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#ダンジョン
#学園
砂塵の舞う中、南雲修一監察官と、猿渡秀麿元Aランク探索員が向かい合う。
「一応、勧告だけはしておこう。大人しく投降するのならば、悪いようにはしない」
「ははー! そう言ってガチで悪いようにされなかったヤツ、いんの? じゃあ、オレの要求は、一生女に困らねぇ生活を所望しまーす! ぎゃはは!」
南雲は「やれやれ」と首を振る。
「君みたいな者がAランクだとは。梶谷くんの件もだが、これでは査定がザルになったと言われても仕方がないな。我々、監察官の反省材料としよう」
「確かにー! オレ、Sランクはよゆーであると思ってるんでぇ!」
「ならば、試してみると良い! 来たまえ!!」
「へーい! 行きまぁーす!! 『タイフーン』!! ほれほれぇ、おっさんにはオレがどこにいるのか、もう分かんないんじゃねぇの!?」
猿渡の戦法は狡猾だった。
まず、砂漠の特性を利用して風スキルを全力発動。
即席で砂嵐を作り上げる。
元Aランクの肩書に偽りはないようで、悪くない戦法だと南雲も評価する。
「着眼点は良い。だが、それだけだ。青刀! 『凍桔梗・閃』!!」
砂嵐が起きようが、視界が悪かろうが、南雲にとっては問題ではない。
彼の得意とする氷スキルで全て凍らせてしまえば良い。
実際に、『凍桔梗』によって実に美しい氷の華が咲いていた。
「あー。はいはい。それは計算通りっすわ! はい、隙ありってねー!! 『フリージングスラッシュ』!!」
「くっ! 砂嵐の中から逃げていなかったのか!」
猿渡は本来、奇襲に特化した戦闘スタイル。
そのため阿久津から南雲暗殺を託されたのだが、奇襲を除けば一対一の決闘スタイルが彼にとっての理想形だった。
彼は相手のスキルを転用し、逆撃を仕掛けるという戦法を好む。
まず優れている点は、煌気の運用効率。
そして、相手も自分のスキルを利用される想定は、特に初見であればなかなかできないという心理的な盲点を突く。
色々とそれらしい言い訳を並べ立てたが彼がこの戦法にこだわる一番の理由は、「自分のスキルを利用されて負ける」相手を見下ろす事を愛しているから。
端的に言うと、とんでもないクズ野郎である。
腹立たしいのはそれなりの実力が伴っている事か。
南雲の作った巨大な氷の華から煌気をこれでもかと吸い出した猿渡の氷の刃は、監察官の頬をかすめていた。
「認めよう。君は強いよ、それなりに。だが、応用力が乏しい。発想も貧困。なにより心がない。それではSランクになど遠く及ばない」
「あれれ、負け惜しみタイム入っちゃう? 早くね? まだ一撃しか打ってねぇんですけど!!」
「いや、今ので充分だ。君も良い思い出ができただろう? 監察官の頬をほんの少し切ったのだから。今朝は髭剃りをしていなかったから、気を利かせてくれたのかな?」
猿渡は短気な男だった。
煽り合いは自分が圧倒的に優位でなければ愉悦に浸れない。
彼の中では自分が有利であるという確信があるのに、南雲の根拠のない余裕が気に入らなかった。
「あーあー!! もういいよ、おっさん!! 遊ぶのヤメた!! おっさんなんて、この世で一番いらねぇ生き物、今すぐ殺してやんよぉ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、アタック・オン・リコの中にいた六駆。
虫の報せだろうか。南雲の戦闘地点の方を向いて、俯く。
「どうしたの、六駆くん? もしかして、南雲さん苦戦してる?」
「いや。……なんだか、今。おじさんが不当に傷つけられた気がする!!」
「ふぇ? ごめんね、六駆くん。わたし、おじさんにもっと優しくしてあげたら良かったね。そんなに傷ついていたなんて思わなかったよぉ」
