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I︎✦︎side
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「じゃあ、行ってくる。」
そう言って仕事に行く志摩の背中を見送った。今日はいつ頃に帰ってくるのかな、なんて悠々と居間に戻る。結局あれから夜中までぶっ通しで続けたせいで寝不足だ、折角だしちょっとだけ寝ようか。そう横たわり、瞼を閉じて時間が経つのを待った。__が、すぐに”窓ガラスが割れる音”で夢に入るのをせき止められた。びく、と肩が跳ね上がる。誰?不審者?空き巣?そうぐるぐると思考を掻き乱しながら、ふと何を考えたのか、難から逃れようと腰を上げ玄関に向かおうとした…が、直前で留まる。危なかった、俺が外に出たらどうなるかなんて目に見えてる。あっちではきっと俺は行方不明扱いだ、もし見つかりでもしたらこの生活は崩れる。そんなのは絶対に嫌だ。けれどこの家には確実に誰かが入ってきてる。いや、何をしてる、真っ先に彼に助けを求めるべきだろうここは。慌ててスマホを持ち、震える手で画面と顔を合わせた。【志摩】【志摩助けて】【家に誰か入ってきた】。焦る、息が上がる。 __
「伊吹くん?」
時間が止まる。
目の前には知らない男が立っていた。悪寒が背中を走る。自分を「伊吹くん」と呼ぶその男は、俺の姿を見るなり忽ち顔色を変えた。それは喜びも、焦りも、高揚も、色々な感情が混ざっているように見えた。逃げようとした頃にはもう遅い。視界が反転したかと思えば、だんっ、と肩に痛みが走ったのが分かった。__押し倒された。俺を見るその目が、ねちっこくて気持ち悪い。
「っ何すんだよ!辞めろよ、っ離せ!クソ!」
「俺、俺ずっと君が好きだったんだ」
「はっ…?」
こんなの誰が予想しただろうか、そう捲し立てられ、抵抗する間もなくキスを落とされた。逃げられないようにと両手を抑えられる、細身な見た目に反して無駄に強い力が俺を縛り付けた。嫌だ、気持ち悪い、苦い、苦い苦い苦い。
__「あんな奴に閉じ込められて嫌だったよね」
__「しかもさ、したくも無いえっちも無理矢理させられて」
__「迎えに来るのが遅くなってごめんね、これからは俺と暮らそうね」
意味が分からなかった、そもそも何でコイツが”それを知ってる?”盗聴器でも仕掛けたのだろうか、だとしたらいつ?おかしい、おかしいおかしいおかしい。投げかけられる言葉も、きっとこの男の想像で都合のいいように改造された上での発言だ。コイツは、俺の何を知ってるんだよ。俺は最後まで抵抗を諦めなかった。しかし、それを邪魔に思ったのか思いっきり頬をぶたれ、無理矢理抵抗を止められる。
__「ごめん、ごめんね。あんまりにも抵抗するから…伊吹くんは俺の事が好きなのに。ああ、アイツの匂いが染み付いてて気持ち悪い。上書き、上書きしないと」
ダメだ、直感的にそう思った。けどそれも虚しく、軽々と服を脱がされる。ほんとに、ほんとにダメ、嫌だ、いやだいやだ。__どっ、と下半身に鈍痛が走る。
「ぃ”っ、…、っ待っ、抜いてほんと、っ抜けよ!やめっ…っ!!」
痛い、痛い痛い、無理に動かれて苦しい。もうただ泣きじゃくることしかできない。志摩、志摩以外でこんなことしたくなかったのに、志摩以外知らなくて良かったのに。全部、全部諦めて、目を閉じようとしたその時__男の口から大量の血が溢れ出た、ぼたぼたとそれが俺にかかる。行為が止まり、自分の呼吸が有り得ないほど早くなっている事に今気付いた。何が起きたのか理解する前に、”誰か”の手で俺から男が引き剥がされる。目に映ったその人は紛れもなく、__志摩だった。俺が言葉を発する前に、男の嗚咽が耳を通ってきた。志摩が手に持つその包丁が、全てを物語っている。彼はタガが外れたように男に馬乗りになり、その包丁を何度も何度も振り下ろした。男はすぐに動かなくなった。それが志摩の我を返すスイッチになったは良いが、色々、もう遅かった。
「…伊吹、俺」
「…うん」
彼の口には出せない謝罪が、息となって落ちていったのが分かった。もう、引き返せないところまで来てしまった。けど、そんな事は俺の頭には無かった。これがきっと、愛なんだ。それがどんな手段であろうとしても、必死になって俺を守ってくれたことが何よりも__。
「志摩、一緒に逃げよう。」
end.
コメント
4件
ひーゃーー!;;歪んだ愛…素敵すぎる…🥺前回含め、めちゃめちゃ主様の物語大好きすぎます…!!♡
前回含め…、すげぇ…