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「omr」
『wki』
「今日、皆既月食なんだってさ。」
愛する恋人をあの忌まわしい四角い機械に取られた俺は、少しの嫉妬心から、唐突に若井へ話しかけてみる。
『すげぇ突然。えでも普通に気になる。元貴、見ようよ、ね!一緒にさ〜』
まんまと釣れた。しかも一緒に見ようと誘ってくるときたら。
「勿論良いよ。若井、見てる途中で寝るなよ??」
元々こいつをスマホから遠ざけるために「月食」という餌を若井の目の前に垂らしたのに、俺の思惑に気付くことなくまんまと引っかかった若井を、拒む事なく釣り上げる。ずーっとスマホだけ見てさ、俺の事なんて眼中に無いみたいにして、そりゃぁスマホにも嫉妬しますよ。
『なっ、寝ないわ!何だと思ってるんだよ俺のこと!』
俺の事を構わなかった腹いせに、ふざけてからかうと少し怒られてしまった。じと…と睨んでくる様子がとても愛おしい。何よりも、やっとちゃんと此方を見てくれたという事が1番嬉しい。
現在の時刻は思ったよりも遅くて1:30。月食が始まるまでする事もないので、ゲームでもしようかな。最近は忙しくて時間が中々取れず、一緒にゲームができていなかった。一緒に遊んだのは大分前…もう思い出せないくらい前だ。
『あ”ぁ!!元貴急いで!!もう始まってる!』
若井に知らされて時刻を見ると、既に3時を過ぎている。
「えっうそ!?やばい、ちょっと待ってて」
面白くて中毒性のあるゲームの罠にはまってしまった。こんな時間になっても全く気付かせないなんて、やはりこの機械、恐ろしいな。こんなくだらない事を冷静に考えていると、若井が遠くの方で俺を急かす声が聞こえてくる。
ゲーム機を投げ捨てるようにソファへ置き、早く早くと急かす若井の後についてベランダに行こうとバタバタ足音を立てて走る。
若井によって開かれたドアから侵入してくる空気は未だに少し湿っている。肌に纏わりつくこの生暖かい感触が俺は好きじゃない。いつになったら快適な空気になるのやらと考えながら空を見上げてみると、全身をほとんど赤銅色に染まらせた大きな満月が、ちっぽけな俺たちを見下ろすように浮かんでいた。
『え、すごくない?やばいよすっげぇ、めっちゃ綺麗…』
「語彙力どうしたのほんとに。でもすごいね。すんごい綺麗。」
『赤くなるの知らなかったかも。』
「ええ〜?知らなかったんすか若井さぁーん」
『なんだこいつ、むかつくな』
コントみたいなテンポ感で進んでいく会話が面白くて少し笑ってしまう。しかし俺に煽られて腹を立てた若井が、脇腹を肘で小突いてきた。
あまり強い力で小突かれた訳ではないため、痛くもなんともないのだが、少しからかってみたくなり、い“って!!!と大袈裟な反応をすると、
『えっ、ごめん痛かった??』
なんて真剣な顔で心配してくるもんだから、つい吹き出してしまった。真面目かよ、こいつ。
「うそうそ、全然痛くねぇよ。」
『はぁ〜?何だよちょっと心配したのに…』
さっきまでの心配そうな表情が一転。眉をひそめて怪訝そうな表情で文句を言われてしまった。
「ごめんって、ほんと可愛いなぁ若井は。俺に騙されて真剣に心配してくれちゃって。」
そう言ってから、機嫌を取るために頭をわしゃわしゃと撫でる。
『うっさいわ、騙しやがってよぉコノヤロウ!』
口ではそう言うが、俺から隠れるようにそっぽを向いた横顔を見ると、少し上がった口角と、少し紅潮した頬が隠しきれていない。俺にばれてないとでも思ってんのかな。
こんな若井を見ると、さらに愛おしさが湧き出てきて、思わず抱きしめてしまった。若井は少し驚いたように身じろぎした後、俺よりももっと強い力で抱きしめ返してきた。やっぱかっこつかないよな。俺の方がちっさいから俺が抱きしめられたみたいになる。ふざけんな、成長期の俺何してたんだよ。
2人でぴったりくっついて寄り添うだけで、身体の中から湧いてくるあったかさみたいな、安心感が心地好い。愛する人と一緒に居れる。そして一緒にくだらない事でふざけられる。そんな何気ない日常を一緒に過ごせる倖せを十分に噛み締めたい。
このまま、じいちゃんになるまで一緒に過ごそうね。ずっと俺の隣で笑ってろよ。
そんな台詞は喉の奥の方でつっかえたみたいに出てこない。未来が保証されている訳でもないし、十年後二十年後、何十年か経って、俺の隣に居た君はいなくなっているかもしれない。
でも、今、君へ向けられた愛は。俺へ向けられた愛は。今日のこの倖せは。何にも変えられない奇跡だから、俺はそれを信じて疑わず今日も明日も過ごしてく。君を忘れる日なんて、来てたまるか。いつまでも忘れずに、生き続けてやる。
この先ずっと、離してやるつもりなんて、はなから無い。
大幅に書き直しをしたら、ほとんど別の作品になりました。個人的に書き直し前よりは良くなったかなー…と思っております。