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夕方。太陽の半分以上が水平線の奥へと消えるように沈みゆこうとする。全員が水着から来た時の服装に戻っている。
「なんだかんだで楽しかったな」
ムツキたちはビーチバレーの後も楽しんだ。
妖精たちの開いていた海の家でご飯を食べ、目隠しをしながら大きなフルーツを割る遊びも彼から教えてもらって楽しんでいた。フルーツはサラフェの見事な剣捌きで全員分にカットされて提供された。
その後、ムツキも女の子たちも妖精たちも疲れて大きな日除けテントの下で昼寝をしたり、キルバギリーが作っていた砂のお城を皆で手伝って見事な仕上がりにしたり、おおよそ海らしいことはし尽くしたようである。
「楽しい時間ってのはあっという間だな」
「そうね。久々にムッちゃんの可愛い笑顔も見られたことだし、私は満足かな」
ナジュミネの言葉にリゥパが同意し、さらに彼女は普段以上に笑顔で振る舞っていたムツキを思い出し嬉しそうに笑う。
「可愛い笑顔ですか? ムツキさんは、モフモフな妖精さんたちか、女の子の胸やお尻かを見て、ニヤニヤしていたような……」
サラフェはジト目でムツキの方を見る。彼は思わず後ずさる。
「いや、俺だって男なんだぞ! ……かわいい女の子の顔や胸、尻くらいは見るに決まっているだろう! 許してくれ!」
ムツキが言い訳せずに素直にそう答えると、それを聞いた女の子たちは満更でもない表情でちょっと嬉しそうにそれぞれが思い思いの仕草をしている。
「別にサラフェはマスターに怒っているわけではないですよ。ただ、スタイルに自信がないので、ジロジロと見られるのが恥ずかしいだけです」
「……キルバギリー、一言二言多いです。後でしばきますよ?」
キルバギリーが場を和ませようと冗談を言うも、さすがにサラフェには嫌みに聞こえたようでギロリと彼女を見つめる。
「まあ、まあ、落ち着いて。でも、ダーリンの視線、僕はちょっと嬉しかったけどなあ。好きな人に見てもらえるって嬉しくない?」
「まあ、俺はいつも通りだから、ハビーに見られるのもいつも通りくらいだったけどな」
メイリがセクシーなポーズを取ってみると、彼女の胸にあるビーチバレーボール大の2つのモノが揺れる。コイハはコイハでムツキの視線を彼女なりに思い出して笑う。
「今日はオイラたちも楽しかったニャ」
「そうだな。砂浜をガンガン走るのは楽しかった」
「にゃー」
「わん」
「ぷぅ」
ケットもクーも妖精たちもなんだかんだでリフレッシュになったようで、今もアロハシャツを着ていた。ケットに至っては、ウクレレをポロンポロンと弾き始めている。
「みんながリフレッシュできてよかった。今日来られなかった他の皆は別の機会にゆっくりと休んでもらったり楽しんでもらったりしような」
「そうしてもらえると、ありがたいニャ!」
ムツキの提案にケットが喜ぶ。
「さて、と。じゃあ、帰るか。ってか、ユウ、どうした? さすがに疲れちゃったか?」
ムツキは先ほどから無言のユウに話しかける。彼女はやけに静かだが、寝ているわけでもなく、夕日を眺め続けた後、彼の方を向いてからすごく嬉しそうな笑顔を向けた。彼女は人一倍楽しみ、人一倍昼寝をしていた。
「嬉しそうな笑顔で何よりだ。さて帰るぞ」
ムツキがユウに【テレポーテーション】を促すも、ユウはずっと無言でニコニコと嬉しそうな笑顔を彼に向けるばかりだった。
「……ユウ?」
「旦那様……ユウはもしや……声を出し過ぎて、その……声が出せないんじゃないか?」
ムツキが不思議そうな顔をしていると、何かに勘付いたナジュミネが恐る恐るそう呟いた。
「……えっ」
ムツキが驚いた顔でユウの方を見ると、彼女はちょっと申し訳なさそうな顔と恥ずかしそうな仕草をした後に、先ほどと同じような満面の嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「あ、あぁ……そう……なのか……喉が……痛いんだな?」
ユウは嬉しそうに首を縦に振った。
「治せばいいのか? 【ヒーリング】」
ムツキがケガを治癒する【ヒーリング】を唱えるが、ユウに変化がなく、彼も治した手ごたえがない。
「あれ……え……もしかして、喉の痛みはケガじゃなくて病気扱いなのか?」
病気は【ヒーリング】で治癒することができない。病気にはそれに合わせた薬草や食材、つまり、薬効のあるものを摂取することで徐々に回復させるしかない。
これは病気とケガが別物であるという各世界共通の定義、フォーマットによるものだ。さらに、その各世界共通の定義から大きく逸脱しない程度に、どの世界もその世界の神による独自の定義がある。つまり、この世界は共通の定義に加えて、ユウの定義に準ずるのだ。
彼女が申し訳なさそうに手を合わせて、自身の顔の近くに持っていく。どうやら、かわいく謝っているポーズをして、許してほしいようだ。
「ムッちゃん、もう一仕事ね!」
「ムツキさん、お願いしますね」
「マスター、ファイトです」
「ハビー、最後までありがとうな」
「ダーリン、がんばって♪」
「ご主人、よろしくニャ」
「主様、ケットから頼むぞ」
「にゃ」
「ばう」
「ぷぅ」
それぞれがムツキを励ました。彼は一度に大人数を運べないので、【テレポーテーション】でのピストン輸送をするほかない。そもそも、まずはこの場所がどこにあって、家からどの程度離れているかを知る必要があった。
「あはは……はぁ……順番に頼む……最後までがんばるぞ……なるべく早くがんばるぞ……」
ムツキの乾いた笑いと決意が波の音に掻き消えそうなほどにか細く小さかった。