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その日は初夏の爽やかな風が吹き、じっとしていても汗ばむ陽気だった
アリスと北斗の二人は貞子の定めた病院訪問用の服装で、「あわじ小児疾患医療センター」の前に、選挙事務所用の白いワゴンを乗り付けた
するともうすでにこの模様を、午後のニュースに流すために、選挙ニュースサイト報道カメラクルー達と、北斗陣営のSNS広報チームも到着して待っていた
この病院の院長が北斗陣営の、有権者になった事は良いPRだ、広報チームは良いシャッターチャンスを常に狙っている
貞子曰く今日の病院訪問のドレスコードはいたってシンプルだ、長く重い病気を患っている子供達を刺激するような、服装はもっての外で、派手な色も暗い色も禁止だ
そこでアリスはオフホワイトのツーピースに、髪はアップにお団子にひとまとめにして、アクセサリーは身に着けず、ストッキングも肌色に決めた
なぜなら子供達は白衣の医療従事者達を、日頃見慣れているので、なるべくそうした人達に紛れるようにしたかったからだ
もしかしたら生まれてから一度も外の世界を、見たことが無い子供もいるかもしれない、アリスは出来るだけ子供達を刺激したくなかった
もちろん北斗も真っ白で清潔なワイシャツに、下は薄いグレーのスラックスを着用していた、北斗は見るからに賢く、政治の世界を目指し、国民のために生きたい若者にうつった
病院の入口で選挙管理委員会から派遣された、成宮夫妻を警護する男性二人が出迎えた
淡路総合病院系列の4階建ての病院のうち、エレベータ―は3階の、特に重症の小児疾患病棟階に止まった
エレベーターが開かれた途端に、二人のボディーガードが慌ただしくフロアに降り立ち、辺りをチェックする
いつもは穏やかな雰囲気なんだろう、北斗達訪問者が騒がしく到着すると、看護師達が一気に緊張の色を見せている
アリスは途端に申し訳なくなった
この様子を撮影しに来ている、選挙ニュースのカメラクルーや、北斗のSNS動画チーム達も同じ階にザワザワ入って来る
北斗は大勢のカメラクルーに囲まれながら、病棟を回り、点滴やチューブをつなげられた、小さな子供達一人一人に優しく丁寧に話しかけていた
アリスも公務だと自分に言い聞かせて、病棟の真ん中にある絵本の広場に行ってみた
そこの区間だけ床には淡い黄色の絨毯が敷いてあって、小さな本棚に沢山の絵本が並べられていた
そこで本を静かに読んでいる、おそらく治療中だろう、青白い顔の子供達数人と話をしたくなって、アリスは靴を脱いで子供達に近寄って行った
「どれか読んであげましょうか? 」
アリスがニッコリ微笑む
すると真昼間から、色んな色のパジャマを着た子供達が、嬉しそうに絵本を持ってアリスの元に集まって来た
正座しているアリスを囲んでみんなで車座になる
みんな生気が無く顔が青白い・・・ここにいるのだから当たり前だけど、健康でないことだけは確かだ
それでも好奇心の瞳を輝かせてアリスに懐いてくれた、嬉しくて涙が出そうだった
ほぼ全員がアリスが何者か知らないけど、医療従事者ではないことは理解したようだ
そしてアリスに外の世界の事を聞いてきたり、「鬼滅の刃」というアニメを知ってるかとか、質問攻めにあった