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︎︎︎︎︎︎☑︎紫桃赤
︎︎︎︎︎︎☑︎桃愛され含
︎︎︎︎︎︎☑︎微緑桃要素含
ln.side
「よし!」
キャリーケースを大っぴらに開き、ぱんぱんに詰め込まれた荷物を見て満足気に独り言を零す。
ふぅ~、こんなもんかなあ…。
チラッと壁に掛けられた電子時計に目をやると22:36と白ネオン色に表示されていた。
ざっと1時間強。環境音も右から左へ流れる程、荷物をまとめるのに集中していたらしい。
やばっ、
「お風呂お風呂…」
寝巻きを取ろうと立ち上がった時、部屋の扉をノックもなしに入ってきた奴。
「おい風呂…って、今からか」
「もぉノックぐらいしろよな」
びっくりするっつーの。
自分が同じことされたらビビったって怒るくせに、こんのビビり紫頭は!
「悪かったってw 準備終わったか?」
文句を垂れる口には自然と空気が溜まっていたらしく、人差し指の第2関節でツンツンと撫でるように突っつかれる。
「うん。お前らこれで足りる?」
こいつら、もとい、いるまとなつ。
おれのキャリーケースはこの2人の荷物が3分の2を占めている。おしゃれな2人のことだから、きっとファッションにはこだわりがあって、おれらと出かける為におしゃれする2人は 見ていて可愛い。おれは特にこだわりもないし、ホテルのアメニティで良くね?って思考だからべつにいいんだけどさ。
服もコインランドリーで洗濯でもすれば同じでいーっかなって。
「え? 逆におまえパジャマと下着だけなん?」
「必需品かなって」
下着は乾くまで待てないし、アメニティのルームウェア嫌いなんだよな。
それに、おれが使ってるパジャマは全ているまとなつが、おれがよく眠れるようにってプレゼントしてくれたもの。
えー、…じぇら…ぴ、ちゅ? け?
なんかそんなん。
全くブランドなんて興味のないおれだけど、せっかくプレゼントとしてもらったんだから少しは知っておこうと興味本位で調べたことがあった。
今までパジャマなんてめちゃめちゃ拘ったことなんてなくて、強いて言うなら手触りがいい物を選んで もこもこしたものにはしていた。それでも値段は嵩張らないもの。
だから検索をかけたあの日の衝撃は未だに鮮明に憶えている。ブランド名は曖昧だけど。
だって、自分で買うことはないし。
「おーい風呂…って、いるまも来てたんか」
デジャブ。
いるまと同じでノックもなしに突撃してきたなつ。こいつらほんま似てんな。いや、一緒にいることが多いから似てきたのか。
「今から連れてくとこ」
「なっちゃんも荷物これでいい?ここに入らん分は自分のキャリーへ入れろな」
おれの肩に腕を回してキャリーの中を覗き込むなつ。
「お前私物少なすぎだろw」
「いるまと同じこと言うw」
「だって、なあ?」
「同感だなw」
2人して真意は言わず相槌だけで伝わるコミュニケーション。
この2人の雰囲気に何度羨ましいと思ったことか。でも嫉妬はもうやめた。
だって、四六時中この2人の中におれが居ないなんてことはないと分からされたから。
「有事の際の荷物はリュックに詰めるからこれで大丈夫でしょ」
「またあのぱんぱんリュック持ってくんかよ」
煩わしそうに眉を顰めおれを見るいるまとなつ。
「べつに何持ってこぉがおれの勝手でしょ~」
べつに毎回持ってなんて頼んでないしっ。
そう、こいつら毎回おれといる時はどちらかがおれのリュックを持ってくれるんだ。
あの、自分でもどれだけの有事を想定しているんだってくらい緊急時の荷物やパソコンを詰め込んだぱんぱんのリュックを、だ。
「っし、明日も筋トレってこったな」
