未だに魔物がこの地に生きていた時、深い深い森の奥。魔物が住んでる森の奥。そこら辺にいる魔物など屁でもないくらい恐ろしい、それはそれは恐ろしい魔物が住んでいた。
人はみな子供の頃から、魔物の住処である森には決して入らないように言い聞かせられる。けれど、大人たちには内緒で森に入る少年がいた。
はじめは森の入口、それから小道。奥へ奥へと入る頃には、少年は立派な青年になり、小さな魔物くらいなら祓えるようになっていた。
彼がその魔物に出会ったのは、いつものように森を散歩している時だった。
青年はひらけた場所に辿り着いた。
そして、その美しさに息を飲んだ。色とりどりに咲く花に、差し込む陽の光は輝き、そこに静かに横たわる獣のような魔物は、幼い頃、母から聞いたあの恐ろしい魔物とは全く違うものに見えた。
魔物がそっと目を開けた時、青年はその瞳に恋をした。優しげな憂いを帯びた瞳に恋をした。
青年は魔物に近付き、そっとその身体に触れる。その暖かさに再び心を奪われた。他の魔物はみな冷たい。
青年がそっと温もりに包まれた時、この世界の片隅で、そっと恋が始まった。
この世界の片隅に:END
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