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「「こさの気持ちも考えてよ──!」」
耳に飛び込んできたその声に、
いるまの胸がざわりと波立った。
次の瞬間、
気づいたら足が勝手に走り出していた。
乱れた息のまま駆けつけた先。
視界に飛び込んできた光景に、
いるまの心臓が凍りつく。
らんとみことが必死になつを
押さえつけている。
そのなつに馬乗りになり、
震える声で怒鳴るこさめ。
そして――その背後で、
手にぎらついたナイフを構えるすち。
刃先は迷いなくなつを狙っていた。
今にも突き立てようとする勢いで。
「……は?」
思考が追いつく前に、体が動いた。
次の瞬間、自分でも信じられないほどの
速さで飛び込み、
すちの手首をがしりと掴む。
刃先が揺れて、ギリギリのところでなつの
胸から逸れた。
「っぐ……!」すちが驚きの声を漏らす。
そのまま力任せに手を握りしめ、
ナイフを奪い取り捨てる。
「……なにやってんだよッ!!!!」
怒鳴り声が響いた。
その瞬間、場の空気が一気に凍りついた。
なつを救おうとするが
(すちよりまずなつッ…、だけど3人は分が
悪すぎる。不意つかれたんだろ…
卑怯な奴らッ、なつもあんなにボロボロに
泣き出すほどのメンタルになってるから
今は実質4対1… 大人しくしてた方が
良いけどすちがナイフを持ってた
感じなつを 殺そうとしたんだろうな、、)
「今までのことはすべて俺が責任を持って
謝るから…なつを解放してやってくん
ねーか」
だが返ってくるのは氷みたいに冷たい声。
「は?解放って何?責任おうってなに?
今までしてきたことをやり返してるだけ
なんだんど?」
キレ気味にこさめが返すと
「だったら“殺す”はちげーだろ」
「ッ…、、」
「なつが家でどんな仕打ち受けてるか
知らねークセに」
「だったらこさめだってッ…こさの家のこと
何も知らないでしょ??!
お互い同じだよッ…!!」
その言葉に場の空気が凍る。
こさめの顔が歪む。
「ッ…そうだ、、俺らはお互いが……
似た大人から育てられたッただのクズだよ」
「は、ッ…」
その瞬間、こさめの瞳がわずかに揺れた。
胸を刺すような、妙な共鳴。
(…こさめと同じ?この傷、
なつくんも?)
怒りに全てを預けていた心臓が、
一瞬だけ迷いを孕む。
握る拳が震え、爪が手のひらに
食い込むのも気づかない。
「……ッ黙れよ……」
吐き捨てる声が震えていた。怒りなのか、
動揺なのか自分でも分からない。
その隙を見逃さず、いるまが踏み出す。
「なつを…解放してやってくれ。
俺がそばにいなきゃ壊れる──」
「来るなッ!」
反射的にみことが前に飛び出し、
いるまの胸を強く押し返す。
涙と恐怖で濡れた目が震えている。
「近寄らないで…!また、僕達を傷つける
気やろ…!今しかチャンスがッ…」
「 ッ!ちげぇ…」
いるまは必死に否定するが、
みことの腕は強張っていて離れない。
そこで、横にいたらんが口を開いた。
「みこと…もういい」
静かに、けれど決意を込めた声音。
みことの肩を掴み、押し止める力をそっと
外させる。
「……らんらん…」
揺れる声に、
緊張感だけが場を支配していた。
「じゃあ…これからこさめたちは
どうしたらいいのッ…!?
どうせまた虐めてくるんでしょ、
何にも変わらないじゃんッ!!」
こさめの声は張り裂けそうで、
怒りと涙で震えていた。
「それはなつの気分次第…俺ができるだけ
止める。だから…許してくれて」
必死に言葉を選ぶいるまに、らんが
苛立った声をかぶせる。
「それじゃあ何も解決に
ならないでしょ!」
いるまは返す言葉を探すより先に、
一歩なつへ歩き出した。
「ッ…とりあえず、なつを──」
その腕を、こさめが掴んだ。
爪が食い込むほど強く。
「なつくんはここで…殺したい」
「……は?」
こさめは涙に濡れた瞳の奥で狂気を
燃やし、後ろのすちを振り返った。
「すちくん、ずっと固まってないで
…殺してよ。できるでしょ?言ったよね?
