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今、レナード様はなんて仰いました……?ヴィオラは何度も瞬きを繰り返しレナードの顔を見遣る。
そしてヴィオラだけでなく、カトリーヌやその場の誰もが呆然とした表情を浮かべレナードを見ていた。
「だから、これは浮気なんかじゃない」
「婚約破棄⁈私そんな事聞いてませんわ‼︎」
「あぁ、そうだった。本人には、まだ伝えないで欲しいと頼まれていたからね」
カトリーヌはその言葉に訝しげな顔をする。
「だが、こうなった以上は致し方ないですよね?不可抗力ですし」
レナードがそう話しかけた先には、渋い表情を浮かべている男が立っていた。
「全く、お前はどうしてこう私の言い付けを何1つ守ろうとしないんだ」
その男はため息を吐くとカトリーヌに向き直る。
「申し訳ないが、カトリーヌ嬢。レナードと貴女の婚約は数ヶ月前に破棄させて頂いている。これは、貴女の父君も了承済みだ。折を見て貴女に伝え、正式に公表する予定ではあったのだが……何ぶん国同士のこと故慎重にと考えていた。すまないな」
「父上、こちらが謝罪する理由などありません」
◆◆◆
レナードの父であり、この国の王であるマティアスは相変わらずの息子の態度に頭痛がする。
レナードは幼い頃がずっとこんな感じだ。よく周囲からは天才肌だの頭脳明晰だの囁かれていたが、その正体はただの変わり者だった。
そしてその変わり者の息子は父であるマティアスの言い付けを全くもって守らない。
決して親子関係が悪い訳ではない。今でも笑って会話をしながら食事を摂るくらいはする。だが、何が気に食わないのか、マティアスの言い付けは一斎守ろうとせず、反抗をする。
「レナード、お前は黙っていなさい。全く……さて、カトリーヌ嬢。黙っていた事に関しては本当に申し訳ないと思っている。だが、こちらとしては貴女とレナードの婚約破棄については謝罪を述べるつもりはない。レナードと婚約中にも関わらず、他の男と関係を持つなど言語道断だ。……随分とグリエット国は我が国を軽んじていると見える」
マティアスの言葉に事態の重さをようやく理解したカトリーヌは、一気に顔面蒼白になる。
「お、お待ち下さいっ、グリエットは関係ございません!私《わたくし》の、一個人の問題です!」
「貴女とレナードの婚約は元々国同士の政略的なものである以上、それで済まされない事くらいは理解されているのでは。曲がりなりにも、公爵令嬢であるのならば」
カトリーヌは元々隣国グリエットの公爵令嬢だ。友好の証として王太子《レナード》と婚約を結び、数年前この国へとやって来た。
だが、その令嬢がまさか浮気をするなど誰が想像しただろうか……。
「そんな……そんなっ、私《わたしく》はただ、寂しくて……殿下は、いつになられても、まるで私《わたくし》に興味をお示しになられなくて、ですから、ですからっ……私《わたくし》寂し、くて……うぅっ」
大粒の涙を流すカトリーヌにヴィオラは、胸が締め付けられた。カトリーヌの「寂しい」という言葉が嘘か本当かは分からない。だが、カトリーヌのこれからの事を考えると同情せざるを得ない。
ヴィオラは泣き喚くカトリーヌを見ていられなくなり、瞳を伏せた。彼女はどうなるのだろうか……。