子鳥のさえずりと共に、みおは起床した。昨日飲んで騒いでそのまま寝てしまったようで、食べ散らかしたゴミが片付いていない。
カーテンは開いたまま。こたつの中で寝ていたので、こたつの外に出た瞬間、信じられないほど寒かった。
ゆうは着替えたのか厚手のパーカーをきてすやすやと眠っている。最近はずっと薄い半袖だったのに、さすがに寒かったのだろうか。
みおはダルい体を起こし、立ち上がる。不意に窓の外を見る。その時見たのは、まるでゴミ箱をひっくりかえしたような有様の世界だった。
転倒した車、折れた電柱、落ちた鉄骨。不思議にも救急車やパトロールカーは来ていない。
まるでここで壮絶な戦いでも繰り広げられていたんじゃないか。そう思えるほどに荒れた世界は酷い有様だった。
人がいない
みおはすぐに3人を起こす。薄暗く、錆び付いた部屋の中、みおの大声だけが震えていた。
「あ?んだよ。ゆうはあんまし起きんぞ」
呑気に欠伸をしながら涼乃が起床する。だが、その雰囲気も、外を見た途端一瞬にして壊れた。
「嘘だろ……」
顎の力を失ったように、涼乃の口がぽっかりと開く。
「なによ。朝からどうしたって……」
続いて凛も起き上がり、涼乃と似たような反応をする。信じられない光景に、目を見開いた。
「んん……どうかしたの?」
ゆうも珍しく素直に起き上がり、みんなが見ている方向を向く。
「わお」
ゆうは窓を開ける。ベランダに出る。身を乗り出す。そして風に吹かれる。
綺麗だ。
美しい。
冷たい、静かな風が、窓を開けたことで全員の頬を撫でる。
あぁ、これが……
「これ、マズイでしょ……」
凛が不意に呟く。涼乃も頷くが、しっかりと絶望しきれてはいない様子だった。
みおはあからさまに目を輝かせ、それはゆうも同様だった。
「すごいやんな!これ!」
「やばいことし放題やね」
能天気に2人は話し出す。
2人はキラキラとした目で凛を見る。凛はそれに呆れ顔で返す。
「……外、出てみる?」
「みる!」
こういう時だけ反応が早く、素直なのだ。凛は溜息をつきながらコートを羽織る。
外は相変わらず寒い。というか、いつもより寒く感じるのは、人がいないせいだろうか。
「うわぁ。なにこれ」
涼乃が唸る。
「えぐっ、すげぇ」
「これ宇宙人の侵略かなんか?」
『ピポポピピ』
相変わらずというのはこの2人、ゆうとみおとロボットも同じである。
「あんまり遠く行かないよ」
凛が言う。
「アイツらも26やのにな」
苦笑しながら涼乃が言う。
『ピボピポピー』
頷きながらロボットも言う。
「ロボット!?」
4人の声が揃うのなんて、後にも先にも今だけじゃないかと思うほどに、彼女たちは綺麗に声を上げた。
「まじ宇宙人説でてきたで」
みおが後ずさりしながら身震いする。ロボットはキョロキョロと辺りを見回す。
そして、ロボットはゆうを見たかと思えば首に腕を回し抱きついたのだ。
「なにこれ?」
ゆうが戸惑うのも無理はない。そのくらい、異様な程に抱きしめた。
「なんや可愛いなぁ」
みおが羨ましそうに1人と1台を見た。
『ピポ!ポポピピーピポ!』
その途端、ロボットの首がぐるんと回転し、涼乃の方をじっと見つめた。
「……どした?」
『殺戮モード起動』
「あ?」
驚く間もなく訪れた。
それは、いとも簡単に彼女を壊しすことが出来た。
それをほのめかすように涼乃の頬に切り傷をひとつ、小さな身体、いや、機会がやってのけたのだ。
何が起きたのか分からない。それゆえゾッとする恐怖に、彼女らはただ呆然とみているしか無かった。
「あぇ?」
「ピポ!ピポポポピー!」
涼乃の情けない声と、ロボットの褒めて褒めてとねだるような音声がただ静寂の大阪に響いた。
「救急箱!」
みおは叫ぶ。涼乃を頬を見て顔を歪ませる。
あっちでは凛が腰を抜かし、あっちではゆうがそこに落ちていた野球バットでロボットを壊す。
酷い有様だ。本当に酷い有様だ。神様がこの地球をみたら、彼女等を見たら、きっと虫けらのように扱うだろう。
でも、信じてさえいれば、許してくれるんでしょう?
『治療にお使いください』
そう音声がながれ、救急箱が壊れたロボットからでてきた。
みおは一瞥し、それから救急箱を漁る。
「これが善意やとしたら……毒はなさそう」
とりあえず、と、みおは消毒液を涼乃の傷に塗り始めた。
「そんな、救急箱とか大袈裟やって」
涼乃がまだ状況を理解できていないようで、回らない呂律を必死に動かす。
「やばいな。ここ。どうなってんねん」
冷ややかな目で壊れたロボットを見つめるゆうは、冷や汗を拭い涼乃の元へ歩いて行く。
「信じられへん。あのサイズのロボットが出す光線なんて、そんな威力は出ないはずなのに……」
凛がまだ呆然としている中、後ろの電柱の裏からまたガサガサと音が聞こえる。
その音に、ゆうはバットを構える。
何秒かの静寂の後、観念したかのように3人の人が4人の前に姿を現した。
「あれ、駿くん?大丈夫?」
ゆうが張っていた気をスッと抜き、柔らかい声で彼女らより少し若いくらいの男、駿に尋ねた。
「久しぶり、ゆうさん。あ、凛ちゃんも。この人達と一緒に来たから、俺は大丈夫」
駿の後ろに2人の女性が立っていた。
1人は肩まで伸ばした髪を照れくさそうにいじっており、もう1人はだるそうな猫背で腰まで伸ばした髪が印象的だった。
「ちょっとさ、どっか入らへん?寒いんやけど」
猫背の女性の提案で、ゆうの家へ戻ることになった。その間、何故かみおは不機嫌そうに俯いていた。
「どした?」
「なんでもない」
涼乃が聞いても、その理由は分からない。
「とりあえず帰りましょう」
凛がそういうと、彼女を先頭に、みんなが歩き出した。
不意にゆうは首をかしげ、ボソッと言う。
「なんでこんな所にバットがあるんやろ」