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間違えてしまった時間旅行者 柿の木七味
何がどうなってこうなったのか……
訳が分からないが、私は小学生の頃に戻っていた。 どうやら、意識というか記憶だけそのままに、小学1年生にタイムスリップしたようだ。
もし願いが叶うなら、肉体だけ体力に満ち溢れていた、高校生の頃に戻りたいとは思ったことはあるが、意識以外が過去に戻る展開は望んではいなかった。
少なくとも、幼少期の私の家はお世辞にも裕福とは言えなかったし、懐かしいとは思っても、もう一度味わいたいとは思えなかった。
そもそも、私は漫画の主人公のように見た目でモテるとはお世辞にも言い難かったし、頭脳明晰・成績優秀でもなかった。 「青春」時代は漫画のような恋愛は別の遠い国の出来事のようなものでしかなかった。せいぜい中学時代は部活が楽しかったのが、せめてもの救いだっただろう。野郎共ばかりの、年頃の男には、ある意味物足りない女っ気のない部活だったが、今思い出しても楽しかったかことは確かだ。
それに、恋愛に関しては、学生時代に縁がなかった分のシワ寄せか、社会人になってからは何人もの女とは遊び尽くしたし、何より最後に「勝利」することを知っているから、今さら学生時代にどうこう何かしたかったという後悔も殆どない。
では、その「勝利」とは何かと言うと、 私自身は美しい妻と可愛い子供がいる現在が幸せであることに他ならないからだ。妻の写真を覗き見したやつらは、口を揃えて「奥さん美人ですね。」と言うし、子供にいたっては「本当にお前の子か?」と、良い意味で誰もが疑ってしまうほどの美少女だ。
そんな「勝利」を知っているものだから、 面白くもない過去を繰り返すなんて面倒くさいとしか言いようがなかった。
現状としては、仕方なく、もう一度妻に会えるまで根気よく耐えるしかなかった。
とはいえ、何もしないのは勿体ない。
もう少し早くから習っておきたかった水泳をやり直すために、水泳教室に通うようにした。
元の世界では小学5年生から始めたが、この世界では1年生から始めることにした。
そのおかげで、中学生にまで戻ったころには、元の世界よりもたくましい身体に変わっていた。
時は過ぎて、中学2年生。
知っていたし、もう慣れていたことではあるが、クラスの女子がうるさい。 特に隣の席の三人組み。
当時の自分には、三人組みは「高嶺の花」だと思っていたが、今こうして見ると、ただ単に視野が狭かっただけだと気付く。
クラスメイトは「彼女いないの?」、「モテないやつは辛いな」などからかってくるが、当時と違って今はムカつかない。 先に述べたとおり、「勝利」を知っているから。こいつらの優越感は、野球でいえば1回表で1点リードしただけだ。
当然、妻に比べたら、「高嶺の花」だと思っていた奴らも、道端の雑草同然だった。 とはいえ、相変わらず三人組みはうるさい。
「おい、うるさいぞ。」と言ってみたが、 三人組みは逆に笑って、「キメェんだよ。」とか 「黙れよブサイク」とか言ってきて、ギャハギャハと笑って余計にうるさくなる。
いい加減腹が立ったから、私はある行動に出た。大人になった今と違い、中学生の時ならこんなことで逮捕はされないだろう。
何をしたかというと、三人組みのリーダー格の女の髪とアゴを掴んで、袋にゲロを吐くように思いっきりキスしてやった。口によだれをため込んで、その女の口の中に流し込んでやった。
実は、その女のことが昔は好きだったから……なんて理由はない。 単なる嫌がらせだ。
これで、この女はスクールカーストのトップから転げ落ちることになるだろう。周りはお祭り騒ぎだ。その騒ぎを見て、私も笑った。
案の定、次の日からは学年中からネタにされていた。
ところが、何がどうこじれたのか、しばらくしてから、その女と、その取り巻きは「責任取って付き合え」と言い出してきた。
訳が分からないが、妻に出会うまでまだ10年もある。性欲は持て余しているから、 それまでのつなぎの女としよう。
3年生になった。進路の話になり、何の楽しみもなかった高校生活を思い出す。
元の世界ではスポーツ推薦だったが、部活漬けの三年間はつまらなかった思い出しかない。そんな経験は二度とごめんだ。
私は普通に受験して、地元の高校に通うことにした。 すっかり学業のことに対して鈍っていた頭に、試験勉強は少々過酷ではあったが、何とか合格した。
卒業式当日。 卒業式も終わり、皆がカラオケやボーリングに行く行かないの話をしていた。 その時、クラスメイトのカップルの組合せが、元の世界と違うことに気付いた。なるほど、私が三人組みの一人と付き合ったことで、別の世界線に派生したのだろう。
私は重大な失敗に気付いた。
「し、しまったーーっ!」 私は叫んだ。そして、頭を抱えて呆然と立ち尽くすしか出来なかった。
そうだ、妻とは高校卒業して、就職して、仕事を通じて出会ったのだ。これでは元の世界と違うから、妻との出会いが消失してしまうではないか。
私は「勝利」が遠のいていくことを感じていた。
おわり
コメント
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寺島あおいです🤍 読ませていただきました。 「勝利」を知っているからこそ冷静でいられる主人公が、ついやってしまった過去への介入——その代償が、一番大事な未来を消してしまうかもしれないというラスト、すごく切なかったです。最初は「高校生の頃の肉体に戻りたい」なんて軽く言っていたのが、皮肉にも高校時代の出会いを失うかもしれない展開になるとは…。時間旅行ものの怖さと、ちょっとした過信が招く悲劇が上手く描かれていて、最後の「しまったー!」の叫びが心に残りました。いい終わり方でしたね。