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「ピアーニャ! 緊急会議! アリエッタちゃんの事で!」
「イヤだ! かえれ! そんなハナシききたくない!」
ミューゼの家を出て、慌ててリージョンシーカー本部へと転がり込んできたネフテリアは、開口一番に全力で拒否された。ピアーニャにとって、アリエッタの案件はトラブル以上の悩みの種なのだ。
しばらく雲と魔力を込めた拳で取っ組み合いになっていたが、ロンデルによって頭に氷を落とされ、強制的に大人しくなった。
「こ、これが今回のアリエッタちゃんの成果よ」
「うむ……ロンデル、そんなにニラむな……こわいから」
頭に大きなこぶを持った2人が、素直にソファへと腰を下ろす。
つい反射的に拒絶したが、アリエッタの保護は王族よりも優先と、ガルディオ王とも決めている。女神の娘より人を優先出来る程の度胸は無いようだ。
ピアーニャはロンデルの形相にビビりながら、アリエッタの話を聞く覚悟を決めた。
「……なるほど、これはわかりやすい。アイツ、はやくコトバをおぼえたくて、こんなものをつくったのか?」
「だと思うよ。あの子、ミューゼとパフィの事、恋慕の眼差しで見てるもの」
「だよなぁ。マセたおこさまだ。まぁヨメにやって、カミのいちぞくがーとか、よくわからんコトにならないのは、たすかるが……」
完全にバレまくっているアリエッタの気持ち。本人は隠しているつもり…という事も周囲に理解されているので、ミューゼ達にくっつくアリエッタを見守るシーカー達の眼差しは、恐ろしいくらいに温かかったりする。
ミューゼに分けてもらった単語カードと文字カードを、ピアーニャとロンデルは真剣な顔で見定めていく。
「4から5歳くらいの子供には、かなり有効な道具かもしれません」
「たしかにな。ロンデルとリリにコドモがうまれたら、つかえるな」
「はい……は? えっ? いやあの!」
(おやおや? 結構まんざらでもなさそう? 押し切ったね、リリお姉様)
何か言う度に話が逸れているが、カードの有用性は2人とも理解した。そしてアリエッタの認知度が上がる危険性も。
「やはりニーニルをカイゾウするか?」
「おっ、やっちゃう? 砦にしちゃう?」
「やめてあげてください」
アリエッタ達3人の為だけに、ニーニルそのものの防衛力を高めようとしている。ミューゼの家を城に改造しかねないノリである。
「このホンみたいなものは、ディオとソウダンだな。アリエッタのギメイでもつくって、それでいいかミューゼオラにもきいて、あとは……テリアがメインでやるか?」
「うわめんどくさそー……」
「いやオウゾクなんだから、カンリにはなれておけよ……」
「はぁ……はいはい、分かりましたよっと」(よっしゃあ! これは自然な流れでミューゼに近づける!)
結局原案者の存在を隠す方向でまとまり、ネフテリアはその我欲を内に秘めながら王城へと帰っていった。
後日、ニーニルにて。
「最近工事増えたし?」
「そうですわね。なんでも町を広げ、外周に公的施設を増やすとか」
「ふーん? 町の拡張だし? 人が増えてきたし?」
「さぁ……ネフテリア様なら知っていらっしゃるかもしれませんわね」
昼過ぎのヴィーアンドクリームで、クリムとノエラが雑談を交えて仕事をしていた。この2人は店長という立場もあって、仲が良い。
店内では、フラウリージェの店員数名がアリエッタデザインの服を着て、クリムの手伝いをしている。宣伝を兼ねた店の手伝いである。ノエラはその様子見と統括をしていた。
元々ヴィーアンドクリームはクリム1人での営業だったのだが、接客を一時的にフラウリージェ店員に任せる事で、出せる品が大幅に増え、客の回転が数倍上がり、昼時だけという限定的な営業時間ながら、売り上げが尋常じゃない程に上昇した。
調理しているのは普段はクリム1人だが、ラスィーテ人の料理は常識が異なるので、たとえ20人が別々の注文をしようとも、大して時間をかけずに全て出来上がるのだ。時々パフィが手伝えば、速度は更に倍となる。
「そういえば前にテリアから、店を大きくした方が良いって言われたし」
「それは私も思いますわ。今も外に沢山並んでいらっしゃいますもの」
ヴィーアンドクリーム自体はどこにでもある小さな店舗。もともと小ぢんまりとした店舗で無難にやっていくつもりだったので、規模拡大などは一切考えられていない。しかし、短時間でも連日大盛況となれば、外に溢れる人々を抑える為、何か考えなければいけない。
「そう思って話をつけておいたわ」
「うわっ!?」
「ひっ!? ……ね、ネフテリア様?」
声のした方を見ると、窓からネフテリアが顔を覗かせていた。それも半分だけ。
「なんでそんな所から見てるし……」
「治安維持の為、クリムには引っ越してもらうわ」
「横暴だし!」
「いやいや、そうなりますわよ」
「え~……」
