9.また来世
「凛。ほんとに居たのか…」
「兄ちゃん…潔から聞いたのか?」
「潔と蜂楽が話してたのが聞こえた。もっと早く来たかったけど帰省したばっかで余裕ねぇ。」
目の前にいる弟との再会は最悪な形だった。
サッカーをするために色んな国を跨いだ。
久しぶりに帰省した去年、弟は死んでいた。
遺体は上がってない。行方不明のまま。
目撃情報もないままでは探すのは困難となり、警察も捜査を打ち切った。
2度目の再会もまた胸糞悪い。
「ふざけんなよ…ッ」
俺は凛に詰め寄って胸ぐらに手を伸ばす。
「は…、?」
「触れねぇよ。最近物も掴めねぇんだ。元々成仏しねぇのも馬鹿げた話。夢だ。忘れろ。」
凛に触れない。その事実は予想していなかった。
そうか、死んでるんだ。
「なんで、死んでんだよ。」
「…泣いてんのか?兄ちゃんが。」
言われて初めて気づいた。
「サッカー、しねぇのかよ…もう、クリスマス祝わねぇのかよ…母ちゃん達残してどうすんだよッ」
「兄ちゃんがいるじゃん。サッカーの功績も、これからの家族写真も、兄ちゃんがいる。」
凛も目が赤い。でも涙は見えない。
ムカつく。試合で負けた時以来のムカつき。
「馬鹿だ。ほんとに自慢できない弟。ムカつく。そんな顔で俺を見んな…ッ!!」
「…酷いな、兄ちゃん。そうだ、俺の死体上げてよ。潔には見せられない、こんな姿。」
凛はブランコを横切って奥へと進んだ。
俺は震える足を動かしてついて行く。
凛の覗き込む柵の奥。それを見る勇気はなかった。
でも見ないといけない気がしたから。
「…ッなんだよ、これ……」
凛かどうか分からない、そう思い込んだ。
でも真っ黒で艶のある髪、長い睫毛、真っ白な肌。手には白い花が握られていた。
誰がどう見ても、凛だ。
「あの花を取ろうとして…?」
「あぁ、馬鹿だよな。欲張りすぎた。まぁいい人生だった。悔いはねぇ。」
「…嘘つけよ、ならなんでじようぶつしねんだよ。なんで、そんな寂しそうな顔してんだよ。」
凛は目を見開いて咄嗟に顔を覆った。
「ありがとう、兄ちゃん。俺とサッカーしてくれて。俺に夢を見せてくれて。」
「……はぁ…お前を理由に辞めたりなんかしない。だから、安心して逝けよ。凛。またな。」
言いたいことは終わった。
俺の怒りも少しは収まったと思う。
凛の手をぎゅっと握ると凛も握り返した。
こう言う時は触れんのかよって笑って、その笑顔を後に俺達は別れた。
辺りはもう暗くて、泣いていてもバレない。
なぁ、凛。生まれ変わったらさ、またサッカーしような。今度は2人で、世界一になろう。
その時は優しいお兄ちゃんでいる。
約束するよ。じゃあ、
また来世__。
コメント
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来世とか言わないでよぉぉ、涙が溢れてくるぅ