テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ファンタジー/SF
#TS
408
#第3回テノコン
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
美しい瞳。その中で、制御不能な”光”が暴れる。
この世のものではない、白銀の輝き。あらゆる次元を超越した、選ばれし者の証。
けれども、紅月輝夜の持つ”ソレ”は、他者の持つ光とは異なったもの。
彼女の意思を介さずに、知らないことを見せてくる。
――遅すぎた、というのは、こういう事を言うんだな。
得体の知れない、巨大なナニカによって、姫乃の街が焼かれている。
誰も、抵抗することなど出来ない。
頼りになる仲間は、もう一人も居ない。
これが満足なのか、それとも違うのか。
事切れた”黒羽える”の体を抱いて、わたしは絶望に沈んでいた。
――こうするのが、最善の方法だ。
これもまた、何一つ理解の出来ない光景である。
わたしは漆黒の刀、カグヤブレードを振るい。黒羽の首をはねている。
どういう事情を経たら、その結末へ至るのか。
――忘れないで。リタの持つネックレスを奪いなさい。あれが、最後の鍵よ。
これは、少しだけ覚えがある。誰よりも身近で、そして聞いたことのない声。
忘れてはいけない、きっとそうなのだろう。
輝夜の思考が、白銀の輝きに”追いついていく”。
遠くて近い何かに、ようやく、手が届きそうな――
「――さん。紅月さん!」
「ッ、なんだ?」
もう少し、という所で。輝夜は現実世界に呼び戻される。
瞳に宿る輝きは勢いを失い、もとの色へと戻ってしまう。
輝夜に声をかけたのは、クラスメイトの”黒羽える”。
今現在、輝夜の思考を最も圧迫している少女である。
「どうか、したの? 何か不思議というか、目がキラキラ光ってたけど」
「……目が、光ってた?」
「うん。すっごく綺麗な感じで。それも、魔法か何かなのかな」
自分の身に、何が起きているのか。何に近づいているのか、今の輝夜には分からない。
ただ一つ、確かなのは。今は体育祭の真っ最中であり、自分が何も無い場所で突っ立っていたという事実のみ。
それを心配して、黒羽も近づいてきたのだろう。
「あ、そうだ。みんな紅月さんのこと心配してたよ? さっきの騎馬戦で、落ち込んでるんじゃないかって」
「まぁ、そうだな」
確かに、ほんの数分、あるいは数秒前だろうか。認識できない時間と遭遇するまで、輝夜はそのことで落ち込んでいた。
しかし今は、それどころではない。
自分を心配している、この目の前の少女。
今まで、一切の警戒心を抱いていなかった彼女が、全てを吹き飛ばしてしまったのだから。
「お前。黒羽は」
「ん? なにが?」
「……いや、何でもない」
何を言うべきか。どういう対応をするべきか。愚鈍な輝夜の脳みそは、その最適解を導けない。
そんな彼女の様子を見て、黒羽も首を傾げ。
妙な雰囲気に。
そんな中で、輝夜の導き出した答えは。
「とりあえず、トイレ行かないか?」
「え。うん、いいけど」
何も考えずに、黒羽を連れ出した。
◆
「……」
「……」
なぜ、こうなったのか。きっと互いにそう思いながら、輝夜と黒羽は気まずそうな表情をする。
それもそう。
なぜなら二人は、トイレの”同じ個室”に入っているのだから。
「えーっと。ちょっと、感情が追いつかないというか」
「……とりあえず、座れ」
「あ、うん」
トイレは狭いので。
黒羽は便座に座り、輝夜は扉にもたれかかる形となった。
突如、トイレの個室に連れ込まれて。一体、何をされるのか。
黒羽は少々、緊張した様子で。
ここまでやった張本人である輝夜は、渋々と、重い口を開いた。
「今から、少し変なことを聞くが。まぁ、あまり気にせずに――」
再び、まるで発作のように。
輝夜の瞳が、白銀に輝き出す。
――ねぇ、紅月さん。”転生”って、信じる?
