになる。
困っている人を見つけると、みんな走る。
優しい人が増えた。
……はずだった。
でもprには、どうしても違って見えた。
誰も「人」を見ていない。
見ているのは、
ポイントだけだった。
*
ある日。
一人の生徒が階段で転んだ。
すぐに人が集まる。
生徒 「大丈夫!?」
生徒 「保健室行こう!」
生徒「先生呼ぶ!」
たくさんの手が伸びる。
その様子を見ながら、prは小さくつぶやいた。
pr 「助けたいんじゃなくて……
助けたことにしたいだけやん。」
その言葉を聞いたのは、akだけだった。
帰り道。
二人は夕焼けの歩道を歩く。
風が吹き、桜が一枚だけ舞った。
akが口を開く。
ak 「優しさが評価されるようになった瞬間、
優しさじゃなくなるんだね。」
prは何も言わなかった。
ただ、散っていく花びらを見ていた。
*
最終日。
prが階段で倒れた。
教室中が騒ぐ。
生徒 「大丈夫!?」
生徒 「先生!」
生徒 「早く保健室!」
みんなが一斉に駆け寄る。
その真ん中で、
prは小さく笑った。
pr 「……やっと、
一番ポイントが高い日になったな。」
誰も、その意味を考えなかった。
*
数日後。
全校集会。
先生は誇らしげに言う。
先生 「今年もたくさんの親切が生まれました。」
体育館に拍手が響く。
でも、
prの席だけが空いていた。
退学したらしい。
理由を知る人はいない。
みんな少しだけ驚いて、
次の日には忘れた。
帰り道。
桜はもうほとんど散っていた。
花びらは誰にも拾われない。
もう、
ポイントにはならないから。
その景色を見つめながら、akは静かにつぶやく。
ak 「優しさを数え始めた日から、
誰も人を見なくなった。」
風だけが、その言葉を知っていた。
コメント
1件
読了しました……じんわりと苦しい、でも美しいお話でしたね。 「助けたいんじゃなくて、助けたことにしたい」——この台詞が胸に刺さりました。 優しさを数えるシステムが、逆に人の心を見えなくしてしまう皮肉。 最後の花びらと退学の静かな余韻が、とても切なかったです。 短い中にぎゅっと詰まったテーマの鋭さに、ただただうまいなあと。