「だなー」
リュックは背負わない、ダサいって前に言ってたし嫌々持ってくれてるんだと思って、以前しつこく自分で持つからって言ったことがあった。
その時も上手くはぐらかされたっけ。
「明日は流石に自分で持つってば!2人も自分の荷物あるんやから、な?」
「はぁー、分かってねぇなあ」
「え?」
思わず、なつの言葉に首を90度傾ける。
「はいはいらんちゃんお風呂行きまちょね〜」
「え、ちょ、なにっ」
肩に引っ掛けられた腕に誘導され風呂場まで連行される。
分かってないって、おれ、女の子じゃないんだからさ。みんながそうって訳じゃないだろうけど、荷物持ってくれないだけで蛙化なんかしないよ?おれは。
「らんちゃんばんざーい」
「ん、」
明日みんなと出かける事が相当嬉しいのかご機嫌ななつの言う事に素直に従う。
こうやって世話を焼かれるのは嫌いじゃない。みんなと集まる時は基本世話を焼く側だし、事実、そのポジションに不満はない。
でも、だからこそ、こうやって素直に甘えられる空間はより一層特別なものだと感じられるから。
「今日はしっかり保湿しとかんといかんけ、これ」
「面倒くさがんなよ、あとで泣く羽目になんぞ」
「うっ」
喉から出そうになった言葉に先手を打たれ防がれてしまった。
「お前もな」
「俺は昔学んだから…」
遠い目をしているいるまを他所に、なっちゃんから渡された物を手に取る。
ただのドラストなんかに売ってるボディミルク。明日は確実に日焼けするだろうから、乾燥を防ぐ為だろう。おれもいるまも肌は白い方だし、日焼けすると真っ赤っかになってヒリヒリと痛むのが常。営業で走り回ってた頃は炎天下の中でもシャツにネクタイで露出なんてほぼなかったしなぁ~…。
海なんて何年ぶりだろう。ようやく取れた休暇なんだ、少しくらい羽目を外したってバチは当たらないよな。
「…一緒に入らんの、?」
脱衣所の扉に手をかけ出て行こうとする2人。2人とも似たような薄手の半袖とノースリのパーカーを着ていてそのフードを引っ張る。
だってっ、おれがなんのためにこの時間までにパッキング済ましたと思ってるの。
「…っ首締まってんだけど」
「あっ、わ、ごめん」
22時半頃、みんなで時間が合えば一緒にお風呂に入る。普段から休みなく忙しいおれらは、まあ、時間も合わなかったりまちまちだけど。
2人とも部屋までおれのこと呼びに来たみたいだし、てっきり一緒に入るものだと思っていたのに。
ふんわり、おれの頭に感じる若干の重みと温かさ。
「…着替えとってくるわ」
「先入って浴室温めとってくれる?」
なつが先にドアから出て行き、いるまも又、おれの頭に置かれた掌でそのまま頬をすりすりと撫でたあと無言で出て行った。
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il.side
明日からメンバー6人みんなで短期旅行へ行くことになった。
もちろん全員明日を待ち望んで楽しみにしていた訳だが、うちの姫さんは殊更明日が来るのを楽しみにしていたようで。
毎日毎日尽きることの無いタスクを死んだ魚の目で黙々と進めているあのリーダーが、今日は一切机とにらめっこしていないのだ。大方明日のために、昨日までに納期の近い物から全てやり切ってしまったのだろう。
今日珍しく沢山寝ることが出来たらしく、午前中はどれだけ声を掛け揺さぶっても起きる気配のない蒼白いこいつに、流石に焦った俺となつは少しの好奇心もあって鍋とお玉を持って合唱したら朝から雷が落ちた。マー〇ャル・〇・ティ〇チの貴重な睡眠時間を妨げるのは気が引けるが、それ程こいつの深い眠りは見ている側を不安にさせる。
