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翌日――。
今日の野球部も、いつものように練習が行われていた。
部員は4人。
ピッチャーの龍之介、ファーストのミオ、ショートのアイリ、センターのノゾミである。
本来、4人だけでは練習すらままならないところだが、今は2099年の技術がある。
野球ロボたちが4人の練習をサポートしていた。
『ピピッ! では、センターへの打球です』
ロボ1号がノックを行う。
そして、正確な打球をノゾミへと放った。
「来たっ! 前……じゃなくて後ろっ!」
ノゾミは、一瞬だけ前に出ようとするが、すぐに後ろに下がった。
そして、ギリギリのところでキャッチする。
「ナイス、ノゾミちゃん!!」
アイリが嬉しそうに言った。
それに対して、ノゾミは照れたように笑う。
「えへへ……。上手くいきました!」
練習の成果が出始めていることを喜ぶノゾミ。
そんな彼女は、龍之介に話しかけた。
「……龍先輩、わたしの守備ってどうですか?」
「ん? ああ。まだちょっと粗さはあるが、着実に成長していると思うぜ」
龍之介が率直に答えると、ノゾミはパァッと表情を明るくさせた。
やはり嬉しいのだろう。
そして、そんな彼女を龍之介も褒めたたえる。
「落下地点の予測が甘くても、ノゾミにはその脚力があるからな……。かなり広い守備範囲を誇っているよ。センターを任せられるのはノゾミしかいない」
「えへへ、ありがとうございます!」
ノゾミは嬉しそうに笑う。
そんな様子を見て、龍之介も微笑んだ。
野球の守備においては、センターラインを固めることが重要となる。
すなわち、キャッチャー、セカンド、ショート、センターである。
ショートはアイリが守っており、センターには今回ノゾミが配置された。
桃色青春高校の守備は、着実に固くなっていると言っていいだろう。
「さて、次はバッティング練習だが……。せっかくだし、実戦形式にしようか」
「実戦形式……ですか?」
「ああ。ノゾミはバッターボックスに入ってくれ。ショートにはアイリ、ファーストにはミオが入るんだ。そして……ピッチャーは俺だ」
龍之介はそう言って、マウンドに登る。
そして、ミオとノゾミに向けて言った。
「今から、ノゾミに打ってもらう。内野に転がったら、2人の出番だぜ」
「分かりました!」
「……分かったよ」
2人はそう答えると、守備位置についた。
それを確認した龍之介も、投球準備に入る。
「じゃ、行くぞ。まずは軽くストレートを……」
龍之介はそう言って、ボールを投げるモーションに入った。
そして、ノゾミはタイミングを合わせてバットを振る――。
『ストラーイク!!』
「あぅ……。空振りしちゃいました……」
ノゾミは、少し悔しそうにする。
そんな様子を見て、龍之介は笑った。
「いや、悪くないぞ! 初めての実戦形式であそこまで反応できるなら大したものだ!」
「そうですか……。えへへ……」
「ノゾミちゃん、ナイススイング!」
「うん。雰囲気は出ているよ」
みんなの言葉に、ノゾミは嬉しそうにする。
そんな彼女を見ながら、龍之介は言った。
「では、次だ。ノゾミ、構えてくれ」
「はいっ!」
気を取り直したノゾミは、龍之介に向かってバットを構える。
そんな彼女に向かって、龍之介はボールを放った。
(次は当てるぞっ!)
ノゾミは、バットを振る動作に入る。
そして――。
コンッ……。
小さな音が鳴り、ノゾミのバットから力のない打球が放たれた。
「あ……」
ノゾミは不満げな様子である。
そんな彼女に対し、龍之介は言った。
「ノゾミ、走れ! ボテボテのショートゴロだ!!」
「は、はいっ!」
龍之介の指示を受けたノゾミが走り出す。
そして、その瞬足で一塁へ向かった。
「ボクだって……守備練習を頑張ってきたんだよ! こういう打球は……ほいっと!!」
ショートのアイリが、ゴロボールを捕球して素早くファーストに投げる。
ノゾミの一塁到達とミオの捕球タイミングはほぼ同時だった。
審判役の野球ロボの判定は――
『アウト!』
「ふぅ……。間一髪でアウトにできたよ」
「ちょっと危なかったですけど、上手く捕球できて良かったです」
アイリとミオは、安堵するように呟く。
一方のノゾミは、悔しそうにしていた。
「うぅ……。こんな調子では、龍先輩のお役に立てません……。やっぱり、右利きのわたしが左打ちするのは、難しいんでしょうか……」
そう呟くノゾミ。
そんな彼女の背中を、龍之介は優しく叩いた。
「大丈夫だ、ノゾミ。ちゃんと振れているぞ」
「でも……」
「確かに、右利きのノゾミが左打ちでまともに当てられるようになるのは、しばらくの時間が必要になる。だが、まともに当てる必要なんてないのさ」
「え……?」
龍之介の言葉に、ノゾミは首を傾げる。
そんな彼女に、彼は続けた。
「1番バッターのノゾミに期待しているのは、出塁することだ。そうすれば、アイリ、俺、ミオの3人で返すことも可能だろう」
「でも、塁に出るにはちゃんと当てないと……」
「違うな。野球には内野安打がある。今の当たりだって、ノゾミが最初から全力で走っていればセーフになっていたはずなんだ」
龍之介はそう語る。
野球そのものにまだ慣れていないノゾミは、「打ったら走る」という基本がまだ固まっていなかった。
だが、今後の練習によってそれも改善していくだろう。
「それに、アイリの守備も相当なものだからな。少なくとも、秋大会の1回戦や2回戦で当たるチームのショートよりずっと上手いと思うぜ。そのアイリですら、ギリギリでアウトにできるかどうかってレベルの瞬足がノゾミだ。気負うことなく、自分にできることをしてくれればいい」
「自分にできること……。わ、分かりました!」
ノゾミは力強く頷く。
まだまだ、野球に関して分からないことが多い彼女だが、龍之介の言葉をしっかりと受け止めたようだ。
そんなやり取りを眺めつつ、ミオが口を開く。
「秋大会と言えば……1回戦の相手は決まったのでしょうか?」
「いや、まだだ。ちょうど今週末に抽選会がある。初めての公式試合だし、あまり強すぎないところがいいな」
「ふふっ。そうだね。龍之介のくじ運に期待してるよ」
アイリがそう言って、龍之介にサムズアップする。
そんな彼女に、龍之介は苦笑したのだった。