テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#すとぷり
るぃ@BL好き 🎀♡
26,658
井野匠
2,645
312
私が目覚めると、不思議なことが起こっていた。
父君との悲しい別れを境に始まった、頭が割れるような痛みが、いつの間にか消えている。
それどころか、今まで心を覆っていた厚いモヤのようなものが、全て晴れたような気分だった。
上半身を起こすと、縁側で書を読み耽る白川殿の背中が見える。
高燈台からは、相変わらずジリジリと燈心の焼ける音が聞こえていた。
「目が覚めましたか?気分はどうです?」
白川殿が振り向いて笑っている。
その笑顔を見ただけで、何だか泣きそうになった。
「はい。お陰様で良くなりました。
ありがとうございます」
私が立ちあがろうとすると、白川殿が「まだ治療は終わっていませんよ」と言ったので、再び、板間に腰を落ち着ける。
「でも、すっかり良くなったので大丈夫だと思います」
私がこう言うと、「私の中に取り込んだ賢珍さんの雨は、まだ清められていません」と、意味不明なことを口にする。
私が、どうして良いか分からずに、白川殿を見詰めていると、白川殿が、「私と少し話をしましょう」と言ってきたのだ。
私が頷くのを待ってから、白川殿が喋り始める。
「賢珍さんは、母君が自分を捨てたと言っておられましたが、本当だと思いますか?」
私は小さく頷いた。
しかし、白川殿はゆっくりと首を横に振る。
「母君は、賢珍さんを捨てたのではありません。
命を賭して、賢珍さんを守られたのです」
「いえ。それは違います。
母君は、私を捨てて都に戻るとおっしゃっていました」
再び、白川殿が首を振った。
「母君は、都に戻るどころか既に亡くなっておられます」
私は、思わず「えっ!」と驚きの声をあげたが、すぐに気を取り直して、「そんなこと、白川殿に分かるはずがありません!」と反論を口にした。
ところが、その反論を無視した白川殿が、全く別のことを喋り始める。
「賢珍さんの幼名は、賢若というのですね。
父君は、貴族でありながら、たいそう信心深いお方だとお見受けいたします」
驚いた私が、「どうして、ご存知なのですか?」と呟くと、悲しそうな顔でこう言ったのだ。
「私は、邪気を雨と呼んでいるのですが、賢珍さんの雨を清める為に、私の中に取り込んだのです。
雨には、その人の悲しい記憶が残されています。
しかも、賢珍さんの雨には母君の思念が含まれていました」
私が思わず、「母君の思念とは…」と訊ねると、白川殿が悲しい笑顔で答えてくれた。
「母君は、賢珍さんの寝顔を見ながら、何度も何度も、涙を落とされたのでしょう。
賢珍さんの身体には、母君の涙と共に、強い思念が染み込んでいるのです。
そこに、母君の別れの言葉が含まれていました。
聞きたいですか?」
私は、くしゃくしゃの泣き顔を白川殿に向けながら、大きく頷いた。
すると、白川殿が優しい笑顔で喋り始める。
コメント
5件

後でも母の愛を知れるっていい事だね…良かったね。賢珍さん
めっちゃ切なかった……「母君は賢珍さんを捨てたんじゃない、命を賭して守ったんだ」って白川殿の言葉、胸に刺さったよ。雨に込められた母君の思念や涙をそっと教えてくれるシーン、重くて丁寧で本当に泣けた。賢若って幼名も初めて知ったし、まだ清められてない雨の話も気になる……続きが待ちきれないよ🥀