テラーノベル
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「蒼空くん、今から会えない?」
彼との別れ話を終えて私は蒼空くんに電話した。
最寄りの駅。
ベンチに座って待っていた。
「志乃ちゃん」
優しくて切なそうな笑顔で彼は笑っている。
「別れられたよ。」
「頑張ったね」
彼はあの人と違う優しくて包容力のある笑い方をする。
最初から莉央くんじゃなくて蒼空くんと付き合っていたらと悪い考えがどんどん溢れてくる。
「少し歩かない?」
私の提案に彼はふたつ返事で了承した。
私の足並に合わせてくれる。
私の会話を真剣に聞いてくれる。
莉央くんとは大違い。
行き着いたのは海だった。
春に差し掛かりそうな時の風は冷たくも暖かくもない。
ただ心地よかった。
彼は石で造られている階段に座った。
私はその隣にそっと座る。
「私はやっぱり彼に愛されてなかったの。」
「聞いたの」
「千華ちゃんとキスしたのって」
「そしたら彼ね否定をせずに認めたの。」
「多分私、嘘だって信じたかったんだと思う」
「志乃ちゃん、辛かったね。」
別に特別辛いとは思わなかった。
彼との別れはやっぱり寂しかったけどもっと他に私は辛いと思ったことがある。
「別に辛くなんて」
「でも、志乃ちゃん泣いてるじゃん」
「え?」
言われるまで気が付かなかった。
私は無意識で泣いていた。
意識すると涙はどんどん溢れてきて服の袖で拭っても意味が無い。
「ハンカチ」
彼は私の目の前にハンカチを差し出しそっぽを向いている。
泣き顔を見ないように配慮してくれているのだろう。
「俺じゃだめなの?」
「俺なら志乃ちゃんを泣かせたりしない。」
彼は私にそう言って私の唇を奪った。
「この前はまだ、桜井と付き合ってたからだめだって言ったけど今はいないんだからいいよね。」
「それにこの前、志乃ちゃんからしようとしたんだから。」
「私まだ、莉央くんのこと好きだよ?」
「大丈夫。絶対俺のことしか考えられないようにするから。」
彼はそう言ってまた私に優しい優しいキスをした。
その時の顔が莉央くんと重なってしまう。
莉央くんが私を好きじゃないのは知っていたけど、私のことを嘘でも愛して欲しかった。
彼女と付き合って1ヶ月が経った。
友人からはすごく祝福されて、一部の人間からは非常識と言われる。
確かに友人の元彼女と付き合うのは何処か非人道的なものを感じて仕方が無いとは思う。
だけど、桜井は彼女を大切にできなかった。
だから、彼女と俺が付き合っていても何も不思議ではない。
「ごめんおまたせ!」
俺は彼女の気持ちを察したり考えたりは出来ないから傷つけてしまうこともあるとは思う。
それでもそういうところがいいところだと彼女は言う。
「待ってない。行こう」
俺は彼女と離れたくないから彼女の手を取り彼女の横をぴったりとくっついて歩く。
「近いなぁ」
笑って彼女は俺の頬をつつく。
前から桜井が歩いてくる。
彼女は少し目を逸らし頬を染めている。
意識しているのだろう。
そしてまだ、桜井が好きなのだろう。
仕方がない。
あいつとは1年半も付き合ったのだから。
忘れられなくても仕方がないと俺は思う。
「そんなに意識してますみたいに目逸らしてたら俺傷つくんだけど?」
「ごめん、。」
笑い話に俺はしようとする。
だけど彼女は全力で謝ってくる。
彼女にとってあいつとの思い出は濃すぎたのかもしれない。
あいつの何がいいのだとか、あいつのどこが好きだったのだとか聞こうと思ったことは何度もある。
でもそれを聞くことで彼女が別の男のことを考えたり、あいつとの思い出に嫌気がさしたりすると思う。
だから聞くことが出来なかった。
君は俺を好きじゃない。
だけど俺はそれでもいいと思っている。
わがままは言えない。
君に無理に俺を好きになって欲しいとは思っていない。
だけど時々考えることがある。
君から不意に言われる好きはどれくらい幸せなのか。
君が俺のことを好きになって、俺の事をどんな目で見てくるのか。
思ってはいけないけど、君に嘘でも愛して欲しい。
あなたは、私と付き合って少し変わった。
あの陽気な性格が好きだった。
なのにあなたはすごく静かになったね。
「莉央先輩、一緒に帰りません?」
「あぁ、うん」
返答も適当で、私の好きな先輩はもういない。
だけど、私は先輩のことが好き。
先輩の声が好き。
先輩の顔が好き。
先輩の話し方が好き。
先輩の存在そのものが好き。
やっと付き合えたのに私は幸せにはなれないの?
