この間書いたcoffeeと言う作品に納得がいかなかったのでリベンジです。
※設定も全く違うので別物として見てください。
今日も珈琲のふくよかな珈琲の香りが鼻をくすぐる。
テーブルを布巾で拭きながら店の窓の外を見ると雪ががちらちらと舞っているのが見えた。
もう冬か。初めてここに来た日を思い出す。
「若井ー!外のプレートOPENにしてきてくれない?今、手放せなくて…」
涼ちゃんの申し訳なさそうな声に
「分かったー!すぐ行くね!」
と返事をし、布巾を片付けてドアに向った。
外に出ると冷たい風が俺の体を一瞬で冷やした。プレートをCLOSEからOPENへと表記を変えて、さっさと暖かい店内に戻る。
涼ちゃんにプレートを変えたことを伝えると「ありがとう!」と優しい笑顔で感謝の言葉が返ってきた。
その反応に嬉しくなり
「他に何かやることある?」
と尋ねる。
「えっと…テーブルは若井拭いてくれてたもんね!んー、特に無いかな!お客さん来るまでゆっくりしてていいよ!」
と涼ちゃんが言う。
「涼ちゃんはまだ作業してるじゃん!涼ちゃんに任せっきりは気が引けるよ。」
そう抗議したが、うまくに言いくるめられ、しぶしぶ涼ちゃんが作業をしている目の前のカウンター席に座ることにした。
この会話もだんだん日課になりつつある。
しばらく、涼ちゃんが作業しているのをじっと見つめていると「よしっ!」と呟いた。どうやら作業が終わったみたいだった。
時計を見るとOPENから30分経っていたのだが平日だからなのかまだお客さんは来ていなかった。
(今のうちにお手洗いにでも行こうかな)
そう思い、席から立ち上がった瞬間、
『カランカラン』とドアに付いたベルが鳴った。慌てて、
「いらっしゃいませ~」
と声をかけると、ドアの方から
「えっ……、?若井…?」
と、何処か懐かしい声が聞こえてきた。
驚いて顔をあげると知らない男性がこちらを見ていた。少し考え、思い当たる人物を記憶の中で探すが見つからない。
「…えっと…ごめんなさい。何処かでお会いましたっけ…?」
そう言うと、今度は男性の方が驚いた表情を浮かべた。
申し訳なく思いながら少し目を伏せていると男性が口を開いた。
「…本当忘れちゃったの?大森だよ?大森元貴。」
「…えっ?元貴、?」
驚いて、もう一度顔をよく見る。
メイクが施されているが顔立ちは昔見た元貴のままだった。
「本当だ…元貴だ、」
思わずそう口にする。
信じられない気持ちと、懐かしさが一気に押し寄せてきて胸がざわついた。
「やっと思いだした?笑」
元貴は拗ねたように笑った。
その笑顔を見て、懐かしさと、昔とは違ってどこか距離感に、ほんの少し寂しくなる。
(…それもそうか、)
「でも、まさか忘れられてるなんて思わなかったなぁ、ひどいよ、若井。笑」
と冗談めかした声色に、考える。
「…いや、ただ驚いただけで…元貴が此処に来るなんて思わなくて。」
「確かにそうだよね!笑」
「僕も偶然見つけたんだ。ちょっと散歩してたら、この店が目に入って。」
元貴は店内を見渡して、ふわりと珈琲の香りを吸い込んだ。
「いい匂いだね。ここ、若井の職場?」
「…うん、そう。」
どこか緊張して、言葉が詰まる。
「そっかぁ。…ねえ、久しぶりだし、少し話せない?」
「……あ、えっと、…」
なんと言えば良いのか分からず言葉に詰まっていると、
「若井、この方はお知り合い?」
と涼ちゃんがそっと僕に尋ねた。
「あ、うん。昔の…友達。」
そう答えると、涼ちゃんは少し考えて後に、にこっと微笑んだ。
「そっか!じゃあ、若井、少し休憩してきな!」
気を利かせてくれた涼ちゃんに「ありがとう」と言うと涼ちゃんはいつもの優しい笑顔で「任せて!」と言ってくれた。
元貴は俺を見つめながら、くすっと笑って。
「席、此処でもいい?」
と聞いてきた。
「うん。」
と返事をすると
元貴は手前窓際の席へ向かい、腰を下ろした。俺も少し間を置いて、その向かいに座る。
テーブル越しに向かい合って、少しだけ気まずい沈黙が落ちた。
元貴は店内を見回しつつ、ふっと小さく笑った。
「懐かしいね。まさかこんなところで再会するなんて。」
「…本当に、偶然だね。」