今まで通り、それは知らない光景。
黒羽えるが、自分に言葉を投げかけている。
――前世の記憶を有したまま、生まれ変わるってこと。
どういうことなのか。なぜ黒羽の口から、そんな言葉が出てくるのか。
しかし今回は、それだけのようで。
輝夜の瞳は、もとの黒へと戻っていった。
「ッ」
「大丈夫!? 紅月さん」
「……ああ」
とっさに見えたビジョンに、輝夜は少しふらついてしまう。
知らない光景が見える”頻度”が、徐々に上がっているようだった。
とはいえ、今はその問題を考えても仕方がない。
輝夜は再び意を決して、黒羽に向かい合う。
「黒羽。率直に聞くが、”命を狙われる理由”に、心当たりはあるか?」
「……え?」
黒羽の表情が、凍りつく。
一瞬で、感情が見えなくなったような。心を閉ざされたような。
言い表せない機微を、輝夜は感じ取る。
「……その反応。どうやら、何か事情がありそうだな」
輝夜がそう言葉を投げかけると。
ほんの僅かに、黒羽の口元が”愉快そう”に歪む。
「……迂闊だよね、紅月さん」
「え?」
「ふふっ。その何も理解してないって表情、相変わらずキュートだね」
黒羽の表情は、ただの微笑み。
しかし輝夜は、底知れぬナニカを垣間見る。
「そっかぁ。紅月さんからそういう質問が来るってことは、”そっち側の誰か”が、わたしに辿り着いたってことだよね」
動揺する輝夜をよそに、黒羽は一人つぶやく。
「電子的なセキュリティは完璧なはずだから、プログラムはまだ無傷。でもそもそも、どんなアプローチでわたしに気づいたのかな? う〜ん、それだけが不思議かも」
輝夜に対する警戒心は、まるで無い。
初めて会った日から、悪魔バトルを挑んだあの日も、そして今も。
”計画”の障害になる存在とは、微塵も思っていない。
むしろ、その逆であると考えている。
現に今も、”重要な情報”をもたらしているのだから。
「あ、そうだ! ねぇ紅月さん。最近、あのソロモンの夜ってどうなってる? ほら、わたしは指輪を失くして、アプリも消えちゃったから」
「どうなってるとは、どういう意味だ?」
「ほらほら、あれから結構経つでしょ? 遺物の保有者とか、かなり変わってると思うんだよね。……そのイヤリングを見る限り、紅月さんはまだ生き残ってそうだけど」
「……まぁ、そうだな。色々とあったが、今は膠着状態? みたいな感じだな」
「ふぅん。膠着状態って、具体的には?」
望む情報、計画のキーを探ろうと。
明るく問いかける黒羽に、輝夜は迂闊にも喋ってしまう。
どれだけ怪しく、不気味でも。
彼女は友人で、クラスメイトなのだから。
「遺物の大半は、もうこの街に集まってるんだよ。わたしの家族とか、周囲の連中とか。あと、ナントカの騎士っていう集団も、姫乃に集まってるらしい」
「ふむふむ。それは、なんとも興味深い内容だね」
いいや、違う。黒羽にとって、その程度の情報は何の意味もない。
もっと重要な、全てを覆すような回答が欲しかった。
そして輝夜は、迂闊にも口にしてしまう。
この物語を終わりにする、重要なキーワードを。
「問題なのは、あのジョナサンとかいう外人でな。まぁ、そいつだけ明確に敵なんだが。――アイツ、もしかしたら、もうこの街に”来てる”かもな」
輝夜の口から漏れた言葉に、黒羽の表情が大きく歪む。
「……へぇ。そう、なんだ」
その感情を、噛み締めるように。
”言い表せない幸福”を、その身で受け止めるように。
ほんの数秒、黒羽は脳内で情報を整理して。
まるで何事もなかったかのように、もとの”優等生”の表情へと戻った。
