テラーノベル
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🇺🇸「父様…私、もう父様の言いなりになるのは嫌なんです。私、いや、俺は…たった今、お前から独立する」
🇬🇧「待っ…アメリカ!」
私から離れようとするアメリカの袖を必死に掴んで引き止めようとするも、戦況が悪化しボロボロになっていた私に、そんな力は残されていなかった。
彼はいとも簡単に私の手を振り払うと、冷たい視線を向け、そのままどこかに去っていった。
🇬🇧「…っ」
🇬🇧「何考えてるんですか私…もう、とっくに昔のことじゃないですか」
そうだ。
アメリカが私のもとを去っていったなんて、もう何百年も前の話。
気にすることなんてないはずなのに…
この日になると、未だに思い出してしまうのだ。
今日は7月4日、アメリカが独立した日。
今思えば、あれが悪夢の始まりだったのかもしれない。
あの日から、彼に続くように皆次々と独立していった。
もう誰も手放すまいと、必死に説得したり力を取り戻そうとしたりしたが、結局は皆離れていった。
当時他国と関わるのを避けていた私は、他国との関わりも大して持てずしだいに孤立していった。
そしていつの間にか、独りになってしまっていたのだ。
あのときは、孤立したって構わないと思っていた。
でも違った…今更こんなこと言ったって言い訳にもならないけれど、知らなかったんだ。
独りがこんなに辛いなんて。
知らず知らずのうちに流れていた涙をゴシゴシと乱暴に拭い、近くに置いてあったテディベアを抱きしめる。
いつもはこれで少しは気持ちが落ち着くのだが、今日はダメだった。
あのときの記憶が鮮明に脳裏に焼き付いて離れない。
どうにか気分を落ち着けようと、私はソファから立ちあがり紅茶を淹れる。
必死に他のことを考えながら、紅茶を1口飲んで深呼吸する。
……やっぱりだめだ。
孤独を紛らわすどころか、静かで大きな部屋にいるせいなのかさらに寂しさが増してしまった。
🇬🇧「…っ、もう、どうすればよかったんですか……」
孤独と不安に耐えきれなくなって、私はぼろぼろと涙をこぼして机に突っ伏した。
こんなことは望んでいなかった。
本当は、ただ、ただ……
………本当は、何がしたかったのだろう?
それすら分からなくなっていた。
あのときの私は、ただ力が欲しかっただけなのか…?
分からない…
いつからだろう?
何も分からない……
🇬🇧「はぁ…」
自分の愚かさに、思わずため息が出る。
辛い…辛いのに……
それすらも何故だか分からなくなるなんて。
私はなんて馬鹿な国なんでしょう。
息子達に会ったら、何か分かるのかな?
少しは楽になれるのかな…?
いや、会えるわけないよな…
だって私は彼らに散々酷いことをしてきた。
彼らが私を恨まないわけがない。
きっとこれが、たくさん酷いことをしてきた私への報いなんだ。
そう思い至ると、だんだんと気力が失われていった。
もういい…もう何もしたくない……
そんなことを思いながら机に突っ伏していると、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
3日後の夕方、私は買い物をするために街を歩いていた。
未だにアメリカたちのことが頭から離れず、ずっと孤独に支配されていた。
あのとき私は、どうすれば良かったのだろう。
もっと他国と仲良くできていれば…それか息子達にもっと優しくできていれば少しは変わっていたのだろうか。
……だめだ。
また気持ちが暗くなってしまう。
なんとか気を紛らわそうと顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、色とりどりの短冊が吊るされた1本の笹だった。
私は、引き寄せられるようにそれに近づいていった。
風になびく小さな紙たちには、それぞれに願い事が書かれていた。
学校のこと、恋愛のこと、叶えたい夢のこと……実に様々だ。
🇬🇧「そういえば今日、七夕でしたね…」
せっかくなら私も何か書こうと思い、近くに置かれていた短冊とペンを手に取る。
