テラーノベル
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ある秋の日。
ある少女の命が、一つ消えた。
その真実を知っているのは――
あたしだけなんだ。
――カン、カン、カン、カン。
踏切の警報音が、耳の奥を殴るみたいに鳴り響く。
オレンジ色のランプが点滅して、
線路の向こうから、重たい振動が近づいてくる。
「………………」
まろが、踏切の中央に立っている。
逃げ場なんて、最初から存在しない場所に。
風に揺れる黒髪。
制服のスカートが、やけに軽く見えた。
無関心そうな目。
全部を諦めたみたいな、空っぽの表情。
「……まろ……?」
声が、震える。
「まろっ!!
なんでそんなところにいるのッッ!?」
喉が裂けそうなほど叫んだ。
「こっちに来て!!
お願いだから、戻ってきて!!」
遮断機の向こうで、あたしは必死に手を伸ばす。
でも、まろは――
こっちを向いただけだった。
助けを求めるでもなく。
逃げる気配もなく。
「……な……ぃ……こ……」
かすれた声で、あたしの名前を呼ぶ。
それだけ。
――ドンッ。
風圧が、全身を叩いた。
「まろおおおおおおおおおっ!!!!」
次の瞬間。
視界が、赤に染まる。
血しぶき。
切断された腕。
制服だった布切れ。
原型のわからない、顔。
生々しすぎて、夢だと理解できなかった。
叫び声は、喉で潰れて。
息の仕方すら、わからなくなる。
そして――
「――――――――――っ!!」
ベッドの上で、飛び起きた。
……夢。
ただの、夢。
カーテンの隙間から、秋の朝日が差し込んでいる。
心臓が、壊れたみたいに暴れている。
「……はぁ……はぁ……」
喉が、痛い。
夢なのに。
あまりにも、現実みたいで。
「……縁起でもない……」
そう呟いたはずなのに、
胸の奥に、嫌な感触が残ったままだった。
あの踏切。
あの目。
最後に呼ばれた、あたしの名前。
――忘れられない。
「ないこー!
遅刻するでー!!」
玄関から、聞き慣れた声。
「今行く!」
制服に袖を通して、無理やり気持ちを切り替える。
今日は、普通の日。
夢なんて、現実にならない。
……そう、信じたかった。
学校へ向かう道。
「ほとけ!
寝坊すんなよ、ほんまw」
まろが、楽しそうに笑っている。
「いふちゃんだって
今日は時間通りに起きてないじゃん!」
ほとけっち――
あの女が、笑い返す。
胸の奥が、ギュッと締め付けられた。
「かと言ってさ、
たったの5分やん!」
「けど、遅れたのは事実っ!」
「は”ぁ?💢
2時間遅れた仏には
言われとーないしっ!!!???」
笑い声。
じゃれ合うみたいな距離。
――やめて。
あたしの中で、声がする。
やめて。
その女の隣で笑わないで。
やめて。
あんな女と、楽しそうに話さないで。
やめてやめてやめてやめて。
あんな女より。
絶対に。
あたしのほうが――
「……ないこ?」
急に、視界が揺れた。
「ないこっ!」
まろの声。
「……っ!
ど、どうしたん?」
「さっきから話しかけてるけど、
なんにも反応しないから……」
心配そうな顔。
その表情だけで、
胸の奥が、甘く疼いた。
「……なんでもない」
嘘。
本当は、頭の中が、真っ黒だった。
まろは、きっと。
あたしより。
ほとけっちを選ぶ。
理由なんて、いらない。
笑ってるから。
楽しそうだから。
それだけで、十分だった。
――この日から。
あたしの中で、
何かが壊れ始めた。
それが、
最初に見た“夢”へと
繋がっていくなんて。
この時のあたしは、
まだ、知らなかった。
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