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桃彩学園SNS部
第6話
「9月 ~山林(前編)」
9月の末日、桃彩学園の1年生は林間学校で2泊3日の研修期間に入っていた。市街から離れた山林地帯に位置する旧来の学校とキャンプ場を再利用した簡素さが特徴のこの地に彼らは来ていた。
じゃっぴ「よっしゃ!今日から林間学校だな!」
ゆあん「イエーイ!」
たっつん「これはちょいと楽しみやったんや♪」
桃彩学園の校風に従い、生徒たちは自由に班を構成して自由に自給自足を楽しむ。社、悠安、達矢らは早速、自給自足の山林ライフを楽しみ、満喫する。3人はまず昼飯であるカレーの準備をするため、カレーに必要な具材と薪を取ってきた。
えと「遅いよー。」
じゃっぴ「悪イ。」
枝美は社らを遅いと言うが、怒っている様子はない。むしろ、上機嫌だ。無理もない。彼女も林間学校が楽しみだった。
るな「お、乃愛ちゃん切るの早―い!」
のあ「うん。手慣れてるから。」
流菜は肉と野菜を手際よく切る乃愛の包丁捌きを絶賛する。2人ももちろん、今回の林間学校にノリノリだ。一方で、他からは不満も少し出てきた。
シヴァ「ネットが使えない空間てのが退屈…」
もふ「仕方ないですよ。電波が届きにくい地帯ですから。でも、この辺りはまだ使えるでしょう。明日の登山の時には使えないかもしれませんが。」
うり「ま、たまにゃいいだろ。ネットがなくても。」
柴の残念そうな声と龍宇のたまにはいいだろという意見が交差する。ちなみに、龍宇は薪割りを、柴と風太は薪を運ぶ役をしていた。その会話の後、龍宇は薪と薪割り用の斧を置いて一息つく。
学生一同「いただきまーッす!」
カレー作りを終えた学生たちは早速、仲良し同士で集まって食事にした。SNS部の面々も例外なくカレーを持って12人集まったところで食事とした。そして、カレーを食べながら何気ない会話を始める。
なおきり「さーて、もうちょいでウチの部も結成から早半年だな。」
るな「もう半年なんですね~」
えと「早いモンだよね。」
シヴァ「何かアニバーサリーの用意でもあるとか?」
なおきり「いや、特にねえけど、皆から何かないか?アレやりたいとか。」
直切は部結成半年を前に何か新しいアイディアを取り入れようと思ったが、特にこれというアイディアはないため、部員全員に聞いてみることにした。
うり「今のとこは特にねえな。俺は実質、せがまれて入部しただけだからな。」
たっつん「その割には居ついとるやんか。」
うり「まあな。」
えと「むしろ、結成前からあれだけ居着いてたんだから、何でもっと早く入部しなかったのか分かんないわ。」
ヒロ「素直じゃないよね。」
たっつん「その辺、じゃっぴとタメ張るかもな。カカカw」
じゃっぴ「おい、何で俺が引き合いに出るんだ?」
うり「全くだ。何でこのバカと一緒にされなきゃなんねえんだ?」
じゃっぴ「おい、うり坊。テメェも俺と大差ねえだろ!学年ブービーが!」
うり「ああ?テメェと一緒にすんじゃねーよ!赤点7つも取った赤点王(キング)が!」
のあ「嗚呼、もう…ケンカはやめて。」
たっつん「…エラい低レベルなケンカやな。」
ヒロ「…しょうもない。」
ゆあん「ま、良いじゃん。面白けりゃ♪」
なおきり「…じゃっぴとうり坊のはいつものこととして、どぬは今日はこっちでよかったのか?」
どぬく「うむ。俺もこちらのが居て楽しいのでな。」
たっつん「掛け持ちって大変やろ?」
ヒロ「加えて、家のこともあるのにな。」
のあ「家?」
なおきり「ああ、どぬの家、稲荷神社だからな。」
どぬく「うむ。一家揃って神社に住んでいる。」
えと「ついでに言うと、神主もしてるんだって。」
じゃっぴ「マジで!?」
もふ「それは忙しそうですね。」
どぬく「忙しいなどというものではない。多忙極まりないぞ。実際にな。」
シヴァ「どれか辞めたいとか思わないんだ?」
どぬく「それはないな。神主はともかく、剣道とSNS部は好きでやっているからな。もちろん、今後も続けるぞ。」
るな「頑張るんですね~」
どぬく「うむ。だが、家といえばヒロのも大変であろう?」
るな「そうなんですか?」
ヒロ「いや、まあ…」
なおきり「ヒロの家は金持ちだからな。まあ、その分、親が何かと接点があって面倒なんだが。」
のあ「そうなんだ?」
えと「私ら一般人には想像つかないけどね。」
ヒロ「ああ、もうその辺にしよう。家の事はあんまし持って来たくないんだ。」
「新しいアイディアを出す」という目的からは脱線してしまった。ここで、柴が別の話題を持ってくる。