お詫びと言ってはなんだが今日も早く布団に連れ込もうと、自分の分の荷物をキャリーケースに詰め込み、もしもの為にあいつらの分の頓服薬だとか諸々も一緒にケースに詰める。
タイミング良く、そろそろ風呂でも入るかと順番にあいつらの部屋を覗きに行く。
らんの部屋の扉を開けると、驚いた様子で俺の方へ振り返りぷくーっとむくれている。
かわっ、
慌てて右手でニヤける口元を覆う。
ニヤケ顔のまんまだったからか、声は若干震えて笑っていたが軽く謝罪し、未だにぷくぷくした頬っぺたをしているらんに近づく。いざ目の前にするとあまりの可愛さに自然と俺の右手はらんの頬へと伸びる。
毎回思うことやけど、華奢で小顔なわりにもちもち弾力のあるこの頬っぺはやみつきになるな。
「お前らこれで足りる?」と指されたキャリーケースの中を見ると、ほとんどが俺となつの私服。らんの物といえば、俺らがこいつにプレゼントしたジェ〇ピケのパジャマと、あとは下着だけ。
パジャマは気に入って毎日使ってくれてるみたいだし良かったけど。
ま、身だしなみ用品は全部俺らの使わせるしいーかなんでも。
てか、え?w 俺らどんだけ荷物あると思われてんのw
なつも合流して風呂場まで連行する。
やっぱこいつ遠慮がちというか、ふいに俺らから一線を引く時がある。
せっかく3人揃ってんのに一緒に入ろうとしなかった俺らも悪ぃんだけど、だって、そんなの分かんだろ。
明日海水浴場行くんだぜ?流石に痕は付けらんねえだろ。
俺もなつも、こいつを目の前にして歯止めが効かなくなる事は事前に分かっていたから敢えてそうしたのに。
でもそのおかげで、「一緒に入らんの?」って。一緒にって。
でっけぇ目ん玉うるうるさせて見上げるように言いやがって。くそかわ。
親指と人差し指でちょんと摘んだ俺らの服の裾。そんな意図せずあざとい行動をするところも嫌いじゃない。
でも、まだまだこれから、おまえの荷物を俺らが持つのも俺らが好きでやってる事で、もっと俺らにだけ我儘言ってもいいんだって教えてかなきゃなんねえな。
そんな事を思いながらこいつのやみつき頬っぺを撫でる。
━━━━━━━━━━━━━━━
ln.side
モコモコで手触りの良いパジャマは少しオーバーサイズで、下はショート丈。
上がオーバーサイズなだけあって、下は履いているか否かぎり分かる程度。
なんて趣味全開なプレゼントなんだって初めは思ったけど、ま、着られれば何でもいいおれは気持ちよく寝れるし気に入っている。そもそもおれがこんな可愛いパジャマ着てもみすぼらしいだけだろw
女の子じゃないんやから。
「あ」
お風呂から上がり、3人揃ってキングサイズのベットの上でゴロゴロしている時に思い出した。
ふかふかの悪魔のような布団から這い出て自分の部屋に向かう。きっちりと詰めたキャリーの中からあるものを取り出す。
買ってからこいつらとタイミング合わずにお披露目会すんの忘れてたんよね。
「見て!」
自分の部屋でモコモコパジャマを脱ぎ捨て、おニューの海パンに着替えて、あいつらがいる寝室の扉を勢いよく開ける。
「新調したんだよね、水着」
学生の頃のなんかどっか行っちゃったし。
それにどれを買おうか店で迷ってる時も、こいつらと行くんだって思うと自然とウキウキで選んでたなー。
「おー、おまえっぽくていんじゃね」
「黒にしたんか」
「派手すぎるのはやだし」
黒でも、ただの真っ黒ではない。小さいピンク色のハイビスカスが散りばめられている。
おしゃれなんか良く分からんし、まあ、黒なら外れないかなって。
「なんで選ぶ時俺ら呼ばんかったん?」
「お前ら会議あったもん」
「時間とか、日にちとか変えろよそこは」
「そんな時間おれにはない」
むーっ。
なんなんこいつら!
