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朝になり、トーストとコーヒーという簡単な朝食を共に食べている時、由季くんは言った。
「璃々子さん、俺と一緒に事務所へ来て欲しいんだ」
「探偵事務所へ?」
「うん、会わせたい人がいるから」
「分かった」
会わせたい人というのが誰なのか気になるけれど、探偵事務所へ行けば分かるみたいなので、私も由季くんと一緒に家を出る事になった。
「おー由季、おはよーさん」
「おはよう、啓介さん」
探偵事務所へ着いた私たち。由季くんに続いて事務所へ入ると、中には四、五十代くらいの清潔感があって爽やかで人当たりの良さそうな男の人が「おはよう」と声を掛けてきた。
「由季くん、この方は?」
「ああ、ごめんね。啓介さんはこの杉野探偵事務所の社長だよ」
「社長さん……?」
「そ。ここは叔父の啓介さんの事務所なんだ」
「そうだったんですね、初めまして、私、由季くんに依頼をお願いしている小西 璃々子です」
「ああ、由季から話は聞いてるよ。大変だったね」
「はい……」
「ま、とりあえず座って。詳しい話はそれからだ。由季、お茶の用意頼むわ」
「了解。それじゃあ璃々子さんはそこに座ってて」
「うん、分かった」
応接室のソファーに座るよう促された私はひと足先に腰を下ろして二人が席に着くのを待った。
そして、向かい側に啓介さんと由季くんが座ると早速本題に入った。
「啓介さんとも相談したんだけど、暫くの間、俺と一緒に啓介さんの家で世話になろうと思う」
「え?」
「一人暮らしの男の部屋に住んでるとなれば、例え二人の間に何も無かったとしても、やっぱり疑われると思う。だから、住むなら他にも人が居る方がいい。最初は俺と隣同士の部屋を借りてそこへ住むっていう事も考えたけど、夜とか……家に一人は不安でしょ?」
恐らく、深夜に起きた出来事を心配してくれているのだろう。
貴哉と会わなくなれば悪夢は見ないかもしれないけど、それが絶対とは言い切れない。あれはもう発作みたいなものだから。
「……うん、ごめんね」
「謝る事じゃ無いよ」
「でも、由季くんまでわざわざ引っ越すの?」
「いや、マンションの方はそのまま借り続けるよ。いずれは戻るだろうし。俺は暫く啓介さんのところに転がり込む形になる。璃々子さんの事が心配だから、出来る限り傍に居て力になりたいし、それに啓介さんも一人暮らしだから璃々子さんを一人で行かせたら意味無いでしょ?」
「由季くん……。啓介さんは、お一人で暮らしてるんですか?」
由季くんが私を思ってくれているのが伝わって来てすごく嬉しいの同時に、啓介さんが一人暮らしというのは意外だった。てっきり結婚していると思ったから。
だけど、私が思っていた通り啓介さんは既婚者だった。
「そ。奥さんとは別居中なんだよ」
「おい由季、いらねぇ事いちいち話してんなよ」
「いいじゃん、隠さなくても。二人は円満別居でしょ?」
「別に、そんなんじゃねーよ。嫁が好き勝手やってるだけだ」
どうやら何か理由があって今は一時的に離れて暮らしているようだった。
「それに、啓介さんの奥さん、雫さんは弁護士なんだよ。璃々子さんの事を事前に話したら、『不倫だけじゃなくて暴力まで? 最低ねその男。女の敵だわ。 是非協力させてちょうだい』って言ってくれたんだ」
そして心強い事に、啓介さんの奥様は弁護士さんのようで、由季くんが相談したら今回の件の力になってくれると言ってくれたらしい。