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「2年の大事な校外学習だ。
今から班決めするが、かーなーらーず、男女合同で5人組になれよー」
先生はそう言って教卓を軽く叩き、生徒全員に目を合わせる。
正直、胃が痛いです。
なんて先生に意見できるわけもなく、私は一点を見つめる。
周りはすでにグループを作り始めていた。
もちろん伊郷くんの周りには女の子たちが群がっていた。
「ねえ先生!男女比は決まってないですよねぇ!」
と先生に対して元気よく質問する女の子たち。
先生は困ったようにしつつも「まー、偏り過ぎはよくないがな」と言った。
その直後に女の子たちからのブーイングが飛び交う。
必死に宥めるように勤しむ先生の姿に笑いそうになるのを必死に抑えた。
えぇい!と立ち上がると、伊郷くんの友達の1人と目が合ってしまった。
いつかの日、私と目が合って、意味ありげな表現をした男の子だ。
ちなみに手作りクッキーを捨てた日も、1番に私に気がついたのもその子である。
名前は田中遼太郎くんだ。
「ねぇ〜オカンはこっち〜」
“オカン”と呼ばれているのは紛れもなく田中くんに対してだ。
田中くんはいわゆるお母さんのような眼差しと接し方から”オカン”と皆から呼ばれていた。
もちろん私も心の中ではそう呼んでいた。
“オカン”も伊郷くんと同様に人気者で、顔が良すぎている。
茶髪の短髪で少し厳つい顔つきだが、優しい世話好きな性格のため、かなりのギャップの持ち主。
シルバーピアスなど、アクセサリーは必ずつけていて、とても似合っている。
田舎の高校には、いい意味でも目立っていた。
目が合ったのは、私の勘違いということにして、ふらふらと歩き出す。
行くあてもなく…だが。
(誰か…いないかな)
クラスで交流を避け続けていたのが仇となる。
「あと10分な〜」という疲れ果てた先生の声に心臓が跳ね上がった。
今の時点でグループができていないのは…
先生の呼びかけにも反応せず、座り続けている海東くんと、女の子たちに「あと1人いける!」と無茶な願いと共に誘われ続けている伊郷くんとオカン。
あと……
ギャルだ。
廊下側に座って、爪磨きをしているギャルだ。
唖然としながら見つめてしまっている私に、ギャルはすぐに気づいたようで「ん?」と眉を上げて見ている。
何も言わない私にギャルは大きな声で言った。
と。
ついでに
と言った。
伊郷ファンクラブ所属の女の子たちと、オカンを必要視していた女の子たちの視線が一斉にギャルに向いた。
「そうだな、君たちはもう5人だ。諦めなさい」と自信なさげに先生は言った。
「うち名前書いちゃうね」と、ギャルは長い爪を自身に向けた。
言葉にならない感情に、私は口をパクパクすることしかできない。
黒板に
私の名前と海東くんとオカンと、伊郷くんのフルネームが書き出される。
最後に自分の名前をギャルは丁寧に書き上げた。
漆原ゆきさん。
漆原さんは始業式の日に話したのをはっきりと覚えている。
漆原さんのロングヘアは、うる艶が常に保っているし、メイクも怠る日を見たことがないし、いつも可愛いスクールバッグを肩に背負って登校してくる。
そんなこともあってか、よく思わない意見も多いわけで。
始業式の日、同級生5人に詰め寄られていたのを私はこの目で見ていた。
何かを言い終えたあと、近くで固まってしまっていた私を見て漆原さんが
「てか見すぎ!」
と笑ったのだ。
助けることもできず、固まるだけの私を非難するわけでもなく、漆原さんは笑ったのだ。
______
「では組んだグループで校外学習で課題を前もって決めていきましょう」と言う先生の合図で集まることとなった。
なんとも言えない雰囲気に慣れるわけもなく。
案の定、違うグループでありながら、伊郷ファンクラブ所属の女の子たちがあちこちから伊郷くんに対して釘付けの視線を向ける。
海東くんはまっったく参加しようとしないし、伊郷くんと漆原さんは何故かお互いが真顔で睨み合っていて、それをオカンがなだめているし。
私がいるこの場所は私がいるべき場所ではないのでは!?と心の中で叫ばずにはいられない。
漆原さんが一言、「なにか調べたいことある?」と言ったことで、周りも調べ物に集中し出すようになっていた。
やっと視線が消えた…とホッとするのも束の間。
「伊郷、意見は?」
漆原さんの、伊郷くんに対する敵視した言い方に伊郷くんも黙っていることはできないようで、鼻で笑ったあと、向かい合って座っている漆原さんに向かって顔を寄せた。
「俺に聞くな」
なんて嫌味たらしく言う。
「伊郷、あんたちゃんと話し合いなさいよ」
「はぁ?遼太郎がこいつと話し合ってろよ」
「私はあんたに言ってるの」
横で繰り広げられるやり取りに、私が入っていけるわけがなかった。
海東くんも同意見らしく、私をじっと見つめてくる。
いやいやいや、私に視線を向けられたとて、何もできないよ、と首を横に振った。
「要っちは何かある?」
「へ?」
まさか不意に話しかけられるとは露知らず、私は悠然と構えていたので声が裏返る。
「ぁえっと、多分海東くん詳しいんじゃないかな…?」
ぶち転がすぞと怒りの顔をした海東くんに何度も謝るジェスチャーをして見せた。
「歴史や文化に着目するなら、ここがいいんじゃないかな。
明治からある立派な灯台があって、昔の暮らしや船の歴史を感じられる場所だと思う」
先ほどまで黙っていたとは思えないほど淡々と海東くんは意見を出す。
さすが、図書委員だなと感心してしまう。
「へえ〜!