店側の問題でもある。たまにであれば周辺の了承を得ていれば問題ないが、常に人だかりが出来てしまうのは、住人達への迷惑となってしまう。スペースの拡張や店員の増員をして、可能な限り敷地内で事を治める必要があるのだ。
人員に関してはフラウリージェからの手伝いで解決しているが、逆にそれが災いして連日大盛況になってしまい、店の広さが全く足りなくなってしまったのである。
美味しい昼食を食べながら、有名ブランドとなったフラウリージェの可愛い服を着た女性店員のファッションショーを見て、たまに新作が出てきては盛り上がる。新作発表をフラウリージェ側が予告した日などは、昼前開店にも関わらず、早朝から店の前に並ぶ人もいる程なのだ。その時は、暇であればミューゼ達も手伝いに参加していたりする。
料理の味、注文の速度、店員の見た目など、全てにおいて優良な店が、騒ぎにならないわけがない。
「というわけで、他のお店や家とのトラブルになる前に、わたくしが用意した場所に移動してもらいます。と言っても、むしろ今より良い場所だと思うわよ。これくらいの人気だったら、町のどこに置いても人は勝手に集まるだろうし」
「むー、仕方ないし。結局どこだし?」
「その前に、詳しい話は閉店後にするけど、実はフラウリージェも強制引越しが決定したの」
「ほえっ?」
いきなり話を振られたノエラが、変な声を出した。どうやら初耳のようだ。
「今はそこそこの店内に、工房兼応接室でしょ? お母様やクラウンスターとのやり取りをするのに手狭だし、アリエッタちゃんの服を実現するには、もっと設備を整えなきゃね」
「それはまぁ、そうですけど。まぁ仕方ないですね。ニーニル内ですか?」
「もちろん。場所は……──」
「あたしんちの周辺を勝手に改築するなあああ!!」
べちべちべちべち
「ぎゃー! 痛い痛い! 黙っててすみませんでしたあああああ!!」
ミューゼの家のベランダにある家庭菜園。そこから一望できるやたらと広い更地を眺めながら、ミューゼ、パフィ、クリム、ノエラは、ネフテリアから説明を受けた。
その結果、ネフテリアは蔓で鞭打ちの刑に処される事となった。その隣では、オスルェンシスが済まなそうな顔をしながら怯えている。
「家の周りから家が無くなっていくから、何事かと思ったのよ」
「?? ぱひー?」(あの、聞こえないんですけど。ついでに柔らかいんですけど……)
パフィはアリエッタの耳を塞いで後ろ向きに抱きながら、呆れている。
「最近ご近所さんが減ってたのは、テリア様の仕業だったんですね……」
「ひゃい……へも、わいとひはくにひっこふヒホがおおかっはお」
「あーそれで、近くに新しい家を建ててたし? 用意周到だし」
ファナリアには魔法をはじめ、他のリージョンの技術と人材が集まるので、建築作業はそれなりに速い。それなりの家でも数日で形になるのだ。そのお陰でミューゼの家の裏側は、早くも無人の土地となったのである。ネフテリアの権力行使のせいもあるが。
すっかり腫れ上がったネフテリアの顔には、誰もツッコまない。寂しくなった本人が治療魔法を使い、さっさと治してしまう。
完治したところで、封じられていたアリエッタの耳が解放された。
「しっかし、これでみんなご近所だし」
「そうね。アリエッタちゃんが絵を描いたら、フラウリージェに持ち込んで服を作り、それを着てヴィーアンドクリームでみんなで接客。食べた客はフラウリージェの服に魅了され、アリエッタちゃんの将来の為の資金になる。完璧ね」
「ご近所というより、もう同居に近いのよ?」
ネフテリアの思惑は、アリエッタを取り巻く商売を、1つの施設内で完結させる事だった。そうする事で、アリエッタの原案を外に持ち出す必要が無くなり、誰が何を提供しているのかが他人からは見えなくなるのだ。
しかし、もちろんそれだけが狙いではない。
(そしてわたくしの家も敷地内に建ててしまえば、ミューゼと実質的な家族になる! むふふ)
どれだけシバかれても、絶対にめげない王女であった。
なんとなくその狙いに気付いているクリムは、ジト目のままもう1つ気になっている事を聞く。
「町の周囲に作ってるのは何だし?」
「それはね、この辺りを改造するのにあたって、さすがに土地がきつくなるから。その為に拡張計画を進めてるの。その為の結界を管理する施設よ」
ニーニルには外壁という物が無いので、見た感じ外敵に対しては無防備である。その代わり、町の周囲には監視用の結界魔法を張っているのだ。ただ視るだけの弱い結界だが、ただ近くに来るだけで目撃されるので、隠れたい者にとっては近寄り難い防壁代わりとなっている。ちなみにワグナージュの機械との合同技術である。
「へぇ~、そんなのあったんだ」
感心したように呟いたのは、昔から住んでいるミューゼである。
「えっ、知らなかったの?」
「……私も知りませんでしたわ」
「もしかして、結界の認知度…低すぎ!?」
服屋を営み、町の外に用事が無いノエラ。町の外といえばリージョンの外という、シーカーのミューゼ。徒歩で町の外へ行く事がかなり少ないせいで、この町の一番大きな仕組みを、今初めて知るのだった。