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「俺たち、付き合いました〜!」
じゃぱぱさんとたっつんさんが満面の笑みで付き合ったというおめでたい報告をする。とっても幸せそうな表情で、見ているこっちにまで幸せになるような笑顔。
みんなの祝福の声が飛び交うリビングは、暖房をつけていなくてもとても暖かかった。
私は今、ちゃんと笑えているだろうか。
心から祝福している様に見えるだろうか。
私の恋が終わってしまった。ずぅっとずぅっと好きだったのに、私の方が大好きなのに、私の方が貴方のことを知っているのに。そんな人には見せられない様な醜い感情ばっかり浮かんでくる。
浮かんでは抑えて、それでもまた浮かんでくる。隠しておきたいのにどんどん溢れてきて、自分じゃ制御ができなくなる。
「、せっかくだからケーキ買ってきます!、」
動き出した足は自分のものでは無い様で、まるで誰かに操られている様な気さえする。
急がなくては感情のままに泣き出してしまいそうで、一刻も早くこの場を離れたくて、飛び出す様に家を出た。
(やば、)
私の行きつけの少し遠いパティスリーに着いた時、財布もスマホも忘れてしまったことに気がついた。
ケーキを買うって言ったのに、必要なものを忘れるって…どうしよう。
「のあさん」
聞き覚えのある優しい声が耳に響いた。
「しゔぁさん、」
「忘れ物してたよ、珍しいね」
彼の声色はどうしようもなく優しくて、私の心に染み込んで、抑えていたものが溢れてしまった。
「おお、どしたどした……」
もういい歳した大人だというのにみっともなく泣き喚いて、迷惑をかけて、それでも彼はまだ優しい
「車で来たからさ、中入って待ってて。俺はケーキ買っとくから」
ああ、この人は一体どこまで優しいのだろう。
陰からみんなを支えている彼は本当に同い年なのだろうか。
じゃぱぱさんへの想いとか、たっつんさんへの嫉みとか、自分の情けなさとか、いろんなものが胸の中でぐちゃぐちゃになって、
絡まったものを解こうとしたら余計に絡まって、自分じゃ手がつけられなくなって、
そんな情けない私にも優しさを向けてくれて、ますます自分をみっともなく思う。
「どう?少しは落ち着いた?」
今、私に向けられている声までもが春風のように柔らかい。
「はい、お陰様で…」
「それは良かった笑。家に帰るけど…いい?」
「大丈夫です。……ご飯の後、話を聞いてもらってもいいですか、?」
「りょーかい」
図々しいお願いをしたにも関わらず、不敵な笑みを浮かべながら答える彼。
その後は会話こそ無いものの、とても居心地の良いドライブだった。
「「「おかえり〜」」」
「のあさん財布忘れとったで笑。きぃつけてな」
「へへ、ちょっと焦っちゃって…。しゔぁさんに感謝ですね」
平常心、平常心。たっつんさんには沢山助けられているんだから。恩を仇で返すような真似だけは避けなくちゃ。
「ピザ頼んだんだ〜!」
「早く食べようよ!!」
「ちょ、俺らまだ手も洗えてないんだから」
そう、いつものシェアハウス。昨日と何も変わらない。私も変に意識しなくていいんだから。
「私、着替えてきますね」
少し、少しだけ心が騒がしいだけ。
「「「いただきまーす」」」
ピザにチキンにケーキ。まるでクリスマスのような豪華な食事が並んだダイニングテーブル。
いつもだったら太るからと控えめにするジャンクフードも、今日は沢山食べた。
空いた穴を塞ぐように、乾いた心を満たすように。
みんなの楽しそうな声が飛び交う、幸せな空間。
そんな中に1人だけ、邪な感情を持ちながら、恰も祝福していると見せている悪いやつがいる。
そんな事実が私の心を抉った。
夜も深まった頃、しゔぁさんの部屋へ向かった。
慎重に、音を立てないよう、誰も起こさないように。
「お、来た」
「遅くなっちゃってすみません…」
「大丈夫。俺も夜更かしできる口実できてラッキーだし」
「俺は何時まででも大丈夫だからさ、ゆっくりでいいよ」
彼の優しさが、夕食で抉られた傷をそっと包んでくれた、様な気がした。
「いえ、もう話させてください」
わかった、と頷く彼。色々な感情の変化があった中で、変わらない人がいるととても安心できる。
「私、ずっと前からじゃぱぱさんのことが好きで、ずっと片思いで、それで…」
「私の方が早く好きになったのにッッッ、私の方が好きだったのにッ、」
ああ、どうしよう。さっきも泣いたのに。止めようとすればするほど涙は溢れてきて、私の意思なんか関係なく流れていく。
「私ッ、たっつんさんに八つ当たりしちゃう…」
「なんにも悪くない人に八つ当たりしちゃいそうでッッッ、怖くって、」
「おいで、」
両手を大きく広げて、私の全てを包み込んでくれる、大きな存在。
大きいけれど、不思議と威圧感はなくて、寧ろ安心感に包まれる。
その後は覚えていない。ただ、ずっと涙が止まらなかった私に、そっと寄り添ってくれたと言うことは覚えている。
「もう大丈夫?」
「はい、ご迷惑をおかけしました…」
「いいってことよ、笑」
「のあさんも、あんま無理しすぎんなよ」
その時、新たな恋の音がしたのはまた別のお話。