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「草凪さん、今日は合唱練習、来てくれるかな…?」
ぼーっと席に座っていると、学級委員長からそう言われた。
「あ、はい…」
魂が抜け切った雪乃は、上の空で返事をする。
「あ、ありがとう。じゃあ放課後音楽室ね」
学級委員はそう言って逃げるように離れていく。
教室の空気は非常に悪かった。
皆不信の目で立花美希を見ていた。
立花は気にせず、変わらぬ様子で自分の席に座っている。
…まぁ、結局当初の計画通りに戻っただけだ。
立花の護衛。
バレてはしまっているが、付かず離れずで立花を守ればいい。
最初からそういう予定だった。
何も立花の全てを守らなくてもいい。
そばにいる必要はない。
ただ害がないように、少し遠くから見ていればいいんだ。
「……………」
何でこんなに、体が重たいんだろう。
昼休憩。
雪乃は風紀室へと向かう。
しかし、足が止まる。
…あいつがいたらどうしよう。
『あれ?立花美希の護衛をしてたはずの草凪さんじゃあないですか。
護衛対象をまんまと事件の容疑者に仕立てあげられるなんて…
風紀失格なんやない?』
想像しただけで嫌になってきた。
行くのやめようかな、と窓の外を眺めたとき、
「………?」
遠くに噴水があり、そこに人影が見えた。
あれは、立花さん…?
噴水のそばに腰掛け、何かと話している。
その光景を、雪乃はじっと見つめていた。
「あ」
だから気づかなかった。
近くにいた人物に。
短い言葉が聞こえ、バッ!と横に視線を移せば、そこにいたのは緑色のパーカーを身に纏う人物。
深く被ったフードの奥の双眸が、こちらを見ていた。
雪乃は一瞬で恐怖に陥り、サァーッと血の気が引くのがわかった。
心臓が早鐘を打ち始め、全身が震える。
逃げなきゃ
脳が警告を発した時、
「みつけた」
にぃっと釣り上がった口角が、楽しげに呟いた。
雪乃はその恐怖に耐えきれず、その場から逃げ出す。
しかし、そいつは再び追ってくる。
背後から響く足音。
怖い。怖すぎる。
何で追ってくるんだよ。
足がもつれながらも必死で走った。
でもそいつは追いつこうと思えば追いつけるはずなのに、わざと一定の距離を保って追いかけてくる。
嬲り殺すかのように。
「……っ、来ないでッ!!!」
涙を浮かべながら、心の底からの想いを叫ぶ。
聞こえない。
何の音も聞こえない。
自分の心臓の音しか、聞こえない。
「ーーー!!!」
足がもつれ、転びそうになる。
終わった。
捕まる。
もうダメだ、と諦めながら倒れそうになった時、
フワッと体が浮く。