もっと、「似合ってる!」 とか 「かっこいい!」 とか!色々あんだろもっと!
興味なさそうに見て返事しやがって、どうせおれなんか普通の一般ピープルだって、特にリアクションする必要もないって分かってるけどさ。
いっつもお前ら、そんなおれの体に興奮してんじゃん。解せん。
「そんなことより! 見てよ、このライン」
少し横向いて、こいつらからはおれの体の側面が見えるように腰に手を当てる。
「おれの最大のアピールポイント!しっかり生かされた水着やと思わん?」
ただの海パンにそれぞれ違うところなんてあるのかって正直舐めてた。でもこの海パン、おれのお尻から太ももにかけての、この、綺麗なラインを隠さず魅せてくれるんだよな〜。
「らん、こっちおいで」
ベットにうつ伏せになっていたなつが起き上がっておれに手を差し伸べる。
その手を取ると、なつの膝の上に姫抱きでぽすっと収められた。
「水着選ぶ時、俺らも呼んで欲しかったなー」
「え、だから、」
「分かってる。次からそうしてほしいって話」
「ん、ん? うん…」
「理解してなさそーw」
だって、なんで?
おれの着る服だよ?
あ!
おれの着る服も自分達の好みにしたいってことか!
おれダサいしセンスないし、そんなのと隣歩くのやだもんな。迂闊だった、でももう替えの水着ないしな…。
「あうっ」
「またひとりで頭ん中暴走してんな?」
おでこをデコピンされた衝撃で目は瞑ったけど、おれの頭上から聞こえる声でいるまがやったんだと察する。
うっすら目を開けると、真剣な眼光のレモンイエローと目が合う。
「俺らは、おまえのその姿を赤の他人に見せたくねえって言ってんの。この鈍感メンヘラピンク野郎」
お?悪口か?
「はっ、おれのこのナイスバディで誰も彼も魅了しちゃうかもな〜」
わざとらしくシニカルな笑みをいるまに向ける。喧嘩なら買うぞ。
いつもの売り言葉に買い言葉。いつも通り言われたら言い返す。いつも通りのただの言い合い。
そんなつもりで言っただけなのに。
予告も無しにいきなりおれの肩から首筋にかけて突き立てられる、いるまの八重歯。
「…ッたっ」
あまりの衝撃と痛みに思わず目が潤む。
揺れる視界で無理やり向き合わされたいるまの姿を捉える。
「あんま舐めんな」
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nt.side
「これ、なに?」
待ち合わせ場所に着くなり、すちにしがみついて離れないらん。
「喧嘩というか…、一方的に俺らが悪いというか…、」
昨日、いるまに噛み付かれたらんはギャン泣き。流石にやばいと思って必死に宥める俺らの行為も虚しく、一切俺らに口を開いてくれない。なんなら目も合わせてくれない。
自分のしでかした事に後悔しているのか、俺への罪悪感もあるのか、いるまは今朝から虚無。
ま、後者は気にするなと言ってやりたい。俺もお前と同じ気持ちやったけ。
あんなえっちな水着、赤の他人に見せたくないのは本当。それも自分で分かっててやってんだから尚更タチが悪い。
でもらんの鈍感、若干の天然は今に始まった事ではない。きっと本人に悪気はないし、あのいるまへの返答もいつも通りのじゃれ合いのつもりだったんだろう。
いるまもいるまで語尾に悪口挟むからだってのよ。ちっとは素直になれ。
少しの反省も込めているまへの慰めはもう少し後にしておこう。
「えーらんくん虐められたん?可哀想に。こさが慰めてあげるな」