「違うよ? むしろ、今の莉子の言葉にちょっと傷ついたよ? ……よし。僕は様子を見て来よう! おっさんの矜持が守られるかの瀬戸際な予感がする!! 莉子! それから加賀美さん! ここは任せていいですか!?」
2人は「行ってらっしゃい」と六駆を送り出す。
戦うおっさんはだいたい友達。
逆神六駆、南雲を応援するためだけに現場へと『天滑走』で急ぐ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
こちら、再び南雲監察官。
彼は本気の2割も出していなかったが、ルベルバックの大気中を漂う煌気と自分の氷スキルの相性が悪いと察したため、今後に備えて猿渡を相手に実験しようと思い立っていた。
「変刃! 右手を王刀。左手を幻刀。『双刀・巌流』!!」
「なんだぁ? 刀の色と形変えただけで、強くなるってのかぁ!? まだ氷は残ってんだぜぇ? そらそらぁ!『アイシクルニードル』!!」
「『極王十字華』!!」
「はぁ? 空振りしてんじゃねぇか」
「そう見えるかね? 自分の体を見てみなさい」
「オレの健康体がどうしたよ? 生まれてから風邪引いたこともねぇぜ!!」
南雲の放った王刀の太刀筋は、確かに猿渡の体に傷をつけてはいなかった。
だが、十文字の痕が彼の体には残っており、その部分から煌気が飛散し始める。
「お、おお!? なんだ、こりゃあ!? 待てよ! 『フリージングスラッシュ』!! な、なんでスキルが出ねぇんだよ!! 『フリージングスラッシュ』!!!」
「スキルの性質にも気付けんとは。煌気を消失させられるのは初めてか? 可哀想だが、トドメを刺させてもらうよ。『幻楼雪月花』!!」
南雲は慌てる猿渡に容赦なく幻刀で斬りつける。
彼が納刀するタイミングで、猿渡の周りを雪柱が囲い込んだ。
「こいつぅ! 分身しやがった!! 本体はどこだぁ!? こっちか! くそがぁ! じゃあ、こっちだぁ!! ぎゃははは! 当たった、当たったぁ!!」
「気の毒だが、そのまま煌気が枯渇するまではしゃいでいたまえ。ここは異世界。情けは無法者よりも民を救うために使いたいからな」
まず煌気を奪い取る斬撃を浴びせて、雪と幻惑スキルを併せ持つ一撃をもって敵を無力化させる。
猿渡は単騎決戦が得意だと語ったが、南雲もまた、一対一の戦いでは無類の強さを発揮するタイプである。
その情報は2年前の月間探索員にてグラビア付きで特集が組まれていた。
猿渡が熱心に読書をするタイプだったら戦いの結末は違ったのかもしれない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「南雲さーん!! よっとぉ! お疲れ様です!」
猿渡との闘いの決着がついて数分後。
六駆が街の方から飛んできた。
「逆神くんか。やれやれ。私はそんなに頼りなかったかな?」
「いえいえ、とんでもない! なんだかおっさんの人権が侵害された気がしたので、飛んできました! こいつですね、悪の根源は! ふぅぅぅぅぅぅんっ! 『豪拳』っ!!」
「えべらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
「えっ。逆神くん? なんで殴ったの? ごめん、ちょっと分かるように説明して?」
「いや、なんかそういう流れかなって?」
南雲がわざわざ猿渡の体に傷をつけなかったのは、これから阿久津一党の情報を得るためだったのだが、それを台無しにして見せたおっさんがいる。
そんな事だから、「おっさんはさぁ」と言われるのだ。
「……か、回復しまーす」
「やれやれ。逆神くんは老獪なのか若気の至りなのか、どっちかに振ってくれるかな? どっちも出しますの欲張りパックじゃ私の頭がついていけない」
南雲の圧勝で猿渡秀麿は倒された。
その様子を上空で見つめていた者の存在に2人が気付くまで、あと数秒。