僕はぎこちなく相槌を打つ。
「若井はいつから此処で働いてるの?」
「えっと、もう二年くらい。」
「そっか。」
元貴は窓の外をちらりと見て、優しく微笑んだ。
「変わらないね、若井。」
「…そう?」
「元貴は…凄い変わったね。笑」
目の前の元貴は、昔の面影こそあるが全く違う。メイクを施した顔も、幻想的な雰囲気も、俺の知っている元貴ではなくなっていた。
「…音楽、続けてるんだよね。」
「うん。バンド、続けてるよ。」
「デビュー…したって聞いた。」
「お、知っててくれたの?」
元貴はそう笑う。
「…偶然、テレビとかで見かけて。」
本当は偶然なんかじゃない。
気になって、何度も検索した。
でも、それを口にするのはなんだか恥ずかしくて、適当に誤魔化した。
「ありがとう。嬉しいよ。」
「…すごいね、元貴は。」
俺が立ち止まった場所から、ずっと走り続けていた。
本当に、遠いところへ行ってしまったんだなと思った。
「若井は、音楽…もうやってないの?」
核心が突かれ、俺は少し息を詰まらせた。
「…うん。」
元貴は、しばらく俺を見つめていた。
「…そっか。」
ほんの少しだけ、寂しそうな顔をした気がした。
「…ごめん、元貴。」
「え?」
「ずっと、謝りたかった。俺が下手だったせいで…バンド、続けられなくなって。」
握りしめた手が白くなっていくのが分かった。
「…本気で、そう思ってたの?」
元貴の声が、少しだけ鋭くなる。
「…だって、俺が足引っ張ったから…元貴はもっと先に行けたはずなのに…」
「違うよ。」
元貴はまっすぐに俺を見つめていた。
「確かにあの頃は、もっと上手くなきゃって焦ってたけど、バンドをやってた時間は本当に楽しかったんだよ。」
「……。」
「若井と一緒に音楽をやれて、僕は良かった。」
優しい言葉が、胸の奥に染み込む。
「でも、若井に自分のせいだと思わせたならごめん。」
「元貴…」
「僕は、昔のバンドがあったから今があると思ってるし、若井がいたから僕はここまで来たと思ってる。」
「……。」
ずっと存在していた罪悪感が、少しだけ和らぐ気がした。
「…ありがとう。」
そう呟くと、元貴は満足そうに微笑んだ。
気づけば周りの席には何組かお客さんが座っていて、涼ちゃんが忙しそうに動き回っていた。これはまずいと思い、
「じゃあ、今日はありがとう。バンド頑張って。応援してる。」
と声をかけて席を立つと元貴に手首をつかまれた。
「…どうしたの?」
「…い、いや、連絡先交換しない?」
慌てたように言う元貴に面白くなり、笑うと「何笑ってんだよ」と怒られた。
エプロンのポケットからスマホを取り連絡先を交換する。
「じゃあそろそろ帰るね。」
分かった、と返事を返し涼ちゃんのところへ戻ろうとしたが「あっ!後これだけ!」と呼び止められる。
「…どうしたの?」
と返すと
元貴は少し照れくさそうに笑いながら、
「また会おうね、若井。」
と言って店を出て行った。
元貴の背中が見えなくなるまで見送り、ふと店内に戻ると、涼ちゃんがにこやかにこちらを見ていた。
「久しぶりの再会、良かったね。」
と言った。
「うん、まさかこんな形で会うとは思わなかったけど…っていうか!さっき忙しかったよね!ごめんね…。」
と謝ると、涼ちゃんは微笑んで
「ぜんっぜん大丈夫だよ!」
と言ってくれた。その日の営業が終わり、店の片付けをしていると、スマホが振動した。
画面を見ると、元貴からのメッセージが届いていた。
「今日はありがとう。久しぶりに話せて嬉しかった。今度、時間があるときにご飯でも行こう。」
そのメッセージを読んで、心の中に温かいものが広がった。
「こちらこそ、ありがとう。また会おう。」
と返信し、スマホをポケットにしまった。
外を見ると、雪は止んでいた。
此処まで見てくれた方、いるのかな。
これは果たしてBLというのでしょうか?
まあ、いいや
ご覧いただきありがとうございました。🙇🏻♀️
コメント
6件
おぉ〜!お話が膨らんでますね✨ 脳内再生が勝手にされちゃってます!
描き方がすごく綺麗で好きです!
素敵なお話!!! 情景が浮かびました✨✨✨ なんか切ない思いが伝わってきました😭