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#ざまぁ
にゃみ3
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鷹槻れん

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にゃみ3
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「ルイス?」
不意に背後から呼びかけられ、手に持っていた便箋を慌てて伏せる。
振り返ると、そこには親友のアレックスが立っていた。
「どうした? 彼らのところに行ったんじゃなかったのか」
「ああ、そうだったんだが……お前にこれを渡すのを忘れてたんだ。あの財務部の部長からさ」
「エンディミオンからだと?」
予想外な名前の登場に少し驚き、彼は手紙を受け取ると急いで封を開ける。
「手紙にはなんと?」
「……サファイア宮の出費についてらしい」
「出費だと? お前が戦場に出てるのに、一体何に使っているんだ?」
「いや、今は僕の妻が住んでいるはずだ」
「妻っていや……あのシスティーナの姫か」
彼の頭の中には、政略結婚をした隣国の姫である妻の姿が浮かぶ。
システィーナ王国の姫。
表向きには楽しげに笑いながらも、どこか冷え切った目をしていた少女。
「まさか姫君が予算を使いまくってるのか? 式の日に会った限りだと、そんな人には見えなかったが……」
「システィーナの王妃が子供たちの中でも一番可愛がっていた姫だ。少しの贅沢くらい構わないだろう」
「へぇ? お前にしては随分と甘いな。倹約家として有名な皇子のくせに」
「僕自身は金を使うことがないからな。それに、彼女は貢女同然でアスタリアに送られてきたんだ。贅沢くらい好きにさせてやればいいだろう。それはエンディミオンにも伝えてある」
「じゃあ、なんでわざわざ手紙を?」
「ああ、それが僕も気になって……」
言葉を濁しつつ、便箋へと視線を戻す。
数行を読み進めた瞬間、信じられないその内容に表情が固まった。
「これはまた……面倒なことになったな」
∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴
「あんたも本当にマヌケな子よね」
静寂を裂くように、甲高い少女の声が響いた。
口元を両手で押さえ、少しの音も立てないように息を殺し、棚の陰に身を潜める。
まさか、こんな時間に人がいるなんて……。
食事を抜いたせいで眠気が訪れず、なにか食べようと考えた私は食糧庫へと忍び込んでいた。
本来ならば部屋の前に立っているはずの護衛騎士は運良く交代時間だったようで、おかげで窓から抜け出す手間を省くことができた。
暗がりの中、棚を漁って手にしたのは大好物のチョコレート。
一人こっそりと隠れながらチョコレートを食べていると、突然食糧庫に人影が現れ、私はとっさに棚の陰へ身を隠した。
こんな夜中に人がいるはずがないと考えたのか、彼女たちは声量も気にすることなく話し始めた。
「ディアナ。悪いけど、私はどれだけ説得されようとも、ロゼッタ妃を裏切ることはできないわ」
耳に飛び込んできた自分の名に、思わず身体がピクリと跳ねた。
ディアナ? そんな名前の使用人いたかしら。
夜の食糧庫はしんと静まり返り、かすかなランプの明かりだけが棚の隙間を照らしていた。
その中で耳に届く会話は、いつもの何気ない使用人同士のやりとりとは明らかに違っていた。
というより、この声はもしかして……。
「エリー、私はあんたを想って誘ってあげてるのよ?」
その名前に、疑念が確信へと変わる。
2人の声のうち1人は、私の専属メイドのエリーだった。
「第一皇子と第二皇子。側室の子と、皇后の子。どちらに付くべきか、少し考えれば分かることでしょ?」
「だけど、第一皇子殿下が率いるアスタリア軍は今、北部戦争で優位に立っていると聞くし、もし戦争にさえ勝てば、第一皇子殿下は皇帝陛下から寵愛を受けることになるわ。そうなれば、きっと……」
「そうなったらなったでまた乗り換えればいいのよ。分かる? 今は皇后陛下に媚びを売ることだけを考えないと。あんたの家族だって、それを望んでるのよ?」
「だからって、ロゼッタ妃の名誉に関わることをしていい訳じゃないわ」
「ハア……相変わらず、その偽善的な性格はちっとも変わってないのね」
エリーと、ディアナと呼ばれるメイドの会話が続く度に胸の奥に冷たいものが広がっていく。
棚の影に隠れたまま、私はそっと唇を噛んだ。
鉄の味がじわりと滲み、甘いはずのチョコレートの香りさえ遠のいていく。
「偽善とか、そういうものではなくて……私はただ……」
「おバカなエリーちゃん。昔からあんたって本当にバカなんだから。私がいないと何もできないんだから、ただ素直に頷いておけばいいものを」
「…………」
「ふん、いいわ。どちらに付くべきか、よく考える事ね」
