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「いばら姫、こちらが今日から新しく入る紅薔薇姫です。」
「初めましていばら姫。紅薔薇です。よろしくお願い致します」
深々と頭を下げる。
「紅薔薇姫さん、よろしくお願いします!」
目の前の女性…“いばら姫”はにこやかに笑った。
「それでは…後は頼みますね、いばら姫。」
“店長”はそう言うと私といばら姫を部屋の外にと促した。
私は店長に従っていばら姫と共に外に出た。
私は黎明。西国のスパイだ。
今、敵国の暗殺組織の一員(恐らくベテラン)と、街の一角にあるカフェでお茶をしていた。
「紅薔薇姫さん、何注文するか決めました??」
「うーん……どれも美味しそうで迷っちゃいます」
私の言葉にいばら姫は分かります、と微笑んだ。
2人してメニューを睨み合う。
「ご注文はお決まりでしょうか」
可愛らしいエプロンを見に纏った店員さんが私達の席へと歩いてきた。
とりあえず、1ページ目の3分の2を占領している『当店人気ナンバーワンメニュー』というものを頼もうと思い口を開いた。
「「この、“当店人気ナンバーワン・オムライス”でお願いします」」
ついハモってしまい、2人で顔を見合せてくすくすと静かに笑った。
「いばら先輩……」
「へ?」
私が呟くといばら姫は素っ頓狂な声を出して此方を見てきた。
「あ、ごめんなさい…嫌でしたか??」
「いえ、嫌では無いです!でもいきなり何故…?」
「ずっといばら姫呼びはなんかアレかなぁって思いまして。他に何かいい呼び方はあるでしょうか?」
「うーん…」
指を顎に当て、首を捻るいばら姫。
「何も思いつきません…」
しょんぼりと項垂れるいばら姫に、
「んん、、でもいばら先輩はなんかあれだもんな。周りの人からなんて呼ばれてます?」
「ええと、名前で呼ばれてます」
「名前か〜…じゃあ難しいですね、、見ず知らずの女に本名は教えたくないですもんね。。そうだ!」
「?」
「“ヨル”とかどうですか?」
「へ?」
「ほら私達、大抵“夜”に働くじゃないですか!だからヨル先輩とか!」
「なるほど…ではそう呼んでください!」
ニコニコとしながら頷くいばら先輩を見ながら、レモンティーの入ったティーカップを手に取る。
「それでは私も紅薔薇姫さんの呼び方を考えなくてはですね!」
キラキラした目を向け、そう言ってくるいばら先輩に一瞬固まる。
「いえ、、わ、私は大丈夫ですよ…?」
「そう遠慮せずに!うーん…紅薔薇………red rose………レズというのはどうでしょう!」
人差し指をピンッと立て、提案してくるいばら先輩に、まあいいかと思い頷いた。
ふと窓を見ると、空は綺麗な藍色に染まっていた。
塗り潰されたような藍色の上に一点、金色に輝く半円が見えた。
「あら…もうこんな時間になってしまいましたね」
私に倣って窓の外に顔を向けるいばら先輩。
「そろそろ解散にしますか?」
「そうですね」
いばら先輩が鞄から財布を出して席を立とうとしたので慌てて止める。
「ちょ!私が払っときます!!」
そんな私にニコニコとしながら
「いやいや!誘ったのは私ですし、“先輩”なので!」
と言い、私を制した。
えっへんと胸を張るいばら先輩には、私の講義する声なんて聞こえない様で、一目散にレジへと駆けていった。
「ううっ」
外に出ると、ビュウッと冷たい風が頬を撫でた。
「わぁ!白い息が出ます!」
楽しそうに声をあげる先輩に適当に相槌をうちながら鞄から手袋を出して着ける。
「それでは、また明日」
「はい!気を付けて帰って下さいね〜」
手を振りながら私とは反対方向へ歩いていく先輩に小さく手を振り、帰路に着いた。