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「言いたいことは作品で示す主義でね。書き上げたら見せるよ。」
「話してくれてありがとう。よい小説ができそうだ。」
そう言って、作家は去って行った。
わたしは後ろ姿を見送ると、ナースコールで看護婦さんを呼んで、点滴を換えてもらった。
他人に話すと、心が楽になる。
でも、それは一時だけのことだ。
いつまでも過去に囚われてもいられない。
わたしは中3で不登校になり、高校受験に失敗している。
最終学歴は中卒だ。
バイトをしたこともあるけど、うまくいかなかった。
羊人間であるわたしは、人間社会にうまく適応できないのだ。
自分の無力さをアピールするだけで、見過ごしてもらえるのは学校の中だけだ。
本来、無力な羊は役立たずでしかない。
弱さで気を引いて彼氏ができたこともあったけれど、長くは続かなかった。
無力であり続けるとウザがられるし。
無力であることを売りにすると、無力でなくなった時に捨てられる。
嫌なことがあると手首を切る悪癖は治ることがなかった。
わたしには何もない。
負債だけがどんどん積み重なっていって、親に迷惑をかけながら、どんどん歳をとっていく。
わたしには先がない。
だから、一部の市販薬に向精神薬に含まれる成分が入っていると気づくと、それを大量に買って飲み干したりする。
そうして、メェメェ鳴きながら自殺するんだ。
いつもどおりに失敗し、病院に運ばれて、胃を洗浄され、点滴を打たれる。
最近はこの繰り返しだ。
あの作家はこのくだらない人生に意味を与えてくれるだろうか。
わたしはそのうち死ぬだろうけど、生きていた証が残るのなら、心残りはない。
うちの家族のことだ、引き取りを拒否して入院期間を引き伸ばしてくるに決まっている。あの作家がやってくるまで、ここでゆっくり待つことにしよう。
それから一週間後、先に原稿が届くと。
わたしはその内容に絶句し、冷や汗をかいた。
作家は数日後にやってくるらしい。
あのペテン師、なんてことをしてくれたんだ!