シヴァ「あ、そうだ。この山林のこと、ちょっと調べたんだけど、何かとんでもないことが出てきた。」
うり「何だ?とんでもないことって。」
シヴァ「大昔も大昔なんだけど、この山々を信仰する山岳信仰みたいなのがあって、そこでは代々、山の神のために供物を捧げるんだって。」
ゆあん「へ~面白そう♪」
じゃっぴ「そうか?胡散臭えぞ。」
たっつん「で、何や?供物って?」
シヴァ「もちろん、生贄。それも若い女の子の。」
るな「え~?」
えと「ゲー…」
のあ「…ホントに?」
たっつん「ま、ありがちやもな。」
えと「何納得してんのよ?」
もふ「生贄はともかく、実際に山岳信仰というのは大昔からありますからね。事故の絶えない険しい山道や霊感が宿っているとされる山等には昔からあるんです。この山もその対象だった、ということでしょうか。」
シヴァ「多分。」
話は自分たちが今いるこの山岳地帯が霊山だったという噂で少し盛り上がってきた。ここで、社が1つ提案する。
じゃっぴ「なあ、だったらその痕跡みてえなの探してみようぜ?」
一同「は?」
えと「あんた、胡散臭いって言ってたのに興味あんの?」
じゃっぴ「ある意味、な。生贄やら山岳信仰やらがホントにあったんなら、それをちょいと調べてみたくなってよ。」
のあ「…また無茶言うんだから。」
るな「生贄儀式なんて、実際にあったら怖いですよ~」
じゃっぴ「今はやってねーんだろ?大丈夫だって。」
社は興味本位で山岳信仰や生贄について実際に現場と思しき場所に行ってみようという。消極的な女子組に対し、直切と達矢も社に賛同した。
たっつん「ええやんか。実際、面白そうやし。」
なおきり「だな。明日の自由時間にいっちょ探してみっか!」
うり「お前ら、胡散臭えのに随分ノリノリだな。」
じゃっぴ「お、ビビってんのか?うり坊。」
うり「ああ?誰がビビっかよ!」
ゆあん「ひゅー♪面白そー♪」
どぬく「うむ。興奮して眠れぬかもな。」
ヒロ「んじゃ、明日の山登りの後、だね♪」
シヴァ「今日だけは明日に備えて早めに寝ようかな。」
もふ「ですね。俺も少し楽しみになってきました。」
男子部員たちは随分乗り気になっていた。逆に、女子たちは少々飽きれていた。
のあ「はあ…何で男子ってワケ分かんないことにやる気出すんだろ…」
るな「ですよねー…」
のあ「頭痛い…」
えと「…ウチの男共ってバカばっかしだなー。」
SNS部員たちは食事を片付けて終えると、それぞれ自分たちのテントに帰って行った。乃愛は頭を抱えながら、自分が寝る予定のテントに入って心臓が鳴り止まない中で何とか眠りについた。
翌日の10月1日、登山を終えて山から下りていく桃彩学園の生徒たち。その後の予定を終え、自由時間になった後、SNS部員たち12人は集合し、教員の目を盗んで早速、山岳信仰や生贄儀式のあったという場所を探しに行った。
なおきり「ヒロ、GPSの調子どうだ?」
ヒロ「ん、大丈夫。」
えと「GPSなんか持ってるなんて、ヒロ、ホント物持ち良いよね。」
シヴァ「さっすが金持ち。」
どぬく「財力、伊達ではないな。」
ヒロ「…やめてくれ。」
直切や枝美は博文の財力やら物持ちの良さ等を称賛するが、博文本人は恥ずかしくなる。その後ろでは後続の面々が話していた。
うり「あー山道だりぃ…」
じゃっぴ「お、もうダウンか?うり坊。年の割に年だねえ♪カカカw」
うり「ああ?誰がうり坊だゴルア!」
仲間内の中間にいる龍宇と社は相変わらずケンカを繰り広げる。そこに達矢が横から止めに入る。
たっつん「お前ら、ほどほどにしとかんと目的の前に体力なくなってまうで?」
じゃっぴ・うり「あ?」
たっつん「じゃっぴ、のあちゃん怖がっとるで。」
社と龍宇は反発するが、達矢は社に耳打ちして親指で後方を指さす。その先には乃愛がいた。しかし、いつもの元気さはなく、どこか怯えた感じだった。
じゃっぴ「乃愛、どうかしたか?」
のあ「い、いや…何でも…」
じゃっぴ「そうか。でもな…」
のあ「…何?」
じゃっぴ「…無理すんな。怖かったら俺の傍に居ろよ。」
のあ「…うん。」
じゃっぴ(達矢のヤツ、よく見てんな…)
社は乃愛を見て、少し彼女を気遣った。乃愛の心配性は知っている。その上で、乃愛を安心させられる言葉を言いたかった。だが、そういうところでは社も少々不器用だ。その様子を見ていた達矢はもちろん、後続の流菜や風太らもクスクスと笑っていた。
なおきり「GPSがあるとはいえ皆、迷子になるなよ?特に悠あ…ん?」
一同「ん?」
うり「つい先まで俺の前に居たよな…?」