こさめ失敗したら、すちくんのこと」
突き刺すような声。
すちの肩がびくりと揺れた。
「ッ…ごめん、こさめちゃん……
殺すことは… やっぱりできないッ」
「──えっ」
絶望の色が一瞬にして顔を覆った。
信じていた唯一の逃げ道を、
すちに塞がれたようで。
「ッ帰ろ? 一緒に…」
「やだっ…!納得できない!!」
その叫びを振り切るように、
いるまは力任せにこさめの手を
振り払った。
こさめの指先から、いるまの手を
掴んでいた力がゆるんで落ちる。
「……ぁ」
小さな声。叫ぶわけでも泣くわけでもなく、ただ音にならない吐息。
さっきまで「怒り」で燃えていた瞳が、
急速に色を失っていく。
唇が震えたまま言葉にならず、
ぼそりと呟く。
「…なんで、みんな…そうやって裏切るの」
足元がふらつく。すちにしがみつこうと
するけど、触れる直前で止まって、
まるでそこに透明な壁があるみたいに、
手を宙に浮かせたまま動けなくなる。
そして、そのままなつの元へ歩み寄り、
泣きじゃくる体を抱きしめる。
「……もう大丈夫だ」
「ッッ……グズッ ポロポロ」
その抱擁を見ていたこさめは、
胸の奥が焼けただれるように痛んだ。
すちに裏切られ、いるまに奪われ──
ただ、手の中から全てが零れ落ちていく。
そのとき、いるまがなつを抱きしめる
光景が視界に映り込む。
――ああ、自分が必死で求めても
得られないものを、
あの子は簡単に手にしている。
胸の奥で何かが崩れる音がして、
こさめはぽつりと笑った。
「……やっぱり、こさめは一人なんだッ」
こさめの一言がすちには聞こえ、
床をみると銀色の刃が、鈍い光を
反射していた。
すちは迷いなくそれを拾い上げると、
強く握りしめる。
震える手を自分で抑え込むように。
「……今度こそ俺が、
こさめちゃんを助けるから」
その声は小さいのに、
場の空気をすべて切り裂くように響いた。
こさめの虚ろな瞳が、僅かに揺れる。
刃先がなつの方へ向いた瞬間――
「だめだッ…!!」
いるまが叫び、咄嗟に体を投げ出した。
鋭い衝撃。
血が飛び散り、
すちの手から伝わる感触が凍りつく。
刺さっていたのは、なつじゃない。
いるまの腹だった。
「……っ、すち……守れて、よかったな」
苦しい呼吸の合間に、
震える笑みを浮かべるいるま。
こさめの空っぽだった目に、
じわりと色が戻りかけて。
その色は安堵か、恐怖か、あるいは
壊れ切った愛情か――判別がつかない。
鮮血が床に広がる。
いるまの体が力なく崩れ落ちるのを、
なつは必死に抱きとめた。
「いるまッ……! なぁ、いるま!
目ぇ開けて! ……ッ、お願いだから、
返事しよ!!」
声が掠れても、泣き叫んでも、
いるまのまぶたは重く閉じたまま。
なつは何度も、何度も名前を呼ぶ。
その呼び声にすがるように、
泣きじゃくりながら肩を揺さぶる。
「いるまっ、いるま……!
置いていくなよッ……!!」
嗚咽混じりの絶叫が、空気を震わせた。
背後で事態を悟ったらんは、咄嗟にみことの前に立ちはだかる。
「みこと 見ちゃダメ」
その一言とともに、
両手でみことの目を覆った。
「らん、、らん……?
何が起きてるの……?」
不安に震える声がこぼれる。
らんは必死に声を抑え、震えながらも電話を取り出し救急を呼ぶ。
「……あの。今すぐ……ここに……
来てくれませんか?ッ!」
冷たい電子音と、なつの叫びと、
血の匂い。
その全てが絡み合い、
場は混沌とした悪夢に
呑み込まれていった。
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クソ長くてすいません。
→350♡
コメント
1件
なぜか最終話だけが見れませんでした( ;∀;) でもとても私の癖に刺さりました!ありがとうございます!