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しばらく沈黙が続いた。
水の音も止み、片付けはもう終わっているのに、咲はその場を離れられなかった。
悠真がふと、言葉を探すように口を開く。
「……だからさ。羨ましかったんだ」
「え……?」
咲が顔を上げると、悠真は少しだけ視線を落としながら続けた。
「亮のことが。……“咲ちゃん”みたいな子がいて」
心臓が跳ねる。
今、確かに“妹ちゃん”ではなく、名前を呼ばれた。
「……っ」
胸の奥が熱くなって、言葉が出てこない。
悠真は照れ隠しのように片手で髪をかきあげ、すぐに「悪い、変なこと言ったな」と笑った。
だけど咲の耳には、その声がいつまでも残っていた。