これまでの苦悩。全ての犠牲に報いあれ。
今日こそが、”我らが王”、その”再臨の日”である。
「あー。一人納得してるところ悪いが、最初の質問に戻っていいか?」
「あ、うん。いいよ。わたしに、命を狙われる理由があるかどうか、だよね」
「あ、ああ」
憑き物が落ちた。そうとも見える黒羽の豹変ぶりに、輝夜は少々驚きつつも。
知りたいことを知るために、黒羽への質問を行う。
「さっきの反応を見るに、命を狙われる理由があるんだな?」
「うん、あるよ」
「……それは。お前が”悪い事”をしようとしてるのか? それとも、また別の事情か?」
輝夜とて、何も察していないわけではない。自分の父親も絡んでいる状況で、その上で命を狙われる。
それは必ず、重大な理由を持つと。
「……わたしのやろうとしてることが、善か悪か。それは正直、断言は出来ない」
「どういう意味だ」
「うーん。ちょっと、説明が難しいんだけどね。わたしが目指してる計画は、自分に課せられた”使命”だと思ってるから。みんなにとって、それが幸福になるか、それとも不幸になるか。それは、達成してみないと分からない」
「……随分と、面倒な話だな」
あまりにも抽象的で、彼女の言う使命とやらが予想できない。
人類皆殺し、地上制圧。魔王アガレスの抱いていた野望のほうが、もはや理解ができる。
言葉巧みにはぐらかされるのは、あまり輝夜も好きではない。
「お前が、具体的に何を起こすのか。それは教えてくれないのか?」
「……そう、だね」
黒羽は少し、悩む。
「もしも紅月さんが、何の変哲もない一般人。というよりも、”悪魔との繋がり”さえなければ、教えられたんだけどね」
そう言って彼女が見つめるのは、輝夜が身に着けているイヤリング。
強大な力を持ち、複数の悪魔を使役する遺物である。
「紅月さんは、悪魔が好き? それとも嫌い?」
「そう、だな」
「ううん、答えなくていいよ」
これは無駄な質問なので、黒羽は言葉を遮った。
「遺物の持つ召喚システムで、悪魔を呼べたってことは、つまりそういう事なんだよね」
「?」
身勝手に進んでいく黒羽の言葉に、輝夜は追いつけない。
「王の指輪はね、自分と相性の良い悪魔を召喚するんだよ。それが最も魔力効率が良くて、あらゆる面でも優れているから。だから紅月さん、あのすっごく強そうな女の悪魔と、仲いいでしょう?」
「まぁ、それなり、だな」
黒羽との対決の際に召喚した、魔王、ドロシー・バルバトス。確かに、輝夜と彼女との相性は、非常に良好な関係を築くに至っていた。
「その流れで、なんだけど。あの時わたしが使役してたのが何か、覚えてる?」
「……確か。犬みたいな魔獣、だったような」
輝夜は、微かな記憶を呼び起こす。
「うん。あれは、ヘルハウンドっていう魔獣でね。戦闘に長けた悪魔には敵わない、そんなレベルの魔獣なんだけど。実は一つだけ、”ある特徴”があるんだ」
「特徴?」
「そう。絶対に、悪魔に懐かないっていう特徴。何をやっても、悪魔には心を開かない。絶対に、”許さない”。わたしが使役してたのって、そういう魔獣なんだよ?」
「……」
輝夜は、言葉を失ってしまう。
それほど熾烈な魔獣と、”最も相性がいい”とは。一体、どういう精神、思考をしていれば、そこへ至るのだろう。
「お前も、桜と同じで、悪魔に家族を殺されたのか?」
「ううん。わたしの家族はみんな元気だよ。たぶん地元で、普通に生活してるんじゃないかな」
「なら、大切な誰かを?」
「ううん、それもない。だってわたし、生まれてから一度も、”友達すら”出来たこと無いから」
