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この気持ちに気づいたのは多分ずっと前、痛くて苦しくてなぜだか涙が止まらんくなってその翌日は仕事に行けなかったし、鼻声が酷くて配信もできなかった。
でも、大丈夫。大丈夫なんだ、だっていつも通りに接することが出来たから蓋は出来たから。
「…ごめ、なさぃあき、らぁッ…っすき、な、ってごめんっなさぃ、ッ」
時々溢れるこれはきっと俺の自分勝手な思い。だから蓋をしておかなきゃ行けない。
「あ!セラお〜、あんさこれからランドリーに行くんやけどなんか食べたいのあるかぁ?」
『うわ、マジかぁ…俺も奏斗もまだ帰れそうになくてさ。ただ凪ちゃん最近お昼抜きがちだから頼める?』
「おっけ!任せとけって、美味いの作ってくわ!」
『ありがと〜』
セラおの緩くただ安心したのが声色から伝わってくるあと後ろの方で聞こえる奏斗の声に少し笑った。
二人のも別で作っておこうかな。
エプロンの紐を締め直し鼻歌を小さく、小さく歌いながら材料を取りだしていく。
お客さんもバイトの子も入れ替わりで少ないこの一時間は、寂しさと楽しさが入り交じったような空気が漂う。
個人的にはすっげぇ楽しいんよなぁ。
まぁ、お客さんとかバイトの子がいりゃそれはそれで楽しいんやけどさ。
…あぇ?依頼人かな?女性の声や。
気配を殺し音を殺し扉から入っていく。どうやらこの前話していた継続型の依頼中らしい。中から聞こえてくる声にセラおに連絡入れて出直すかな〜、なんて考えて居れば耳に入った言葉に足を止めた。
___四季凪さんにも好きな人がいるのでしょう?
そう言った女性の声は酷くワクワクとしているような確信があるような強くふわりとした柔らかい女性らしい声。
ドクン、と心臓が嫌に大きくはねて貧血が起きたみたいに頭がクラりとする。
ダメだ、ここから離れなきゃ。聞いちゃいけない。そう、思ってるのに…聞けば諦められるかもしれない。
そんなわけないことくらい分かってるのに。
___えぇ、居ますよ。よくお分かりになりましたね
「………、」
ズル、ズル壁に背中を預けて立ち方を忘れたみたいに足から力が抜ける。
__ふふ…だって四季凪さん、愛おしい方が居る人特有の目をしていらっしゃいますもの。
どのような方なんです?
___とても愛らしい方ですよ、可愛らしくて。どんな人でも愛おしくなってしまうような…そんな、可愛い方ですよ
連絡通りの時間に来た花さんの口から聞けたのは離婚が成立しやっと子供達と暮らせると言う話だった。
それから世間話をしてお茶を楽しみ依頼の遂行終了の手続きをする。
「そうだ私ずっと聞きたかったんです。四季凪さんにも好きな人がいるのでしょう?」
ふわり、ふわり花という名前が似合う柔らかな笑顔を浮かべてそう笑った彼女にやはりバレていたのだなぁ、と薄らと思う。
「ぇ、居ます…けど。よくお分かりになりましたね」
「ふふ…だって四季凪さん、愛おしい方が居る人特有の目をしていらっしゃいますもの。
どのような方なんです?」
恋バナはやはり乙女の心をくすぐるものだ。先程の大人びた表情からまるで少女のような顔に代わり、まるでネイルや紅茶の話をしている時のような感じ。
アキラはふと頭に浮かぶコロコロと表情を変える彼を思い出す。
「とても愛らしい方ですよ、可愛らしくて。どんな人でも愛おしくなってしまうような…」
決して思いを伝えることは出来ない
「…そんな可愛い方ですよ」
「!…その方を心から愛しているのですね」
愛してる、あぁそうだ。
私は
「…?…何か物音が」
「あら?エージェントさんが帰ってきたのかしら?」
いや、違う。今日は奏斗と一緒に行っているし何よりアイツらは帰ってくる時は何か一言言ってから来る、それに今の音はどちらかと言えば出ていった音だろうか。
アキラは表情は相変わらず緩めたまま花さんに微笑みかけ、断りを入れて扉を開けて軽く様子を見る。
「…?なに、も………」
くしゃり、ほんの少しだけよれた紙袋。それから中にちらりと見えたサンドイッチそれからちょっとした具材。
紙袋には見慣れたCafeの名前。
「…たらい?」
もしかしたらお客さんがいたからと遠慮した?いやもしそうならアイツなら待つだろう。何より出ていく時に音なんて立てない。
紙袋には不自然なシワがよっていてそれこそまるで何か堪えるように抱き締めたような…
「っ、花さん申し訳ありません。私重要な用事が出来てしまい」
「えぇ、行ってきてください。四季凪さんの”愛おしい方”なのでしょう?」
「…ありがとうございます、!」
「……そーだ、れんらく」
ぽち、ぽちスマホ画面からメッセージを開き奏斗に連絡を送…ろうとした。
画面が歪んでまともに文字さえ打てない。手が震える。
「はは、ッ…ばか、だなぁ…おれ」
叶わないなんて知ってただろ。諦めるために聞いたんやろ?
