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「では、我が国にもバーランド王国と交易出来る可能性が……」
これは飴だ。
ムチと飴を使い分けるプロ。
それが聖奈さんだ!!
「あくまでも先の話です。この話を持ち帰れば、国内も纏め易いのではないでしょうか?」
「おぉおぉ…それであれば二つ返事で了承しよう!」
アーメッド共王国としてはこのままではこちらの言いなり。
それでは王家の威信が落ち、国内が乱れる恐れがある。
その為にこの三国同盟の見届け人であるバーランド国王と親密になり、この同盟はむしろアーメッドにとって利となるモノだよ、と国内に晒しめることが出来る。
国の利益も多大だ。
バーランドとの交易の話は皇帝にとっては寝耳に水で、かなり悔しそうな顔をしていた。
しかし、目的は達成出来たのだから何も言えず。
問題は交易路なんだよな。
ま、そこに関してはエリーが頑張っているから期待しよう。
3カ国会議は三国同盟の可決という結果になり閉幕した。
神聖国?
終始空気だったな。
もちろんアーメッド共王国に変に勘繰られない程度には発言していたが、元が宗教国家で領土を広げる戦争を良しとしない国風だ。
しかし、小国家群に住まう全ての民の安寧の為の戦争であることを全面に出して国を纏めると話していた。
そして戦後は、大国二つに囲まれて外敵がいないことから、武力放棄する旨の同意書にサインした。
これがアーメッド共王国の背中を押して『それであれば将来の不安も少ない』と思わすことに成功し、トドメに聖奈さんの飴ということになった。
皇国からすれば属国以上の関係の為、いざとなれば軍事支援は全力だろう。
この事実を知らないアーメッド共王国には悪いが、代わりにウチと仲良く出来るのだからプラスの同盟だと思う。
そして今の季節は秋を迎えていた。
月見酒のシーズンだが、俺の目の前に酒はない。
「セイくん。聞いてる?」
「聞いてるぞ。エリーを連れて下見に行けって話だろ?」
ここはバーランド王国王城の一室。
遂に内装が全て揃い、王城で普通に生活をしている。
ここは王族専用の居室。まぁリビングだな。
そこにいるのはいつものメンバーだ。
仲間にはそれぞれ王家の紋章が刻まれた短刀を渡してある。
俺が欲しかった印籠みたいなモノで、これがあると国内で入れない施設はない。
個人に渡したモノであり、ライルの子供が出来ても受け継がせることができない代物だ。
俺も欲しいと聖奈さんに伝えたら『…意味ないよね?』と一蹴された。
男の浪漫がわからんやつだ。
「うん。ミランちゃんと二人きりで出掛けないようにね!私も行きたかったんだから!」
「…セイさん。エリーさんはお腹が痛いようなので二人で行きましょう」
「!?まだ食べれるです!!ミラン!おやつを独り占めしてはいけないのですっ!!」
あーやかましい。女3人寄ればなんとやら……
まぁ久しぶりだからいいけど。
「場所は写真と地図を渡しておくから」
「頼むわ」
写真は俺が新たに撮ってきたものだ。
というか、動画を聖奈さんが切り取ったんだけどな。
交易路開拓の為に、バーランドの東側の山脈とアーメッド共王国の西側の山脈にドローンを飛ばして撮影してきたモノだ。
そこから交易路に使えそうなところを聖奈さんや有識者にピックアップしてもらい、エリーに調査をしてもらうことになっている。
何故エリーに?と、思うことだろう。
全ては新しい魔導具…というか、聖奈さんが依頼していたモノを作った製作者がエリーだったからだ。
その魔導具とは……
「遂に私の発明が役に立つです!!」
「いや、自動車も十分役立っているぞ?」
最近はとんと出番がなかったが、致し方ない。
魔導王国でもまだまだ実用性の高いものは出来ていないが、それも致し方ない。
「セイさんのじゃないです!世のため人の為にですっ!」
「…本音は?」
「認められればセーナさんからデザートが出るです!!」
俺以上に現金なやつだ……まぁ扱いやすいからいいんだが。
翌朝、眠たい目を擦りながらミランを含む三人で現場へと向かった。
「うーーん」
エリーが唸っている。
