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真っ赤な瞳と、目が合った。
一瞬、友人かと思ってしまった。
だが、彼とは違った輝きをその瞳は放っていて。
彼の瞳は暗闇で獲物を狙う鋭く、怪しい輝きを放っていて。
一方、自分の目の前にいる彼の瞳は、大切に磨かれてきた宝石のように美しい輝きを放っていて。
思わず、その場で跪いてしまいそうになったが、自分の主人を間違えてはならない。
心の中で自分を律し、会釈の代わりに目を伏せた。
彼は普段着とは似ても似つかない、高貴な服を身に纏い、たまにしか見ることのできない美しい長髪に編み込みを入れた、正しく正装と言える格好で壁際に立っていた。
旦那様の後ろに控えつつ、横目で見れば、彼は手元に何かを書き込んでいて。
旦那様の挨拶回りに従っていると、横にひらりと長い、光を反射した白が舞い、
カサリ、と小さい音がしたかと思えば、既に彼は通り過ぎていて。
一通り挨拶回りを終えた旦那様に
「ネス、*榊と交代して娘の相手をしろ。*」
と言われた。
「…かしこまりました。では、失礼します。」
そう告げ、大広間を後にする。
もちろん、この夜遅くにお嬢様は夜会になど来ないし、来させない。執事長である榊の父も、本日は足を痛め来れなかった。
つまり、旦那様の指示は嘘だ。
廊下を歩きながら、グローブを関節部分まで外し、差し込まれた紙切れを取り出す。
そこに書かれた指示を読み、柔らかいカーペットを音を立てないように歩く。
目当ての部屋を見つけ、足元に落ちているモノを拾い上げ、ドアを3回ノックする。
返事はない。
が、そのまま取っ手を掴み、ゆっくりと引く。
「…ん。」
ソファに寝転んだ彼がひらひらと手を振るのを確認し、後ろ手にドアを閉める。
「失礼いたします。」
「…ほんとに来たんだな。」
「えぇ、私は一端の使用人。貴族の方々の命令は絶対ですので。」
「…ふぅん。じゃ、それもういいよ。」
「…」
「…」
「まじっすか?」
「まじまじ」
「いや〜、あざっす!実は、1人っきりで旦那様のお付きするの初めてなんすよね!」
「お、お疲れじゃん。」
「あ、でも葛葉さんのジャケットだけ綺麗にさせてください。目の前で皺付けられるのだけはさすがに執事として見逃せないんで。」
「ん、ありがと。俺もうちのに怒られるとこだったわ。」
「いえいえ〜、ついでにオレのもかけさせてもらいますね!」
「…で。どうだったよ。執事サンの目からは。」
「…そうですね…旦那様と挨拶された方々は怪しい方はいらっしゃらなかったんですけど、会場入口入って左2つ目のテーブル前にいた方と、オレ達が目合った時に葛葉さんから見て右前にいた方は怪しかったですね。」
「…ふぅん、合格じゃん。」
「あざっす!」
「ただ、俺が紙入れた時にダンナサマが話してた人、ターコイズのブローチ付けてたろ、あれ、クロ。」
「えっ!?…そしたら、あと3人いますよね。」
「正解。」
「いや〜、やっぱ葛葉さん鋭いっすね!」
「ん?お前が最初に上げた1人は俺気づかなかったぞ。使えるわ、お前。」
「〜ッ!良かった…」
「今後も期待してるわ。」
「はい!」
「では、私はここで。」
「あいよ〜」
「あ、自分の証として廊下に髪の毛を1本落としておくのはやめといた方がいいですよ。…2つ隣の部屋、やっちゃってるんで。」
「!?わ、分かった…」
「では、また。」
そう声をかけ、扉を閉める。
さあ、旦那様の元へ戻らなくては。
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