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もな
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窓に映る他人(わたし)
電車が揺れる。
そのたびに、
子どもの身体も、
小さく揺れる。
改札に入る前。
「ジュースほしい」
そう言われた。
いつもなら。
あとでね、とか。
着いてからね、とか。
少し考える。
でも今日は。
「いいよ」
驚くほど、
すんなり言葉が出た。
財布の紐が、
緩い。
自分でも、
分かるくらいに。
子どもは、
買ってもらったジュースを、
両手で抱えるように持っている。
嬉しそうだった。
その姿を見るだけで、
菜月も少し笑ってしまう。
胸の奥が、
ずっと温かい。
「ママ、見て!」
窓の外を指差す。
遠くを走る電車。
高架下の落書き。
小さな公園。
何でもない景色を、
次々に教えてくる。
そのたびに、
菜月は笑って頷く。
どう見ても。
仲の良い親子の、
休日のお出かけだった。
でも。
今日の自分には、
それだけじゃないものがある。
母ではある。
ちゃんと。
でも今日は。
女でもあった。
惹かれた男に、
会いに行く。
普段なら。
髪は、
一つにまとめる。
帽子を被って。
メイクも、
面倒だから軽く済ませる。
マスクで、
隠してしまう日もある。
でも今日は。
髪を巻いた。
メイクも、
時間をかけた。
全部。
彼に会うため。
窓に映る自分を見る。
少しだけ、
知らない顔をしている。
スマートフォンを開く。
時間を確認する。
まだ少し、
早い。
それなのに、
心臓は落ち着かない。
「いい?
今日はママのお友達と会うんだからね」
子どもに、
もう一度言う。
「うん!」
元気な返事。
「お利口さんにしててね」
「うん!」
何度も。
何度も。
言い聞かせる。
そのたびに、
ちゃんと返事をしてくれる。
巻き込んでいる。
その自覚が、
ないわけじゃない。
胸の奥で、
小さく痛む。
でも。
その痛みより。
高揚の方が、
ずっと強い。
もうすぐ。
彼に会える。
電車は、
目的地へ向かって進む。
ガタン、と揺れて。
ふと、
トンネルに入る。
窓ガラスに、
自分の顔が映る。
母親の顔では、
なかった。
知らない誰かのようだった。
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