「ん゛〜…」
次はこさめの胸元にぐりぐりと頭を押し付け唸っている。
「ほららんらん特急来るから行こ」
らんに声を掛け、らんの分のキャリーケースも引いて歩き始めるみこと。
それは俺らの役目なのに。
チラッと隣のいるまに視線を向けると、何とも恨めしそうな目線でみことを見ている。
自業自得だろうよ。
俺も俺でこさめに手を引かれて歩くらんを遠目に見る。
「もー、自分達が悪い自覚あるならさっさと仲直りしなよ〜?」
「でもらん口きいてくんねえし…」
「なに子供みたいな事言ってんのいるまちゃん。早くしないと置いてくよー」
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sc.side
しばらく電車に揺られて、乗り継いで、また揺られて。
今日は晴れて良かった。
目の前に広がるのは真っ青なキラキラと光る大海原。
一方で、俺の隣りは会った時からお通夜状態。
全く、こんな天気も良くて晴れ晴れとした日にやめて欲しいよね。
「海ーーーーーーー!!!!」
海を見て海と叫ぶ何ともこさめちゃんらしい行動に自然と笑みがこぼれる。
でも大声を出すのはこれっきりにしてほしい。切実に。
待ち合わせ場所からココに着くまで、らんらんの隣は断固として譲らなかったこさめちゃんとみこちゃん。
「らんらん早よ着替えに行こ!」
「早よ着替えていっぱい遊ぶぞーーー!」
「え、と、おれ、」
あーーー、ね。
「2人とも、時と場合は考えようよ。いくらなんでも心狭いよ?」
喧嘩の原因はらんらんの服の下に隠れてる訳ね。
「いやこれには深い理由が…」
「やんごとなき理由が…」
「また言い訳?」
もー、仕方ないなあ。
こさめちゃんとみこちゃんの前でもごってるらんらんの手を取り助け舟を出す。
「ちょっと小腹空かない? らんらん一緒に売店行こうね」
「え、うん」
「こさめちゃん、みこちゃん先に着替えておいで」
「こさめたこ焼き!」
「ぅ俺は焼きそば!!」
「はいはいw」
奥のガラの悪い2人の視線は放っておいて、らんらんの手を引いてずんずんと売店の方へと歩を進めた。
「らんらん何食べる?」
「迷うな〜……たこ焼き、焼きそば、からあげ、イカ焼き、牛串、…甘いのもいいなぁ〜…」
ずらりと並ぶ売店に目を輝かせて、顎に人差し指を当て試行錯誤するらんらんは身内贔屓目に見ても幼い子供の様で可愛らしい。
全く、2人のらんらんである以前に、俺らのらんらんでもあるんだからしっかりしてほしいものだよ。
2人にならって、らんらんを任せた俺らの気持ちのやり場は?
らんらんを泣かせるくらいなら俺がもらうよ。
でもそうしないのは、らんらんが恋する青年になれるのが暇ちゃんといるまちゃんだから。
「らんらん、2人と喧嘩したの?」
「ぁ、ぅん、ごめん。空気悪かったよね…」
しょぼんとさっきまでの晴れ晴れした顔が嘘のように曇ったことに、慌てて訂正する。
「俺らはいつも通り接するから大丈夫。らんらんはどうしたいの?」
「……みんなで遊びたい」
「そうだよね。あの2人、かなり臆病で繊細でドがつくほどのヘタレだから勇気が出ないだけなんだよ」
恋人にこんな顔させて、我慢させてどうするの。
「…ぜんぶ分かってた。…おれも、大人げなかったかも…」
すこーしお兄さんだからって、いつも自分が我慢すればいい、余裕を持って振る舞わなきゃ、なんて考えてるらんらんのこと、あの2人も理解してたんじゃないの?
