李斗の背中は、思ったよりもあたたかかった。
ぎゅっと抱きしめた瞬間、自分の心臓の音が大きく響いて、どうしようかと思ったけれど、それでも離れたくなくて、そのまましばらく動けなかった。
「……まりあ?」
李斗の驚いた声が聞こえた。でも、私の腕の中で、彼はじっとしていた。
怒られるかな、びっくりされるかな、そんなことを思ったけど、不思議と怖くはなかった。
「だって、李斗が…」
「お前、なんで急に…」
「……うーん。でも、どうしても言えないかな。」
本当は言いたかった。「私、李斗のことがすごく気になってる」って。
でも、それを言葉にした瞬間、何かが変わってしまいそうで、私はまだ怖かった。
「……何それ、言いたいことあんのか?」
李斗の低い声が、耳元で優しく響いた。
私はそっと顔を上げて、李斗の顔を見た。ほんのり赤くなっている気がして、なんだか私まで照れてしまう。
「だって、私はやっぱり…李斗のこと、すごく気になる。」
言ってしまった。いや、本当の気持ちの全部じゃないけれど、それでも、今の私に言える精一杯の言葉だった。
李斗の目が、少しだけ見開かれた。
それから、少しだけ黙って、ゆっくりと息を吐くように言葉を紡いだ。
「……俺も。」
その一言が、胸の奥まで届いた。
嬉しい。すごく、すごく嬉しい。でも、どうしよう、こんなにドキドキするの、私、知らない…!
「ほんとに?」
「ほんとだよ。」
李斗は、そっけなく言うけれど、その目は嘘じゃないって教えてくれる。
私のことを真っ直ぐ見つめてくれるその視線に、胸がぎゅっと締めつけられた。
「……よかった。」
そう小さく呟くと、李斗はちょっとバツが悪そうに目をそらした。
「……お前さ、たまに大胆すぎるんだよ。」
「そ、そうかな…?」
「そうだよ。」
ぷいっと横を向いてしまった李斗が、なんだか可愛くて、思わずくすっと笑ってしまう。
李斗がこんな風に照れるの、なんだか珍しい気がする。
「でも、李斗が素っ気ないから、たまにはこうしないと、ちゃんと気持ち伝わらないもん。」
「……っ、お前な…!」
李斗が恥ずかしそうに頭をぐしゃっとかきながら、私をじろっと睨んでくる。
でも、怒ってないって、ちゃんとわかる。
こういうときの李斗って、すごくわかりやすいから。
「もう帰るぞ。」
「うん。」
並んで歩きながら、ふと気づく。
李斗の手が、さっきよりも私の手の近くにあることに。
わざとじゃないのかもしれない。でも、いつもよりちょっとだけ距離が近いのが嬉しくて、私はこっそりと微笑んだ。
この「お試し恋愛」は、まだ終わらない。
でも、私の心は、もう「お試し」じゃなくなり始めている気がする。李斗も、そう思って、いるのかな。
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