コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
9. 微妙な距離と再び近づく二人
入野は少し顔を赤くして歩き続けていた。江口がその後ろをゆっくりと歩きながら、何度も振り返っては入野を見ている。しかし、入野は視線を合わせることなく、黙って歩いている。
江口「あのさ、自由くん。」
江口は少し気まずそうに声をかける。入野はその声に顔をしかめて、ちょっとだけ振り返った。
入野「何?」
その顔は少し怒っているように見えるが、実際には少し照れているだけだ。江口はその表情に気づき、軽く笑った。
江口「ちょっとだけ反応が鈍いんだよな。」
入野「うるさい、バカ。」
入野はまた顔を赤くして歩き出すが、江口は歩調を合わせながら言った。
江口「いや、ほんとに、何か伝える時に自由くんは反応が遅いから、俺がどうしたらいいか困るんだよな。」
入野「それはお前が鈍感だからだろ。」
入野はちょっとムッとしながらも、言葉を返す。江口はその反応にまた少しニヤリとした。
江口「鈍感でいいんだよ、だってお前が怒っても、拗ねても、そんなお前が好きだからさ。」
江口の言葉に、入野は再び顔を真っ赤にして、一瞬立ち止まった。
入野「……何言ってんだよ、バカ。」
入野は顔を背け、再び歩き出すが、その心の中では江口の言葉がぐるぐると回っていた。
江口「バカ…じゃないし…」
入野は小声で呟くが、その声は江口にしっかりと届いていた。
江口「本当は俺が言いたいのは、もっと自由くんに素直になれってことなんだけどな。」
江口は歩きながら続けた。入野は再び足を止め、江口をじっと見つめた。
入野「素直に?」
入野は疑問を投げかけるが、江口は小さく肩をすくめて言った。
江口「うん、でも無理にとは言わないよ。」
入野「うるさいってば…」
入野は照れ隠しにまた口をとがらせて歩き出す。江口はその後ろ姿を見つめながら、少しだけ真剣な表情で言った。
江口「自由くん、俺、ほんとにお前のこと好きだよ。」
その言葉に、入野はぴたりと足を止め、動かなくなった。
しばらく沈黙が続いた。江口はその沈黙を気にして、少し不安そうに入野の顔を覗き込んだ。
江口「……自由くん?」
入野はその問いかけに、ようやく顔を上げる。
入野「俺が好き? そんなの、いきなり言うなよ。」
入野は少しぎこちなく笑いながら言うが、その顔はいつもよりも少しだけ柔らかく、照れたような表情が浮かんでいた。
江口「言いたかったんだよ。」
江口は真剣な表情で答えると、少し間を空けてから、再び歩き出した。入野はその後ろを見ながら、小さくつぶやく。
入野「バカ…ほんとに。」
でも、その言葉にはもう怒りもなく、どこか嬉しそうな響きがあった。
そして二人はそのまま歩き続けた。これからもきっと、こうして少しずつお互いの距離を縮めていくのだろう。
しかし、その距離感が心地よくて、何だか不安でもあった。入野は少し不安な気持ちを抱えながらも、江口の隣で歩く自分が、どこか安心していることにも気づいていた。