志乃さんは、蒼空先輩と幸せそうに付き合っている。
振ったのは莉央先輩なのに、幸せなのは志乃さんの方。
たぶん、莉央先輩はまだ志乃さんのことが好きなんだと思う。
志乃さんとすれ違う時彼は少し表情が穏やかになる。
志乃さんが蒼空先輩と話していたらイライラしている。
志乃さんが笑顔だと彼も笑顔になっている。
きっとそれは彼も気が付いていない。
私は彼をよく見ているけど、彼は私のことなんて興味が無いから。
話していても適当な相槌ばかり。
最近は行為中も「好きだ」と言ってくれなくなった。
多分彼は、シている時に志乃さんと私を重ねているんだと思う。
彼は私じゃなくて志乃さんを見る時の目で私を見る。
私は必要とされていないみたいで、私が彼の幸せを奪ったみたいでなんだか辛い。
私の家のリビングで映画を見ていた時のこと。私は彼にキスをした。
すると彼は驚いた様子もなく真顔で言った。
「なに?シたいの? 」
少し腹が立った。
そういう気分にならないと私は彼にキスもしてはいけないのか。
私と彼の関係は恋人ではなくセフレみたいだ。
私はただ、好きな人に他の人と同じように愛して欲しいだけ。
私は彼から必要とされていない。
私は彼と付き合っている意味があるのだろうか。
本気で私を好きになって愛して欲しいとは言わない。
だけど、 嘘でも愛して。
君を初めて見た時、綺麗な子だと思った。
毎朝乗る電車に君はいた。
小説を読みながら喜怒哀楽をよく表現していた。
笑ったり、怒ったり、楽しそうだったり、時には泣いたり。
君のその純粋なところに俺は惹かれていたんだと思う。
俺は君と話す話題が欲しくて本を読みに図書館に行った。
ただ、俺は入学と同時に図書カードを無くしていたから本を借りることは出来なかった。
だから毎朝、図書館で本を読みいつか君に話しかけようとしていた。
だけど奇跡は起きる。
俺がいつも通り適当な紙を栞として挟んでおいた本を開くとそこには文字が書いてあった。
「これは栞?」
一目見た瞬間に君だと分かった。
いつも見ている君の綺麗な字。
会いたくて、共通点を話したくて君を朝の図書館に呼んだ。
君と話す本の話はすごく楽しくて幸せで、。
君から告白された時、俺は心の中で嬉しい半面困りもした。
俺は君が思うようないい人ではないから。
だけど、君を誰かに取られたくなくて俺は承諾をした。
君の隣は俺じゃ見合わない。
分かっていても、君が俺を求めてくれるから。
だから俺は自分の気持ちに気づかないふりをした。
君に好きと言われても俺は好きと返さない。
それは君のことが好きじゃないから。
ただ、千華は俺でも釣り合う相手だと思えた。
彼女は俺よりもいい人がいるから。
俺じゃだめだと考えてしまった。
ただこれは、俺が自分自身を守ろうとしているだけで彼女の株とかそういうのを気にしている訳では無い。
俺は、彼女のことを嘘でも愛してると思っていた。
あの時、彼女にいつも俺たちが行く公園に呼び出された時別れるんだと悟った。
だけど、そこに行くと彼女は俺に事実確認をするだけで「別れよう」とは一言も言わなかった。
俺は怒れる立場じゃないのに彼女に声を荒らげてしまった。
彼女は言う。
「私からは別れを告げないって、。」
そんな前のことを覚えているのかとまた罪悪感でいっぱいになった。
彼女は俺に傷つけられて別れを告げられてただの辛いだけの恋愛になってしまった。
彼女を俺なんかが傷つけてしまった。
だから彼女には彼女に見合った人と付き合って幸せになって欲しい。
君とすれ違う時、俺はいつも君を見てしまう。
君が話していると内容によって俺が嬉しくなったり悲しくなったり腹が立ったりする。
君の喜びは俺の喜びでもあって、君の悲しみは俺の悲しみでもある。
君は俺の世界の中心だったんだって必ず言おうと思ってたのに、。
俺は君を世界でいちばん愛してるんだって。
それは今でも変わらないって。
嘘じゃなくて本気で愛していた。
ー3年前ー
今日から新しい友人と新しい環境になる。
初めての電車通学。
初めての制服。
目の前に寝ている綺麗な子がいた。
その子は俺と同じ高校の制服を着ていて片手に小説を持っていた。
少し口角が上がっていて持っている本が余程面白いものなのだろうと感じた。
「すみません」
俺は前の人を避けその子の持っている本に図書カードを挟んだ。
それは郵送で高校から送られてきたもので自分で名前を書く仕様のものだった。
下の名前だけの図書カード。それをその子の本に挟み俺は隣の車両へと移った。
入学式の日。
私は昨晩、友達ができるか不安で夜更かしをしてしまった。
だから私は電車で寝ていたらしく読みかけの本が閉じてしまっていた。
最悪だと思いつつページを探すために本をめくっていると不自然な膨らみがあることに気がついた。
「これって、図書カード?」
郵送で送られた図書カードが挟まっていた。
私のものでは無い。
名前を見ると”りお”とあまり綺麗とは言えない字で書いてあった。
この人は誰だろう。
この人に会ってみたい。
同じ学校なことしか分からずその日以来その人を考えることは無かった。
そのカードは私の家の棚に閉まっておくことにした。
「卒業おめでとう!」
「ありがとう」
春。私は3年間通った高校を卒業した。
家の中を片付けて一人暮らしの準備をしていると見覚えのあるカードを見つけた。
「これ、あなたのだったんだ」
私たちは本当に運命で、あなたは私を本当は好きでいてくれてたのかもしれないね。
あなたは私を、嘘じゃなくて本当に愛してくれていたのかもね。
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