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研究所の中を走っていた。
廊下一帯に響き渡る警報のアラート、
後ろから来る怒声と複数の靴音。
鳴り止むことのないその音に怯えながら、
ただ懸命に走っていた。
4「はぁ…、っはぁ……」
5「四番、急げ!はやくしないと、追いつかれる!」
??「っ、大丈夫!あと、ちょっとだからな…!!」
前を走る研究員さんは、
俺たちの方へ振り向き笑顔を見せる。
俺はその笑顔に少し安堵し 、
前を向いて走り続ける。
mob「四番、五番!今すぐ止まれ!!」
mob「くそっ、やっぱあいつ、実験体を逃がしやがって…!」
mob「扉の近くに誰も居ねぇのか?!早くしねぇと、あいつらが外に出ちまう!!」
そんな声がけたたましく飛び交うが、
俺たちが足を止めることは無い。
そうして走っていくにつれ、
その音も段々遠のいていっている。
するとようやく視界の先に、
厳重そうな両開きの扉が見えた。
??「あそこだ! あそこを通れば、外に…!」
扉の横にあるカードリーダーに、
研究員さんは自身のカードを素早く通す。
すると小さく電子音がなり、
カチャリと鍵の開く音がした。
5「や、やった…やったよ、四番!俺たち、外に……!」
俺はそう言って後ろを振り返る。
しかし、後ろには誰もいなかった。
俺はそこで初めて気がついた。
廊下が異様なまでに静かなことに。
先程までの大声や足音は、
少しばかりも聞こえてこない。
??「五番!四番と、さっきまで追って来てたやつらは?!」
5「わ、分かんない…いつの間にかいなくなってて…!」
??「…分かった。それじゃあ、俺が戻って四番を探してくる。五番は先に外に出て、俺たちが戻ってくるのを待ってろ。」
5「っ、それはいやだ!俺は一緒に外に出る!!」
??「しかし…いや、分かった。四番を探そう、二人で一緒に。」
研究員さんはそう言って、
俺の肩にポンと手を置く。
俺はそれに強く頷き、
二人で元来た道を戻ろうとした。
その瞬間。
廊下にあった一つの扉が勢いよく開き、
慌てた様子の男性が飛び出してきた。
その男性の服には赤い血が
べっとりとこびり付いている。
mob「あぁ…っあぁ、化け物…化け物ぉ!!」
彼はそう叫び散らすと、
千鳥足で外へ繋がる扉へ走っていった。
5「あ、あの人…なんで、血だらけ…」
??「…あの部屋は、まさか…!」
研究員さんは慌てた様子で、
開いた扉の中へ駆け込んでいく。
俺はそれに遅れて気がつくと、
動揺しながらも続いて中へ入った。
??「四番、ダメだ!そいつに近づくな!!」
扉の中の様子を見るよりも先に、
研究員さんの声がした。
俺はその言葉に慌てて先を見る。
そこには、沢山の死体と血溜まり。
そして中心に、四番と、”誰か”がいた。
四番は虚ろな目で誰かを見つめていて、
誰かは四番の頭を優しく撫でていた。
その誰かは、近づけばすぐに分かった。
実験の過程で何度も顔を合わせた、
あの化け物のような腕を持つ三番だ。
3「だめだよ、四番。外に出ちゃ、だめ。」
4「…外に出ちゃ、だめ…?」
3「うん、だめ。だって君は、一度僕を受け入れた。僕達と同じになることを、僕の血を飲むことを、自分の意思で受け入れた。」
3「だから君は、もう僕達の仲間。出てっちゃ、だめ。」
三番はそう言ってニコリと微笑む。
その瞬間、バン、と大きな音がした。
驚いて音の方を見ると、
研究員さんが拳銃を構えていた。
その先を見ると、三番がいる。
三番はあの青い歪な右腕で、
放たれた弾丸を受け止めていた。
3「あれ、君は…誰だっけ?」
??「誰でもいい、そいつを離せ。」
3「うーん…分かった、いいよ。」
三番はそのまま呆気なく、
四番の頭から手を離した。