その言葉を最後に、二つの足音が遠ざかっていった。
再び訪れた静寂に、私は長く息を吐き出した。
全身から力が抜け、棚にぐったりともたれかかる。
心臓の鼓動がなおも早鐘のように鳴り続け、耳の奥でうるさく響いていた。
「やっぱり、私の味方はチョコレートだけね」
苦笑を浮かべると、、手のひらに残ったチョコレートを口へ放り込んだ。
とろける甘さが口に広がると同時に、胸の奥に残った苦さがよりいっそう際立った気がした。
∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴
「ごきげんよう、ロゼッタ妃」
「エンディミオンさん」
控えめな声で名を呼ぶと、彼はまっすぐに私を見つめたまま深々と頭を下げた。
「どうか警戒なさらないでください。……いいえ、以前お目にかかった折には、大変無礼を働いてしまいましたから当然とも言えますが」
「はい……?」
「理性を失い、皇子妃に対してあのような振る舞いをしたこと、深くお詫び申し上げます。事が済み次第、どのような処罰もお受けする所存です」
「ど、どうか顔をあげてください!」
これは夢か、まことか。
目の前で頭を深々と下げるこの男は、本当にあのエンディミオン・ボルジアンなのだろうか。
かつてはあからさまな敵意を隠そうともしなかった男が、今は謝罪の言葉を口にしている。全く理解が追いつかない。
予算の相談で財務部を訪ねたあの日から三日が経った頃、サファイア宮に来客者が訪れた。
その来客者というのが、これでもかと私に嫌悪を向けていた第一皇子の忠実なる家臣、財務部部長のエンディミオンだったのだった!
「その、本日はどういったご用件なのでしょうか」
何かまた言われるのかと心配げに尋ねると、エンディミオンは背筋を伸ばしたまま落ち着いた声で答えた。
「ロゼッタ妃にお伝えしなければならないことがあるのです」
緊張で息を呑んだ私に、エンディミオンは懐から取り出した書類を差し出した。
「ロゼッタ妃がこれまでに記されたご署名と、先日税務部に提出された書類に記されていた署名。両者の筆跡照合を行いました」
「筆跡照合……ですか?」
「はい。確かに一目見た限りではとてもよく似ていますがが、専門の者に見せれば微かな違いも分かるでしょう。それに加え、魔力探知者にも確認させるつもりです」
「魔力……」
「魔法使いでなくとも、人は皆、固有の魔力を生まれ持っているものです。この書類にも筆記の際に纏わせた筆者固有の魔力の痕跡が僅かとはいえ必ず残されているはず」
エンディミオンの言葉のひとつひとつに、胸の高鳴りを抑えられなかった。
私が向けていた視点とは、まるで違っていたから。
私は、自分に牙を向ける相手が誰なのか、そればかりを考えていた。
けれど彼は、私の言葉を信じて、私の身の潔白を証明しようとしてくれていたんだ。
どうして私のために、そこまで……。
「本来ならば、始めからこうするべきだったのです。対処が遅くなり、申し訳ございません」
確かに、彼の言うとおり書類に私の署名が記されていれば誰だって疑いなく信じてしまうだろう。そのうえ、金印までもが押されているのに、一体どこの誰が本当に私自身のものか疑うだろうか。
「ありがとうございます、エンディミオンさん……」
気づけば、自然と感謝の言葉がこぼれていた。
無礼を働かれたとはいえ、謝罪の言葉も貰ったし、彼が言ってくれなければ魔法学が浅いシスティーナ王国で育った私は、そんなことを思いつくことすらなかったはずだ。
「お礼なら、俺にではなく、ルイス皇子殿下にどうぞ」
「……どうして皇子に?」
高揚としていた胸が一気に冷え切ったように感じた。
あまりにも意外な名前の登場に、私は思わず問い返してしまう。
エンディミオンは私の言葉に目を丸くさせると、何やら考え事をする素振りを見せた後、すぐに「何でもありません」と話を逸らしてしまった。
まさか、また何か勘違いでもしているのかしら?
そう思えてしまうほど、明らかに私へ強い好感を抱いているように思えた。
忠誠を誓っているという私の夫までとはいかないが、それでもはっきりと感じ取れるほどの好意が垣間見れた。
ぐるぐると回る思考を押さえるように、咳払いを一度して、私は再度口を開いた。
「その、筆跡確認でしたよね? それでしたら、前に書いたものを探して……」
「その必要はありません。ルイス皇子殿下より送られてきておりますから」
「……はい?」
エンディミオンが懐から取り出し、私に向かって差し出したもの。
封筒の中心部には皇子の名が書かれており、裏側の右下には私の名前が書かれている。それは以前、私が夫に向けて書いた手紙だった。
「そ、それをどうしてエンディミオンさんが……!」
「ご安心ください。俺が頂いたのは封筒だけで、中身は見ていませんから」
右手を胸の前に置き、やけに目を輝かせるエンディミオンを前に、私は今にも叫びだしたい気持ちだった。
もう! そう言う話じゃないのよ!