直切は1番に迷子になりそうな悠安にまず最初に注意を促すが、既に悠安の姿は皆の中から消えていた。
じゃっぴ「あのヤロー!」
たっつん「言っとる側から!」
苛立つ社と達矢の後ろで乃愛が1つ可能性を上げる。
のあ「まさか…神隠し?」
えと「へ!?」
もふ「そんなまさか…」
シヴァ「いや、でもこの山の話、皆忘れてないよな…?」
一同「う…」
枝美と風太は神隠しを否定するが、柴が昨日話したこの山一帯が山岳信仰の対象だったことを忘れていないかと聞かれるとゾッとした。
ゆあん「はっはー♪」
一方、皆の元を1人離れた悠安は早速、山林地帯をあちこち散策した。蝶や赤トンボが周囲を飛び、大きな木から小さな花、様々な植物が生い茂る中を適当にはしゃぎながら歩いていた。そして、1人でどんどん山林の奥へ奥へと進んでいく。その中で、1人ポツンと閑散とした場所に出た。何やら古びた祠のような小屋の朽ち果てた跡だ。中には何かの儀式にでも使うような祭壇があった。
ゆあん「…これって…」
悠安は小屋の跡に立ち寄って中を見てみた。その中には祭壇の他、古びてボロボロな古文書のようなものまであった。
ゆあん「何だこりゃ…?」
悠安は古文書を手に取ってみた。しかし、古文書は肝心なページの大半が破れ崩れていて、ほとんど読むことができなかった。しかし、好奇心旺盛な悠安はこれを持ち帰ってみることにした。
ゆあん「へへ、一足先に…?」
悠安が帰路に立とうとした瞬間、比較的近くから銃声のような音が聞こえた。それに好奇心を覚えた悠安は早速、その方向へ行ってみることにした。しかし、悠安がそこに行こうとした矢先、鉛の弾が彼の右肩を軽く霞めた。
一方で、はぐれた悠安を探すべく、SNS部の面々は班を分けることにした。
なおきり「捜索は俺とどぬでやる。どぬの鼻が頼りだからな。」
直切は自分と土井で悠安の捜索に当たるという。狐の血を引く土井ならば鼻が利く。その鼻を使って悠安を捜索しようというアイディアだ。
なおきり「どぬ、頼む。」
どぬく「うむ。任せておけ。」
たっつん「んじゃ、任せるわ。」
ヒロ「気を付けてな。」
直切と土井は2人で悠安の捜索に出る。その間、残った部員たちは引き続き山岳信仰や生贄儀式等の伝説の捜索に当たる。
のあ「…本当に大丈夫かな?」
じゃっぴ「何が?」
のあ「何か伝説の信憑性が増してきてない?赤楚君のことといい…」
乃愛は伝説と悠安の行方不明とが何か関係があるのでは、と勘繰る。だが、社はまだ楽観的だ。
じゃっぴ「大丈夫だろ。アイツがフラフラしていなくなるなんてよくあることだろ。」
えと「…まあ、神隠しはさすがにアンリアルよね。」
社と枝美は神隠しはさすがにアンリアルだと否定する。一方で、柴が別の意見を出した。
シヴァ「リアルな要素と言えば他にあるもんな。例えば、クマとか。」
ヒロ「クマ?」
シヴァ「調べたけど、この山ってクマが出るらしい。」
たっつん「マジか?」
えと「何で先に言わないの!」
シヴァ「ごめん…皆楽しそうだったから、言うかどうか迷った。」
るな「ねえ、あれ…」
一同「ん?」
流菜が指さした先にはなんと、体長3m程の大型のクマが一頭いた。クマはSNS部員たちを見るなり、彼らに向かって走り出してきた。
たっつん「げー!?」
うり「マジかよ!?」
もふ「あんな大型のクマ、初めて見ました…」
えと「関心してないで逃げるの!」
SNS部員たちは散り散りになってクマから逃げた。クマは適当に狙いを定め、社と乃愛が逃げた方向へ行き、2人を追った。
じゃっぴ「追っかけて来やがった!?」
のあ「何でこっちに来るの?」
社と乃愛は全速力で逃げた。クマは当然、その習性よろしく猛然と2人を追ってくる。クマの習性を知らない2人はただ逃げるしかなかった。しかし、その先には、なんともう1頭クマがいた。
じゃっぴ「もう1匹いんのかよ!?」
のあ「ウソー!?」
社と乃愛は再び全速力でクマから逃げた。2頭のクマはもちろん追ってきた。2人は足を止めるどころか、さらに加速した。そして、その先に2人が飛び出した先は断崖絶壁だった。
じゃっぴ「マジかよー!?」
のあ「きゃー!」
飛び出した社と乃愛は当然、真っ逆さまに崖から落ちていく。
じゃっぴ「乃愛!」
のあ「じゃっぴ!」
2人は互いに手を差し伸べ合い、そして掴み合った。だが、2人ともそのまま崖の下へ落ちていく…
ゆあん「っ…」
その頃、皆とはぐれて1人で行動していた悠安は右肩を押さえながら力なく歩いていた。その肩は銃弾で撃ち抜かれたような傷跡があり、血が垂れ流れていた。