海東くんすっごいねぇ!」
漆原さんも私と同様に感激したらしく、目をまんまるくして、両手を叩いて興奮を露わにした。
「灯台よりお寺とか神社の方が話聞けるし、まとめるのに有利だと思うけど」
私たちは一斉に伊郷くんを見る。
伊郷くんはそのまま話を続ける。
「海東の言ってる灯台は、出発地点から徒歩45分も離れてるだろ」
海東くんと伊郷くんを交互に見る。
「俺は別にいいんだよ。
ただ意見を要さんから聞かれたから答えただけだ」
「どうしたい要さん」
「え?」
伊郷くんは私に話を振り、意見に乗るように 海東くんも私の目を覗き込んだ。
海東くんの鋭い目と伊郷くんの甘い目に、私は今にも倒れそうな身体を保ち、ごくりと固唾を飲んだ。
「どっちも行きたいです…」
自分なんかが2人の意見をぶった斬ることなどできるはずがない。
漆原さんとオカンがフッフッと笑い出し、終いには大笑いしていた。
海東くんと伊郷くんは変わらず、不満げな表情をしていた。
「校外学習って、ただ行くだけじゃなくて“何を学ぶか”が大事だと思っていて…
灯台は海の歴史を実感できるし、お寺は昔からの文化や人の暮らしが分かる……
自然と歴史、両方体験できるのってむしろ贅沢だと思うんです…!
どっちか一つに絞るより、両方行った方が絶対記憶に残る校外学習になると思うし、私はみんなとやり遂げたいなって…思って、おります」
息継ぎするのを忘れていた。
高校2年にして、教室内でここまで話をしたのは初めてだったからだ。
「いやいや、や〜何、要っちどうした?」
話し終えた私に漆原さんは目に涙を浮かべながら笑い堪えていた。
伊郷くんとオカンは眉を下げて笑っていて、海東くんは「じゃあどっちも行くしかないな」と呟いた。
「え!?いいの!?」
「なんで驚いてんの、あんな熱量で語られたら賛同するしかないよ」
「伊郷も海東くんも要っちに甘いなぁ」なんて漆原さんは腕を組みながら言う。
どうも感心しているように見えた。
「ありがとうございます…」
律儀にお礼を言ったのち、私は視線を落とし、居ても立ってもいられない様子で胸の奥に溜まった想いが零れそうになるのを必死にこらえていた。
今にも泣いてしまいそうだったからだ。
放課後
ただいつもと変わらない手順で帰る支度をしていた。その平穏を破るように、誰かの声が背中に届いた。
「要さん」
「はい!」
振り返るまでもなく私は驚いて勢いのまま返事をする。
「ちょっと来て?」
ハッとし、背後を確認する。
声の主は、
「伊郷くん!?」
だった。
伊郷ファンクラブ所属の女の子たちは悔しそうに感情を押し殺すのに必死なようだった。
そんな光景が伊郷くんの背後で繰り広げられているため、私は困ってしまった。
そんなことはお構いなしに、伊郷くんは子犬のような顔で私を見つめる。
「ここで…もいいかな?」
このまま伊郷くんと教室から抜け出したら、明日には私の命がないことは分かっている。
意見し出す私に伊郷くんは唇を尖らせた。
そんな伊郷くんを間近に見た私は、可愛すぎる、という感想だけが頭に残った。
「お願い、ここじゃ話せない」
耳元でそう呟いて、意味ありげに唇の端がわずかに持ち上がったのを私は確認した。
一気に顔が真っ赤になり、居ても立っても居られず、足早に教室を後にした。
「待って!」
走り去る私の背後からまたしても伊郷くんの声が聞こえる。
「伊郷くんはもうちょっと自分の人気ぶりを理解した方がいいです!」
一気に昂った感情が湧き上がって、振り返ると同時に自然と伊郷くんに言い放っていた。
一瞬で悲しい顔をした伊郷くんを私は見逃さなかった。
「わりぃ…」と彼は視線を逸らし、かすれた声で謝った。
「さっきの話し合いの時に、俺の意見も賛同してくれたのが嬉しくてつい…」
「え…」
「あと結構意地悪しちゃうんだよな、要さんって皆んなと違って俺のことちゃんと見てくれてる気がして、甘えすぎてたわ」
また「わりぃ」と言って伊郷くんは私の言葉を待たずに走り去っていってしまった。