エンディミオンがこの封筒を持っている。つまりは、この封が開けられた手紙を、夫が読んだということ。
私の書いた、即刻皇族侮辱罪に処されてもおかしくない悪意の言葉の数々を……。
「まさかお二人が手紙を送り合われる関係だとは思っておりませんでした」
「誤解です! 私たちは確かに夫婦ですが、けして良い仲とは――」
「ああ、本当に俺は大馬鹿者です。お二人の熱く繋がれた絆を知らず、何ということを言ってしまったのでしょう」
「だから……!」
「さすがはルイス皇子殿下。その妃を疑った事実、俺は一生後悔しても仕切れません……」
羨望のまなざしでこちらを見つめるエンディミオン。
何を言っても無駄だと感じた私は、そこからは何も言い返すことなくただ口を塞いだ。
「ロゼッタ妃には、どれだけ謝罪してもし足りません」
「あなたの立場で考えれば私を嫌悪するのも当然ですから。そう自分を責めないでください」
そう口にしながら、自分の言葉が苦く響いたのを自覚する。
たとえ正論であっても、相手に誤解されていた事実は決して気持ちのいいものではない。
「ルイス皇子殿下には多くの敵が付きまとっています。今回の件も、財務部に書類を持ってきた使用人が誰であったか特定できればよいのですが……税務部には日々多くの人が出入りしますし、サファイア宮は他の宮に比べて使用人が少ないとはいえ、大勢いる使用人の中から一人を見つけるのは容易ではありません」
「エンディミオンさん。その使用人のことなら、心当たりが一つあります。その件については、私にお任せいただけないでしょうか?」
「……承知しました。では、その件はロゼッタ妃にお委ねいたします」
エンディミオンは私の言葉に、一瞬驚いたように栗色の目を丸くさせたが、すぐに表情を戻して、了承してくれた。
「ありがとうございます」
「いえ。それでは、俺はこれで失礼します」
踵を返したエンディミオンが扉へと歩みかけ――ふと、思い出したようにこちらに振り返る。
「ああ、それと……このアスタリア帝国で、一番に貴女様のことを考えておられるのは、ルイス皇子殿下だと俺は思いますよ」
彼は確信に満ちた響きを帯びた声でそう言った。
……彼なりの慰めの言葉なのだろうか。
あの男が私のことを考えてくれているとは到底思えないが、それでも極限状態に置かれている今、たとえ根拠のない言葉であっても不思議と心がほどけるような安らぎを覚えてしまう。
ああ、人間というのはなんと弱いものなのだろう……。ぐすん。
∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴ ୨୧ ∴∵∴
「レア。この宮殿にディアナという名前のメイドはいるかしら?」
「ディアナ……ですか? ディアナなら、つい最近サファイア宮に派遣されたメイドです。確か、所属は――」
私の問いかけに、メイドのレアが答える。
この子は仕事ができ、要領も良い子で、余計な噂話に加わることもなく仕事場と私情をきっちり切り分ける性格。
だからこそ、彼女は今この状況で最も信頼できるメイドのひとりだった。
「そう。教えてくれてありがとう。それじゃあ、ディアナとやけに親しくしている子はいる?」
「共に新しく配属された使用人たちの中に、何人か。ああ、そういえばロゼッタ妃の侍女であるエリーさんとも親しそうでしたね」
やはり、ディアナというメイドの名前に心当たりがなかったのは気のせいではなかったようだ。
レアによると、彼女は新しくサファイア宮に配属されたばかりのメイドで、それ以前はルビー宮に勤めていたという。
ルビー宮――そこは、ヴィヴィアン皇后が住まう宮殿。皇后宮だ。
私にはこれが、単なる偶然だとは到底思えなかった。
ルイス皇子をこの世の誰よりも恨み、金印を簡単に扱える人物。
一番に思いついたのは、ヴィヴィアン皇后だった。
ディアナだけではない。改めて考えてみると、近頃、見覚えのない使用人たちが増えているように感じていた。
まさか、ヴィヴィアンが自分の息が掛かった使用人たちを送り込んだのだろうか。
使用人を増やすなんて話、私は一度だって聞かされていない。
仮にもこのサファイア宮の主人であるルイスが居ない今、管理は妻である私に全て任されているのに。
さては、小国の姫である私が偉大なる皇后陛下に逆らえないとでも思って好き勝手やっているのかしら? ……まあ、そのとおりだけど。
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