「乱歩さん居ますか?!」
「太宰さんが!」
「丁度帰ったところだ…嵌められたな。」
国木田と敦は事務所に帰ってきて早々に乱歩を探した。乱歩は夜中にも関わらず、国木田達が帰って来る数分前に帰ってきていた。乱歩は何かが可笑しい事に気付き推理し、全て理解したからだ。
「じゃあやっぱり太宰さんは乱歩さんが居ないタイミングを見計らって…?」
「いや、僕の出張の事件を起こしたのはポートマフィアの事務員だった。恐らく太宰の指示だろう。一介の構成員にしては無駄が無く巧妙な手口だったからな」
乱歩の憶測通り今回乱歩が出張した事件は太宰が計画した物ではあるが勿論本気の太宰ではない。太宰が完全犯罪を計画を企てたなら、乱歩でも解けるか怪しいものだ。
「あ、あの…国木田さん?」
「なんだ、敦」
国木田と乱歩が険しい顔をしている中におずおずと手を挙げだのは敦。
「太宰さんからの伝言は良いんですか…?」
「あゝ、そうだったな」
「伝言?」
「『乱歩さん、私は貴方が得意としているチェスを、貴方とする事を楽しみにしていますよ』だそうです」
何時もの飄々とした態度は頭に来ました!と憤慨する国木田とその国木田を宥めに掛かる敦を他所に一人不適な笑みを浮かべるのは名探偵、江戸川乱歩。
「チェス、ねぇ」
「乱歩さんはともかくとして…国木田君達にあの意味が伝わったかなぁ」
打って変わって此処はポートマフィア本拠地の太宰の部屋。あ?何の話だと突っ込んだのは太宰の相棒である中原中也である。
「国木田君に頼んだ乱歩さんへの伝言だよ。『チェスを楽しみにしている』という旨のね」
「流石にそれくらいは分かるだろ?仮にも探偵社の社員だぜ。味方という駒を使った、探偵との頭脳戦を楽しみにしているって事だろ?」
「そうだね。でも私が含めた皮肉に気付くのは乱歩さんだけかな」
やはり此奴は何を考えているか分からない。そう判断した中也は早々と太宰との会話のキャッチボールを諦めた。
「僕は将棋よりチェスの方が得意なんだ!」
「はあ…」
あの後三人は一度解散し、翌朝社員全員が事情を把握した頃に乱歩は如何にも「面白くない!」と言いたげな顔で叫んだ。周りは太宰の伝言の件と云う事だとは分かるが何故将棋が出てきたか分からなかった。
「乱歩さん?其れ、どう言う意味ですか…?」
敦のその質問に探偵社の大方が良くやったと心の中で賛同していた。不機嫌な乱歩に好き好んで近づく者などそうそう居ない。
「どう言う意味も何も無いよ!太宰に舐められてるんだよ?この僕が!」
乱歩の其の答えに探偵社の疑問は膨れ上がるばかり。
太宰はチェス、及び探偵社との対決が楽しみだと言っただけでは無いのか、何故太宰が乱歩を舐めている事になるのか、そもそも何故将棋が出てきたのか。
そんな疑問を汲み取った乱歩がだから説明役が居ないのは困るんだと独りごちてから口を開いた。
「ねぇ、チェスと将棋の大きな違いって何か分かる?」
「『持ち駒』かい?」
「そうだ」
偶にチェスや将棋等の遊戯に参加していた与謝野が間髪入れず答え、乱歩は其れに頷く。
「将棋は相手から取った駒を自分の駒として使えるがチェスはそうじゃない。其れを其の儘戦場に持って来ると、将棋が捕獲したりした敵をスパイにして敵陣へ送り返したり敵の行動を操心術で操ったりだけど、其れが一番得意なのは誰だと思う?」
「…太宰」
乱歩の問いに答えたのは又しても与謝野である。此処で勘が良い者は察する事ができた。
「だが僕が得意なのはチェス、心理戦の中でも“相手を操る”という部分は将棋に劣る。だが将棋よりも率直な頭脳戦になりやすい。」
「太宰さんは自分の得意な将棋では無く、乱歩さんの得意なチェスで闘うと言った…相手の盤上に乗って尚、勝てると言っていたんですね…」
「舐められたもんだね」
稀代の名探偵は笑う
「勝てるさ、乱歩さんにだって」
マフィア歴代最年少幹部は嗤う
遠くない未来、最高峰の頭脳戦が始まる
コメント
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続き楽しみにしてます!! (っ ॑꒳ ॑c)ワクワク