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紅の焼殺

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紅の焼殺

23 - 第23話

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2025年04月19日

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今日、春木桃を殺す。


スケジュールから見ても、この日が一番早くて安全だ。

だが、安全といってもこれまでの物とは違う。

なんせ、春木は元陸上部。

前の稲垣みたいにおいかけっこになったら100%勝てるとは限らない。

運動をしている男なら絶対勝てると思うかもしれないが、紅上は運動がそこまで好きではない。

振りきられる可能性もなくはなかった。


しかも、おそらく警察も目を付けているだろう。

おいかけっこの最中に警察がどこかで見張っていたりしたら、絶対現行犯で逮捕だろう。


深夜に春木を殺すので、視界が悪くてそれこそ警察の方向にいってしまう可能性も。

こうも上手く行っていて、春木が最後のターゲットとなると、とても慎重になってしまう。

いや、きっと大丈夫だろう。

なんせ日中に下見もしてきた。

おいかけっこになった時のために、多少遠くまで。


現在、時刻は深夜2時を回っていた。

紅上は終電1本前くらいの電車に揺られている。

誰かいたら不味かったが、幸い周りには殆ど人がいなかった。

春木は大学から少し遠くに住んでいる。

紅上の家から2駅程度離れているため、こうやってリスクを取って公共交通機関を使っているのだ。

正直夜2時に徘徊してる方が職業質問されるとも思うが。


1駅経過。

ここで紅上の車両に一人女性が乗ってきた。

女性が着ている服を見て、紅上は声が出そうだった。


彼女の服は警察官の制服だった。


電車の巡回で乗っているのか?それとも別の事件?

いや、取り敢えず落ち着け。

ここで変に動揺してはいけない。

そう思いつつ、その婦警の様子を伺うと、

婦警は汗を垂れ流しながらうつむき、荒い呼吸をしていた。

紅上よりも婦警の方が動揺している。

どうやらこちら側を見る余裕はないようだ。

電車内は安全そうか。


2駅経過。

つまり、最後のターゲットを殺す舞台に到着したのだ。


あの婦警も同じ駅で降りた。

もしや紅上の犯行を予期して見張りをするのか?

だとしたら動揺しすぎだ、人選を間違えている。

ともかく、警察も全てが脅威じゃないと分かった。

とはいえ脅威も多数だろうが。


改札を通る。

駅から歩いて10分。

俄然、周りには誰もいない。

閑静な住宅街に、紅上の足音が響く。


暫く歩き、この角を右に曲がれば春木の家に着くといった所で、足音が増えた。


予定より少し速いが、これで終わらせよう。

紅上は、春木に向かってナイフを。






春木桃は、中学時代に所属していた陸上部で幾つかの大会に出場し、いずれも好成績を記録した。

それにより推薦入学といった形で坂ノ束大学附属高校に一足先に入学が決定した。

その猶予を使い勉強した結果、坂ノ束大学指折りの難関、国際学部に入学することができた。

中学高校ともに部活三昧であった春木は、陸上部がない坂ノ束大学に来ても運動し足りず、ジムを3つくらい掛け持ちして運動している。


今日もその内の1つのジムに向かっていた。

最近は夜遅くまでジムに通っていて、友達から「ジム狂い」と呼ばれている。

そして、春木は今ジムから帰路についていた。


この時間帯にはよくあることだが、春木以外の人間の姿が全くない。

だから、通行人を避けるための読み合いを制する必要もないし、信号を律儀に守る必要もない。

こういうことをしなくていい時間帯である深夜が、春木にとって最も平和を謳歌できるのだ。

しかし、そんな平和も一瞬にして崩れ去る。


家に着くまで秒読みといった所で、春木の背後に何かが近づいてきた。

物凄い勢いだ。春木の脳裏に、中学の頃の大会が浮かぶくらいには。

大会と1つ違うのは、命が減るか減らないか。

無論、減るのは今日行うものだ。


これが人間の本能か、走ってくる不審者の男を避けるため、春木は家と逆方向に走り出した。

これにより、命懸けのおいかけっこが開幕する。


人目がないのは自分が変な奴と思われないから僥倖か、いや通報がないから不幸か。

とにかく足と腕を動かす動かす、ペースを気にする選手じゃないぞ私は、走れ走れ全力で。


いつもの通学路を走っているので、春木が有利なはずなのだが、男の方も迷わず遅れず走ってくる。

ただの全力疾走で振りきれるわけではないだろう。ただ、警察が来るまで耐久する。


全力疾走も疲れてくるものだ、少し速度が落ちてきた。

それは男も同じらしく、双方の速度が落ちているのが感じられる。

中学高校の頃は顧問に怒られてたなぁ、あの頃は選手としての私だったから。


でも今は選手としての春木ではない、一人の女性としての、被害者としての春木だ。

息が苦しくて、酸素を求めてまた走り出した。

酷い走りだと自分でも思う、でも今は選手じゃない。

細かいことを気にせず、本能に身を任せて走れる。


自分でも可笑しいと思うが、この状況に喜びを覚える自分がいた。


思いのまま全力で走る。最高だ。


春木は、溢れんばかりの闘志を身に宿らせた。


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