腹が減った時以外では見たことがないから新鮮だなぁ。
「良いところがなかったか?」
「そういうわけでは……」
「次を見てから決めようか?」
まだ候補地は残っている。
選ぶのはそれを見た後にしよう。
「はいです…」
普段モノづくりにしか頭を使わないから大分消耗しているな。
こんな時は……
「これでも食べて元気出してくれ」
俺はスティック型の完全栄養食を渡した。
恐らく日本で一二を争うくらい有名なアレだ。
「美味しいですぅ!!」「美味しいですが喉が渇きますね」
目一杯頬に詰め込んだリス2匹を連れて転移した。
この二人を餌付けしていると安心するのは何故なのだろう……
「決めましたっ!」
遂に交易路予定地が決定したようだ。
あくまでも予定だが。
「わかった。じゃあ帰って報告しような?」
「はいです!」「わかりました」
この二人といると、自然と保育士が体験できる。ならんけど。
「なるほどね。土壌の硬さや岩盤の硬さとか色々見たんだよね?」
保育士が園児に最終確認をしている。
バスに乗る前にトイレに行きなさいってヤツだ。
「はいですっ!あそこは道幅もあるです。一番良かったのは風通しです!」
「その問題もあったね。風の魔導具の専門家が言うのなら、そこが一番安全そうだね」
保育士は褒めるのも上手い。
俺のことも褒めて伸ばして欲しい。
「ですが…この世界で本当に出来るのでしょうか?」
「大丈夫だよ。失敗しても次があるからね」
「失敗って…死人が出るよな?」
「地球では死人が多かったみたいだね。でもそこはエリーちゃんの魔導具!出来るよね?」
ミランは例のアレがこの世界で再現できるのか不安なようだ。
もちろん俺もその一人。
聖奈さんはたとえ失敗しても、そこから学べば良いくらいのスタンスだ。
しかし基本は、アレが失敗すれば死人を伴うことが多い。
「完璧です!ただ200mくらいです。なので200mおきに補強が必要です!」
「うん。それだけあればかなり安全マージンは取れるね!
セイくん。確かにしたことがなくて、私達にもその知識はないよ。
でも、この世界でやらない理由にはならないよね?完璧な安全はないけど、やってみない?」
殆どは聖奈さんが決定する。
しかし、大事なことは俺に決断を求めてくるんだよな。
これは異世界転移する前からだ。
商人としては相棒で会社では社長。
ここでは国王としてきちんと任せてくれる。
それなら俺は国王として、それに応えるしかないよな?
「良きにはからえ」
「……時代劇の見過ぎなんじゃない?」
…はずかちっ!!
「飯はまだか?」
終始黙っていたライルの発言により、会議は終了した。
後は個々に動くだけだ。
「その節は世話になった。あれから変わったことはないか?」
ここはアーメッド共王国の王城内のサロン。
今回は国王としてやってきたが過度な歓迎は例により断っている。
「世話になったのはこっちもだ。変わったこと?それは交易路のことか?」
「ふっ。ストレートな物言いだが、嫌いではない。そうだ」
ここに来たのはそれが理由なんだよな。
俺も堅苦しい話はさっさと終わらせたいからストレートにいこう。
「今日ここに来たのはそのことで願いがある。何。簡単なことだから、そんなに身構えなくて良い」
「そ、そうか。では、簡潔に聞きたい」
俺も詳しくないから簡単にしか説明出来ません。
「ミークアイ村という村があるな?その村の近くに現場を構えたい。そのお願いだ」
「ミークアイ村?待ってくれ。今調べる」
共王はそう言うと地図を取り出して確認する。
「このような辺境の村に?現場というのはなんだ?」
「交易路を作る為のこちら側の拠点だ」
「おぉ…つまり、ミークアイ村まで交易路を拓けるのだな?!」
「恐らくな。なにせ初めての工事になるから失敗の可能性も十分にある。
そちらにはいずれミークアイ村までの道路整備を頼みたいが、先ずはその工事に目処がついてからになる。それまでは予定でいてくれ」
なんせこの世界初だろうからな。
いや…別大陸の文明具合ではすでにあるかもしれん。
共王に許可を取った俺は寄り道せずに帰還した。
やらなくちゃならないことというよりも、俺しか出来ないことが多すぎるんだよな……