何を書こうかと少し考えて脳裏に浮かんだのは、ずっと昔に見た息子たちの顔だった。
🇬🇧「…そ、そんな願い事、私が書いて良いわけないじゃないですか」
望むべきではないことを望んでしまった自分を戒めるようにそう呟いてみるが、ずっと心に巣食い続けている孤独と後悔には抗えなかった。
ペンを持つ右手は既にゆっくりと動き始めていて、気が付くと丁寧な字で短冊にこう書いていた。
『息子達にもう一度会って、謝れますように』
それから私は、なにかに取りつかれたような淡々とした動作でその短冊を笹に吊るす。
🇬🇧「まあ、良いですよね、願うだけだし。どうせ叶わないんですから…」
半ば諦めるように、自分に言い聞かせるようにそう言い、笹が飾られている場所を後にする。
空はもう暗くなり始めていて、星が幾つか瞬いていた。
🇬🇧「はぁ…帰ってきてしまいましたね…」
家の扉を開けた途端、思わずため息が漏れた。
本当は家に着きたくなかったのに。
ここにいるとまた孤独に苛まれてしまいそうだから。
そんな気持ちとは裏腹に、私の体は部屋の中へと向かっていく。
そして、ソファに置いてあったテディベアを抱きしめると、そのまま横になった。
そんなことをしていると、また少しずつ心が孤独に侵されていく。
たまらなくなった私はゆっくりと体を起こして窓の傍まで寄ると、そっとカーテンを開けて空を見た。
そこには満天の星が広がっていた。
しばらくぼーっと空を見つめていると、ふと視界の端に誰かが映った。
何気なくそちらに目を向ける。
🇬🇧「え…?!」
驚愕のあまり声が漏れてしまった。
そこにいたのは、紛れもない私の息子…アメリカだったのだ。
なぜ?なぜアメリカがここに?
私に会いに来た?いや、そんな訳はない。
でも、ここには他に大したものも無いし、なぜ…?
思考が追い付かずにフリーズしている私に気付いたのか、アメリカがゆっくりと近づいてきた。
🇺🇸「げ、親父…?なんでここにいんだよ?」
🇬🇧「……それはこっちのセリフです。何の用ですか?」
自分でも信じられないほど冷たい声が出た。
🇺🇸「別にお前のとこに行こうとしたつもりはねぇよ」
そう言ってアメリカが去っていこうとしたとき、遠くから聞きなれた声が聞こえてきた。
🇨🇦「おーい兄さん!そっちじゃないってば!!」
アメリカの後を追って走ってきたのはカナダだった。
その後ろにオーストラリアとニュージーランドも続いている。
🇦🇺「え?!父さん??!!」
最初に私に気付いたのはオーストラリアだ。
その声でカナダとニュージーランドもすぐに私の存在に気付き、驚愕を顔に浮かべる。
🇦🇺「なんで?どうして父さんがここにいるの…?」
🇬🇧「どうしても何も、ここが私の家だからですよ」
🇺🇸「え?でも、昔俺らが住んでた家ってここじゃなかったよな?」
🇬🇧「あのときここの家は別荘になってたんですよ。前の家はあなたが独立するときに散々荒らしていったでしょう」
🇺🇸「あーそういえばそんなこともあったけな?」
🇬🇧「全く…それよりあなたたちはどうしてこんなところにいるんです?」
🇨🇦「あ、僕たちは星を見に来たんだ。今日、この辺りで星が綺麗に見えるみたいで」
それに今日は七夕だしね、とこちらに笑顔を向ける。
🇳🇿「それで、近くの展望台に向かってたんだけど、アメリカ兄さんが道を間違った道をどんどん進んで行っちゃうから呼び止めようと追ってたらここに着いたんだ」
🇬🇧「そうなのですね。なら早く行きなさい」
正直久々に息子達に会えて凄く嬉しかった。
嬉しいはずなのに、口から出たのはそんな冷たい言葉だった。
やっぱり、沢山酷いことをしてきた息子たちと顔を合わせるのが怖いのだ。
どう思われているか分からない。
きっと相当恨まれて、嫌われているのだろう。
だめだな、私は。
せっかく息子達と会うことができたのに、冷たい言葉を発することしかできない。
ずっと孤独に苛まれて、苦しんでいるくせに。
誰かに傍にいて欲しいと思っているくせに。
やっぱりだめなんだ。
きっとこれからも、寂しい思いをしながら生きていくんだろうな…
そう思って、思わずため息が漏れそうになった、そのとき。
🇦🇺「ねえ、良かったら父さんも一緒に星、見ない?」