しかし四番は、その場から動かない。
??「随分と喋れるようになったな、三番。」
3「えへへ、そうでしょ?ボスにたくさん教えて貰ったんだ。」
3「それで…君は、何をしようとしているの?どうして僕を撃ったの?」
三番は研究員さんに問うが、
すぐに納得したような顔をして
研究員さんを指さす。
3「もしかして、君が四番を外に出そうとしてる人?」
??「あぁ、そうだ。だとしたらなんだ、止めるのか? 」
3「あはは、やっぱり!うん、止めるよ。だって四番は仲間だもん!」
そう言って三番は四番に抱きつく。
四番は、それにもなにも動じない。
三番は愛おしそうに四番を見つめながら、
意気揚々と話し出す。
3「一番がね、四番が外に出ようとしてるって、僕に教えてくれたんだ。だからそこの檻壊して、ここまで四番を迎えに来たの!」
三番は自身の後ろを指す。
そこには何か強い衝撃によって
壊されてしまった鉄格子と、
粉々になった強化ガラスがあった。
3「でもその衝撃で…ケンキュウイン?が沢山死んじゃった。ボスに怒られちゃうかな?」
??「…お前は、どうしてボスに従う?そんな力を持っておいて、どうしてボスのもとから逃れようとしない?」
研究員さんがそう問うと、
三番はキョトンとした顔をして
当然のように答える。
3「そんなの、ずっと一緒にいたいからに決まってるじゃん。」
3「ボスは僕達に生きる権利を与えてくれた。僕達はボスが大好きだから、ボスについて行くの!」
??「…そうか。」
その答えを聞くと、
研究員さんは静かに銃をおろした。
??「あいにく、四番はお前と違ってボスのことを慕っていない。五番と同じように、この施設から出たがっている。」
??「だから、四番を解放してやってくれ。」
3「えぇー…嫌だよ、せっかくの新しい仲間なのに。」
三番は不貞腐れた顔をして、
四番に抱きついたまま離れない。
俺はそこで、我慢ができなくなった。
俺は声を張り上げて、四番に言い放った。
5「なぁ、四番!お前、一緒に外に出るんだろ?外に出て、自由に生きるんだろ?!」
5「だったらそんなやつに捕まってねぇで、さっさとこっちに戻ってこい!!」
その瞬間、四番の腕が ピクリと動いた。
四番の目にゆっくりと
生気が戻っていくのが分かる。
四番は完全に目を覚ますと、
抱きついている三番に驚いて
思わず勢いで突き飛ばす。
その拍子に、三番は四番から手を離した。
4「うわっ!えっ、な、なんで、僕、抱きつかれて…」
5「四番!早く、こっちに!! 」
4「ご、 五番?うん、分かった…!」
四番は俺のもとに戻ってくる。
それを見た三番は慌てた様子で
四番に語りかける。
3「四番!違うよ、そっちじゃない!!」
3「そっちに行ったら、僕達は生きられない!だからだめだ、行っちゃだめだ!! 」
??「…四番、耳を貸すな。」
研究員さんは俺達を後ろに下がらせる。
その様子を見た三番は、
睨むようにして研究員さんを見つめた。
3「ねぇ、返してよ。僕の仲間、返してよ!」
??「…四番、五番。俺がこいつを抑える。その間に、お前らはこれ持って外に逃げろ。」
そう言って研究員さんは、
自身のカードキーを俺達に持たせる。
??「この建物は山の中にあるんだが、ここを出て太陽の方向に山を降りれば町がある。その町に行けば、一際目立つ黄色い屋根の家があるはずだ。」
??「そこは、俺の家族の家だ。そこに行けばきっと、俺の妻と息子がお前達を匿ってくれる。」
その時、ガシャンと大きな音がした。
三番が あの大きな腕を地面に叩きつけ、
苛立った顔でこちらを睨んでいる。
3「返して…ねぇ、返して…!」
??「時間は無さそうだな…ほら、お前ら!早く行け!!」
5「で、でも!カードキーが無かったら、研究員さんは…!」