ズキズキ、ツキツキ心臓が張り裂けそうなほどに痛くて苦しくて涙が止まらない。
ここがどこかさえも分からない。
ただ人の声も気配もしない所に行きたかった。
「……っ、ふ…っ…う”ぁ、ひっぐ」
幸せならそれでいい、そう思えない俺が嫌だ。そんな奴じゃなくて俺のことを愛してって思う俺がきらいだ。
嫌いだ…きらいや
ざー、ざー雨の音に消える弱い嗚咽。溶けてしまえばいいのにこんな想いも全て、全て。
がちゃ、ギーっと扉が悲鳴をあげる。古くてアンティークな大きな扉は古びて汚れた今でも美しい模様と形を保っている。
扉が開いて、ゆっくりコツ、コツと足音が鳴る。それから目の前で音が止まって自分にかかった上着が退かされる。
「…、たらい」
「…ぁ、きら」
酷く柔らかい低く耳の奥を揺らすような低い音。大好きで呼ばれる度に胸が高鳴る声…
でも、なぜだか今は胸が痛い酷い顔をしてるし顔を上げたくない。今アキラの顔を見れば言うべきでないことが溢れそうになるから。
苦しくてたまらないから。
「…冷たい、な」
「……そ、っか」
シン、と一瞬静寂が流れてそれからアキラが自身の上着を雲雀に掛けてそれか、雲雀の手を取り片膝を着く。
「ぇ、あき、ら…?」
ゆっくり大きく息を吸って、それからほんの少し震えるアキラの手。
「……タライ、もし私の勘違いなら私のことを引っぱたいても良いし、笑ってもいい…だから、」
あ、あぁ…そっか俺が聞いてたの気付たん、や…
「ぃ、やだ…」
「ぇ、?」
「いわ、んでおねがぃ…」
聞きたくない。
ボロ、ボロ堪えた涙がまた溢れ出して頬を伝っていく。
口が塩っぽい味するし擦りすぎたせいか目に沁みる。汚い汚い感情が嗚咽になって零れそうになる。
雲雀はギュッと心臓を抑えるように蹲って歪む視界を無理やり緩めて、ヘラりと笑う。
そんな酷く自虐的な笑みにアキラは目を見開いて、それから雲雀の細っちい手首を掴む。
掴んで引っ張って、それから酷くユラユラと揺れる瞳を見開いた雲雀と目を合わせて
「っ、聞け…”雲雀”!!」
「!…っ、」
「…雲雀、私が好きなのはお前なんだよ!!
私はあなたを…ッ愛してるんだよっ」
「…ぇ?」
だって、だって
「ぉ、おれ…かわいっなぃ、しぜんぜッ__」
ちゅ、ふに
柔らかいものが唇に当たってそれから離れる。ジワリ、ジワリ柔らかい荒れてない唇。
顔が熱い、耳も首も熱が集まるのがわかる。
苦くて黒いドロドロした自分の中に渦巻く汚い感情が溶けていくみたいな感覚。ほんの少し熱を込めてほんの少し震えた手で雲雀の頬を撫でるアキラに雲雀は、震えた声を出す。
「…タライ、タライは…どうです?」
「お、れも…ぉれも…すき、すきッあぃ、してるっ」
ずっと、ずっと言えなかったことば
「!…ふは、っそーですか」
「あきら、ないてるん…?」
「っ、なんだか二人で随分遠回りしてしまいましたね」
「…んはっ、あきら」
ちゅ、ぺろ…雲雀の冷えた頬に熱を帯びたアキラの手を滑らせる。アキラの上着の下、雨で濡れた服を着にせず腰に手を回す。
熱が、吐息が漏れる。暫くして口が離れる。
「…しょっぱい」
「っw、ふは…凄い泣きましたからね。さ、帰りましょうタライ、風邪をひいてしまう」
「……アキラ、あんな…ありがと」
「!…それ、帰ったら奏斗とセラ夫にも言って上げてください」
「…ん!」