🇬🇧「え…?」
🇳🇿「そうだね!せっかく久々に会ったんだし。カナダ兄さんとアメリカ兄さんも、良いよね?」
ニュージーランドが笑いかけると、カナダとアメリカもこくりと頷いた。
🇦🇺「父さん、どうかな…?」
🇬🇧「ほ、本当に良いんですか?あなたたち、私のこと恨んでるんじゃ…」
🇦🇺「恨んでる?どうして?」
🇬🇧「だって私…あなたたちに散々酷いことしてきたから……」
私がそういうと彼は、「ああ、そういうこと」と笑顔を浮かべた。
🇦🇺「別に憎んでなんかないよ」
🇬🇧「え?」
サラッとそういった彼の言葉が信じられず、目を見開いて息子達の顔を見回す。
🇨🇦「確かに酷いこともされたかもしれないけど、そんなの父さんに限ったことじゃないし」
🇺🇸「まあなんだかんだで、俺らのこと育ててくれたしな」
🇳🇿「うん。僕たち、お父さんのこと、全然恨んでないよ!」
全員が、暖かい笑顔を私に向けてくれていた。
目の奥に熱いものがこみ上げてくる。
それをこぼさないように1度上を向いて目をぎゅっと閉じてから、彼らに向かって思い切り頭を下げた。
🇬🇧「ごめんなさい!たくさん酷いことして。辛い思いさせて、ごめんなさい!でも…やっぱり私、あなたたちと一緒に居たい。もう独りは嫌なんです。また、私の傍にいてくれませんか…?」
そこまで一気に言い切ってから、恐る恐る顔を上げる。
…やっぱり言い過ぎたかもしれない。
また傍にいて欲しいなんて、そんな我儘なこと……
そんなことを考えていた私の目に入ってきたのは、明るい笑顔を浮かべる息子達だった。
その表情が、ずっと昔の彼らと重なる。
🇨🇦「もちろん!また沢山お話しよう」
🇺🇸「俺もたまには遊びにくるか…」
🇦🇺「うん、僕ももっと父さんと話したい!」
🇳🇿「いつも一緒にいるのは難しいけど、なるべく一緒にいられたらいいな」
🇬🇧「…っ!あなたたち…!」
再び目の奥に熱いものがこみ上げてきた。
また上を向いてこぼれるのを防ごうとするが、今度はだめだった。
私はその場に崩れ落ちると、ボロボロと涙を流して感情を爆発させた。
🇬🇧「良かった…良かったです……。私、ずっと、ずっと寂しくて…それに、みんなに恨むまれてるんじゃないかって思うと、怖くて…うぅ…」
🇺🇸「親父…」
泣きじゃくっている私の肩に、アメリカが静かに手を置いた。
久しぶりに感じた他国の手のぬくもりに、心がすっと落ち着いていく。
やっと泣き止んだ私の頭上に、カナダの控えめで優しい声が降り注いだ。
🇨🇦「父さん、あんまりのんびりしてると遅くなっちゃうし、星、みんなで見にいこっか」
🇬🇧「ええ、行きましょうか」
そう言って私は、顔を涙で濡らしたまま彼らにとびきりの笑顔を向けた。
🇬🇧「あ…」
不意に、さっき書いた短冊のことを思い出した。
あんなの子どもの遊びのようなものだと思っていたのに、まさか本当に叶うなんて。
本当に願いが叶うなら、もっと大きなこともできたのだろうか?
それこそ、昔のような力を取り戻すとか……
いや、きっとそれが叶ったとしても、きっと幸せにはなれないだろう。
どうせ同じ失敗を繰り返すだけだ。
これで良かったのだ。
だって今、こんなに大切な人たちが傍にいてくれているんだから。
私はそっと空を見上げる。
この星たちが叶えてくれたんでしょうか?
それとも、息子達が自ら…
いや、そんなわけないですよね。
ふふ…でも、お礼はみんなに言っておくべきですよね。
🇬🇧「ありがとうございます、皆さん」
🇺🇸「親父?なんか言ったか?」
🇬🇧「いえ…なんでもありません」
🇨🇦「あれ?父さん!兄さん!どうしたの?」
🇦🇺「早くしないとおいていっちゃうよー!」
いつの間にか、私とカナダたちの距離が開いてしまっていたようだ。
きっと無意識のうちに歩みが遅くなってしまったのだろう。
じゃあ、アメリカは私の速度に合わせてくれていたのか。
なんだかんだで優しいんですね…
🇬🇧「すみません…!今行きます!」
私はそう言って、笑顔で彼らのもとへと走っていった。
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