何も変わらない。何も不思議に思っていない。そんな黒羽の言葉に、輝夜は僅かに恐れをいだく。
自分が友達にカウントされていない、という部分もショックだが。
目の前に座っている少女の人間性が、何一つとして理解できない。
黒羽える。
彼女は一体、何者なのか。
「わたしが悪魔を嫌うのは、生まれた瞬間から。……ううん。もしかしたら、その”ずっと昔”からかも」
同じ思考を持つ人間は、きっと地上に存在しない。どの世界にも存在しない。
ゆえに彼女は、”ソロモンの夜”へと到達した。
◆
――ありがとね、紅月さん。あなたのおかげで、こっちも上手く行きそうだよ。
呆然とする輝夜を置いて、黒羽はトイレから去っていく。
――まぁ、色々と心配かも知れないけど、安心してね。少なくとも体育祭が終わるまでは、こっちも向こうも、何も起こさないはずだから。
謎を解明するために。彼女が命を狙われる、その理由を知ろうとしただけなのに。
謎はより深くなり、真実は遥か遠くへと行ってしまった。
自分の知らないこと。本当は、知らないといけないこと。それはきっと、山の数ほど存在するのだろう。
けれども、今の自分にはそれを知る術が無い。
再び黒羽に問いただしても、きっと無駄だろう。彼女は確固とした意志に従って、何かを成し遂げようとしている。
ならば、こちら側の誰かに聞くべきか。
父親である龍一や、アリサの契約している魔王グレモリー。もしかしたら、アモンも事情を知っている可能性がある。もしくは、その中心にいるかも知れない。
しかし、あのアスタという悪魔が、あのような手段でコンタクトしてきた以上。彼らはおそらく、こちらを完全に蚊帳の外にしようとしているはず。
知る必要はない。関わる必要はない。
そういう意思が、ひしひしと伝わってくる。
「……”お前たち”は、今起きている状況を、何か理解してるのか?」
そう言って輝夜が問いかけるのは、自らの身につけるイヤリング。それを介して繋がる、仲間の悪魔たち。
けれども、
『すみません。我々に対しても、”輝夜さんを守れ”という言葉以外、接触はありません』
『そうね。わたしも、あの赤髪の魔王から、何も聞いてないわ』
契約する悪魔たちは、何も知らず。
体育祭を楽しみなさい。面倒事は、全てこちらに任せなさい。
”形の無い善意”が、輝夜の肩に重くのしかかる。
――もう間もなく、”仲良し男女二人三脚”が始まります。出場予定の生徒は、入場口に集まるように。
時の流れは止められない。輝夜の愚鈍すぎる思考よりも、現実が速く過ぎ去っていく。
二人三脚。
ここ数週間、この時のために、全てを捧げてきた。
ひたすらに練習を続けて、善人との絆を深めて。
それなのに、なぜ。
なぜこうも、現実はままならないのか。
(……本当に、このままでいいのか?)
時間は、止まらない。
この世で最も公平で、理不尽な概念だから。
それでも、と。
手を、伸ばさずにはいられない。
全てが手遅れになる前に。
何も出来ず、悲劇が起きるのは、”もう二度と見たくない”。
「 」
言葉は、出ない。
それを発するのは、口ではなく、瞳なのだから。
輝夜の瞳。
その奥底から、”白銀の光”が溢れ出す。
そのままでは、今までと同じ。
どうでもいい、役に立たない何かが見えるだけ。
ゆえに、輝きは、更にその”向こう側”へ。
”淡いピンクの輝き”。
自分自身の持つ色で、輝夜は”そこ”へと手を伸ばす。
アスタという、時の因子の接触を経て。
彼女の中に眠る兆しは、覚醒へと。
この日、紅月輝夜は、『■』に繋がった。
◆◇ No.110 再臨/接続の日 ◆◇