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『やぁ、お疲れさま』
深夜2時、残業が終わらずこのまま会社で寝るかとディスプレイを睨んでいると頬に暖かい缶が押し当てられた
「…先輩、なんでここに、?」
テリー先輩はたしか7時くらいには上がってたはず…そう思って振り返るとすこし上気している顔ととろりと溶けている瞳から「飲んできたのか」と推察ができた
『ん、飲んだ帰りに、かいしゃにいえの鍵忘れたのにきづいたから、もどったら、きみがいた』
少し首を傾げながら、自分の中で言葉を整理するように話す姿は昼間のちゃけて明るい雰囲気とはかけ離れていて少し意外だった
「…それでわざわざ、コーヒーを?」
『ん…なんだ、いらんのか。』
「いえ!いただきます!!」
む、と口を尖らせてコーヒーをしまおうとしてしまうので慌てて奪い取る形でコーヒーを受け取る
『ふん、…それ、まだおわらないの?』
それ、とディスプレイを指さされあと少しで完成する明日の昼に必要な資料
「あぁ、あと少しではあるんですけど…」
『あのたぬきおやじ、これ夕方にわたしたろ』
「そう、ですけど…なんで…」
『それ、ぼくが押し付けられてことわったやつだから』
「え」
どうやら、部長は定時の一時間前、4時頃にテリーさんにこの資料作成を押し付けようとして断られた為、断れないまだ新人の俺に回したようだった
『ぼくがことわらなければ…なんてみじんも思わないけど、しんじんくんが酷使されるのはさけるべき!てことで、かしんしゃい』
先輩は俺の座っている椅子をデスクから離すと前かがみの状態でPCを打ち込んでいく
資料に添付する注釈や別資料からの引用、補足事項など残りの部分をやってくれるつもりのようで目をごしごし擦りながらいつもより緩いスピードで進めていった
『この引用はあれで、ここが…これは…』
打ち込む時にぶつぶつ呟くのは癖のようで集中したい時などに頭の中を整理するために全部口に出てしまうらしい
『んむ…んー…』
手が止まったな、と思うと膝にどっかり座られ驚く
「せ、先輩!?」
『あ?うるさいぞ、頭にひびく。あと少しだからまて。』
「いやっ、あの、ひ、膝!」
『おもいってか?しょすぞ』
「ちがっ、!」
体重をかけるようにもたれかかられ、柔軟剤を使わないらしい先輩本来の匂いと、お酒と居酒屋の香りが近くによったことによって強くなる
「っ、(意外と甘い匂い、なのか…)」
『あ、よし』
このまま抱きしめてやろうか、そう腕をのばしたところで先輩はガバッと上半身を起こしてまたPCに打ち込み始める
「〜っ、!!」
行き場を失った腕はまだ腰掛けられているひざに置ける訳もなく宙をさまよった
『ふふん、おわったぞ』
羞恥と悔しさに上を向いて顔を覆っていると再び暖かい感触が戻り見るとこちらを見上げる小さな先輩
『おわったぞ』
「え、あ、ありがとうございます…」
『ふふん…ふぁー、ねむ。』
ぐーっと人の膝の上で伸びをし、もぞもぞと身動きし完全に脱力している
「…あの、先輩?」
『んぁ、?んらよ…おわったろ、』
もはや膝に横向きに座ってもたれかかっていて寝る気満々だ
「えっと、さすがに、無防備すぎでは…?」
『ふん、ぼくは酔っててもこんなことはしない。』
「そ、れは…」
『……きみは、少しタバコの苦い香りがするな。きらいじゃない。』
見上げていた顔を、胸に埋める
「せんぱい、?」
『まだわからないの?…どこまでやれば伝わる、?』
埋めたままの顔は見えないが、髪から覗く耳とうなじは真っ赤になっていて
『ぅぐ、』
「先輩は、甘い匂いですね…好きですよ、俺」
さっきしようと思ったように、腕の中にすっぽり閉じ込めてしまって
『んふ、くすぐったい、』
首や鎖骨の辺りに顔を埋めて息を深く吸う
柔軟剤とは違う柔らかく先輩らしい甘さと、少しのアルコールの匂いが肺を満たした
「せんぱい、いただいてもいいですか?」
『…どーぞ、おすきなだけ』
ふにゃりと恥ずかしそうに笑う先輩の手を引いて、会社を後にした
【つづ…くかわからない】