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平滝夜叉丸。彼が前世を思い出したのは幼稚園の頃だった。
理由は単純、砂場で穴を掘る子供を見た瞬間 呼吸が止まった。
ー知っている。
忍者。
学園。
訓練。
そして穴。
「…きはちろう」
誰に教わったわけでもない名前が、口からこぼれ出た。
その日から、滝夜叉丸は胸に希望を抱いていた。
誰にも言えない。
信じてもらえるはずがない。
それでも、忘れられない。
(また会ったら、今度こそ)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
高校の入学式、体育館の列の中に見覚えのありすぎる後ろ姿を見つけた。
(あれは…)
まさかこんな所で会うなんて、
(以外にも早かった、)
早かった。そんな事を言うが、早く会いたいのは山々だった。嬉しいのだ、私は。
同じクラスになるのは偶然だった。
ー綾部は、私を見ても何も言わなかった。
いや、前世で「来世でも」なんて約束なんてしていない
当たり前だ。
覚えている方が異端なのだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
毎日、夢を見る。
おそらく、昔の記憶。
夢の中の私は眩しかった。
周りの人達も眩しかった。
決して楽ではない乱世の世で私たちは美しく生きていた。
目を閉じれば初めから繰り返す平滝夜叉丸の一生。
昔の私が今の私を見たら、叱るのだろうな。
『叱らんよ』
『此れは貴様の人生だ好きに生きたら好い』
『好きに生きて、勝手に後悔しろ』
『また一つ好い生き様だ。無様で結構』
「貴方は、いつだって気高く素晴らしいな」
『当然!私はスーパースター平滝夜叉丸なのだから!』
『しかしゆめゆめ忘れるなかれ』
『私は本物ではない。貴様にすむ似せもの』
『わかったか?』
――そこで、夢は途切れた。
天井。
見慣れた自室。
「……」
声にしようとして、やめた。
あの声は、今世で呼ぶものではない。
『好きに生きて、勝手に後悔しろ』か。
無責任で、誇り高くて、ひどく平滝夜叉丸らしい言葉。
私がこうして前世に縋ってしまうのは、
記憶のせいだけではない。
名前だ。
あいつの今世の名前は
綾部喜八郎。
穴掘りに夢中で、帰ってくるのが遅くて呼んだ。
話を聞かなかったから怒って呼んだ。
授業に遅れそうで呼んだ。
ただ呼びたいから呼んだ。
忘れろという方が無理だ。
「……覚えていないのだろうな」
彼は、きっと何も知らない顔で笑う。
同じ教室にいても、すれ違っても、
私の胸の中にある過去など、欠片も知らずに。