こういう時、同じ立場になって支えてあげられるのは俺だけの特権であってほしいと欲張りにもそう思う。
「ね、らんらん。ここは少し、年上の余裕ってやつ、見せてあげようよ」
「でね、いるまが赤の他人におれを見せたくないって、鈍感メンヘラピンク野郎って、悪口言ってくるからね、おれもいつもみたいに言い返したの! そしたら思いっきり噛まれてさ、おれびっくりしちゃって、ちょっと、ちょびっと泣いちゃったの。今までこんなことされたことなかったしね、必死におれのこと慰めてくれてたけどね、おれ恥ずかしくて、もうどうしたらいいか分からんくて、」
「2人を見ると真っ赤っかになっちゃう、と」
「…………ぅん」
いるまちゃんの言い方も良くないけど、それを悪口と捉えていつもみたいに言い返しちゃうらんらんの鈍感天然なところもまあ恐ろしい。
上半身に噛み跡付けたのは多分、らんらんの体を見せたくないからなんだろうけど、らんらんには伝わってないよいるまちゃん。
でも、あの独占欲の強い2人が初めてかぁ〜…、大事にされてるみたいで安心。泣かせた事は許すつもりないけどね。
でも、怖くなった訳じゃないらしいよ、いるまちゃん暇ちゃん。
ラッシュガード買ってないから海で泳げないって、怒ってるみたいだけどねw
ぷりぷりしながら更衣室で上服を脱いだらんらんの体についた、えっぐい痕は見て見ぬふりをして、予備で持ってきていた俺のTシャツを着せた。
みんなと合流して、らんらんは売店で買ったたこ焼きと焼きそばをこさめちゃんとみこちゃんに届けにぴょこぴょこ駆けて行った。
そんならんらんを見て、出処不明のTシャツを確認したのか俺にガン垂れながら近づいてくる姿はさながらチンピラの様。こっちにガン飛ばされる筋合いはないでしょ。
「おいおいすちくぅんよぉ、勝手に連れ出しやがってよぉ」
「一体どういうつもりだコラ」
ひとりは、下から見下ろすように、もうひとりは、見上げるように睨みきかせて肩を組んでくる。
「どっかのヘタレのせいでらんらんが困ってたからね」
「ぐはっ」
わざとらしくダメージを受けたような演技をする暇ちゃん。
話を聞く限り、痕を付けたのはいるまちゃん。いるまちゃん自身、かなり負い目を感じているようだから、これまでの大袈裟なリアクションは暇ちゃんの優しさかな。
「…らん何か言ってたか?」
いるまちゃんが重そうに口を開く。
「ラッシュガードないから泳げないってぷんぷんだったよ。その手に持ってるの、らんらんに買ってきたんでしょ?」
俺の事馬鹿に出来ないくらい、いるまちゃんも好きな子を前にすると不器用だよねえ。
そのラッシュガードだって、元々らんらん用に買ってたんじゃない。そもそも、露出させる気はなかったってことね。
「心配しなくてもらんらんは2人が浮気でもしない限り笑って許してくれるよ。早くらんらんのところ行ってあげなよ」
笑って許してくれる、それはただ自分を誤魔化しているだけ。
それはこの2人も理解ってるはずだから。だから早くらんらんを構ってあげて、1人にしないであげて。あの子は寂しがり屋で我慢強いから、口にはしないけどきっと気にしてるんだから。
ま、それ以前に、
「ねっ、」
いるまちゃんと暇ちゃんの片腕ずつを両腕で絡め取り、下から上目遣いで2人の顔を覗き込むらんらん。
「ふたりでおれのこと護ってくれるんでしょ?」
「おわっ」
「らん?」
らんらんは強い子だから。
「赤の他人に隙を与えないように、おれのボディガードしてよね」
「おれの番犬達」って、にししと悪戯気に笑いながら海の方へ駆けて行くらんらん。
その表情に呆気にとられ、反応が少し遅れたチア組が慌ててその姿を追いかけて行く。
年上の余裕作戦、こんなにもあの2人を振り回せるとは。
それにしても、番犬…ねぇ〜。
リードを握っているのはあくまでらんらんって訳、ね。
大人しく、このリーダーはみんなに護られているだけのお姫様では居てくれないらしい。
桃くん愛されが大好物です🍴🤍๑⃙⃘´༥` ๑⃙⃘
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