「うぁっ、?」
ぱーん、乾いた銃声が遠くから近くへ、僕のお腹を抉りとって通り過ぎた。頭にはてなが浮かんだ、瞬間、銃弾の通り道から激痛が響く。
「う、ぐぅ、いたい、いたいぃ……」
立っていられなくて、膝が折れて地面に蹲る。ざらざらした砂に頬を擦り付けると、にじんだ脂汗と涙で砂が顔に引っ付いていくのがわかったが、その不快感は激痛にかき消された。打たれたあばらの辺りを抑えてぐっと丸く縮こまる。広がった水っぽい赤は次第に広がって、砂に吸い込まれていく。胸ポケットにしまっていた御守りが飛び出て、赤に染まっていく。
「ぁ、おまもり、がっくん……」
思い出した、この御守りを貰った時のこと。
『刀也さん、はい!御守り!』
『向こうで挫けそうになったりとか、辛かったりとかしたらさ、これに祈ってくださいよ!きっと、きっと多分、助けてくれるはずなので!』
神社を継いだがっくんは徴兵されなくて、僕は戦場へ、がっくんは地元に残るから離れ離れになる。
『絶対生きて帰ってきてくださいね!そんで美味しいもんいっぱい食おうぜ!刀也さんの家族も連れてさ!』
「ぁ゛、がっくん…ごめ、僕、約束……」
呼吸のために横隔膜を必死に動かすと、損傷した肺から昇ってきた血が口から垂れた。血が喉に絡まって咳き込むと、口元に抑えた手に唾液と血が混ざった液体が糸を引いた。汚くて、必死に地面に手を擦り付けた。呼吸のままならない息苦しさと、痛みで頭が眩んだ。
「あ゛、うう…」
死ぬ、絶対死ぬ。最後くらい、幸せに死にたかった。戦争が終わったら、がっくんの神社で花火でもあげようかって、そんな話をした。
寂しい、僕が望んでいた最後は大切な人に見守られている風景で、乾いた砂しか広がらない風景じゃない。目を瞑って握りしめた御守りに祈る、愛した人の安全と、無念と謝罪と感謝。届かない想いがぐるぐる頭の中にとぐろを巻いていくと同時に、失血で全身がふわふわしてきた。
あー、寒い。指先の感覚が地面に溶ける、段々広がっていく。僕が滲み出して、地面に溶けていく感覚がした。身を任せて目を閉じる。
もう目は開かない。
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