??「そこら辺に倒れてるやつのカードキーを拾えば、外には出られる!大丈夫、俺も隙をついて後を追う!」
??「だから…逃げろ。」
その言葉を言い切ると、
研究員さんは三番に向き直る。
俺達は研究員さんに声をかけるが、
返答は返ってこない。
俺達は煮え切らない思いを抱えたまま、
研究員さんを残して、部屋を出た。
俺達は、外に出た。
初めての景色だった。
視界いっぱいに広がる緑と、
あまりに澄んだ爽やかな空気。
とても眩しく光る丸い何かが、
俺達を煌々と照らしている。
俺達は思わず興奮して、
山を駆け抜けながら
何度も感嘆の声を漏らす。
5「す、すごい…凄いよ、四番!」
4「うん、凄い…綺麗…!」
俺達は二人で山を降りていく。
たくさんの自然と触れ合いながら。
長い間、山の中を駆け回った。
楽しかった。何度も笑いあった。
しかし、俺はふと思った。
5「…なぁ、四番。」
5「太陽って…なんだ?」
そう、俺達は”太陽”を知らなかった。
太陽の方向へ進め、と言われたが、
それがなにだかわからない。
二人で右往左往しているうちに、
段々と体力がなくなっていく。
そのうち、辺りも暗くなってきた。
5「なぁ、四番…ここ、どこだ…?」
4「…………………」
四番から返事が返ってこない。
足音がするから、後ろにはいる。
喋る余裕も無いのだろう。
5「おーい…四番、大丈夫かー…?」
俺はそう言って、後ろを振り返る。
そのとき、四番の様子が
おかしいことに 気がついた。
顔面蒼白で、異様に息が切れていて、
苦しそうに胸元を抑えている。
5「お、おい、大丈夫か、お前…」
俺は一度立ち止まって、 四番に近づく。
四番から、相変わらず返事はない。
俺は心配で、手を伸ばす。
そのときだった。
4「…五番、助けて…」
四番が、そう言葉を吐いた。
その言葉の後に、俺は気がついた。
鬱血とした、怯えた顔。
その顔に似つかわしくないほどに、
四番の目が血走っていることに。
その瞬間、四番は俺を押し倒した。
俺は起き上がろうとするが、
四番に抑えつけられ、動けない。
四番の力が異様に強い。
俺を抑えているその腕が、
あの三番のように青く染まっていた。
5「よっ、四番……?!」
4「五番、ごめん…ごめん、なさい…」
四番は震える声でそう言った。
そのまま四番は、俺の腕を噛んだ。
5「…っ、ぐ………」
鋭い犬歯が、突き刺さった。
俺は呻き声を漏らすが、
四番はそのまま動かない。
少しずつ、血が吸われていく感覚がした。
数分の間そうしていたかと思えば、
四番はいきなり我に返って
俺から飛び退けるように離れた。
4「五番…ごめん、ごめん…!」
5「お、おい、四番…どうしたんだよ、お前…」
4「………………」
四番は俺の血で汚れた口を結び、
一度言い淀んだが意を決してそれを解く。
4「………五番………」
4「…僕…ブルーデーモンに、なっちゃったみたい…」
俺はそれを聞いて、固まる。
5「お前が、ブルーデーモン、に……?」
4「…五番、ごめんなさい…でも、大丈夫、大丈夫だから…」
四番はそう言って、俺に近づく。
俺は、何か嫌な予感を察して後退る。
しかし、四番はゆっくりと近くなる。
5「よ、四番…お前、何をするつもりだよ…!」
4「…五番、知ってるでしょ?ブルーデーモンの力。」
4「ブルーデーモンは、生物の記憶を消すことができる…全て、忘れさせることができる…だから……! 」
四番は俺の目の前まで来ると、
俺の肩を強く掴んだ。
俺の目をじっと見つめて、言う。
4「五番の記憶を…全部、消すんだ…」
4「そうすれば…僕のことを忘れれば、五番はもっと、もっと自由に生きられるはず、だから…だから……!」
四番は、笑った。
4「今まで、ありがとう。」
俺はそこで、気を失った。