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『リディアが婚約?……アイツにはまだ早いですよ』
叔父からリディアの婚約話を聞かされたディオンはあからさまに不機嫌になる。
『もう16だ、早くないだろう。寧ろ適齢期だと思うがな』
『……世間一般ではそうかも知れませんが、アレは中身がまだまだ子供です。嫁に出すには早い。下手に嫁がせれば、グリエット家の名誉に関わります』
話は終いとばかりにディオンは仕事机の上の書簡に目を通し始める。
『だが、本人は了承しているがな』
その言葉に、ピタリとディオンの手が止まる。視線はそのままに、口を開いた。
『……リディアが、そう言ったんですか』
『あぁ、先方の家柄も良い故、是非にと話していたぞ』
手に力が篭り、手にしていた書簡が歪んでいく。
『叔父上……以前もお話しましたが、俺の居ない時に勝手にリディアに会うは止めて下さいとあれ程言いましたよね』
『まあ、そう言ってくれるな。私はお前の事を考えてだな』
『お帰り下さい。……今度勝手な真似をしてみろ、その首繋がっていると思うな』
ディオンは、側に立て掛けていた剣を徐に掴む。
底冷えがしそうな程冷たい声色と、射抜く様な鋭い視線を浴びた叔父は、青褪めた顔をし情けなく部屋から慌てて出て行った。
朝日を浴び、その眩しさにディオンは目を開けた。
「夢、か……」
ぼんやりとまだ夢の内容が頭の中に残っている。……余り良い夢ではなかった。寧ろ腹立たしい。あの後、リディアを問いただしたのだが、これまでに類を見ない程に喧嘩になった。
ディオンには分からなかった。あんなに怒るくらい、ラザールという男に嫁ぎたかったのか。叔父の話の後、直ぐに先方の家を調べさせた。確かに家柄は申し分ない。だがそれだけだ。ラザールという男は別段大した人間ではなかった。
一応侯爵家の跡取りらしいが、秀でた才もなく頭の方もからっきしで、噂では何れ弟の令息の方が爵位を継ぐのではないかと言われていた。兄が健在であるのに、それを差し置いて弟が継ぐとは余程の事である。
それに加え白騎士団に所属をしているらしいが、如何にもうだつの上がらないと言った感じだった。
「たく……俺の方が良い男だって、どうしてアイツは分からないんだよ」
独り言つ。
窓の外を見るといつもより日が高い。今日は休みなのだが、少し寝過ぎたようだ。登城はしないが、ディオンには侯爵としての仕事がある。実質休みなどは存在しない。
ディオンはベッドから起き上がると、身なりを簡単に整える。いつもならば、執事のシモンが起こしにくるのだが登城しない日は、少しでも長く休める様にと気を使い来ない。本当に出来た執事だと思う。
今日は一日執務室に篭って溜まっている書簡などを、片付けなければならないな、と考えた所で思考が止まる。
「そう言えば……アイツも今日休みだったか」
そう思い出し、部屋着ではなく外出用の服に着替え直した。