テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「 ……え、 」
驚いた。まあいつかこうなることは心底思っていたのかもしれない。
「だから貴方にいい許婚を見つけたの。」
「許婚ですか………??」
「ええ。」
喉が渇き、息があまりできない。
許婚。この時代では当たり前のことなんだろう。母にそういわれたのは18の時だった。
藤澤涼架。
僕の名だ。恋愛対象が女ではないこと。
それを母は知っている。
だからきっとこの人を呼んだんだろう。
若井滉斗。
僕の許婚相手。
切れ長の瞳。そして髪は真っ黒。
そしてこちらを睨みつけていた。
怖い。恐怖だ。
さっきから僕を見て視線を逸らす。を繰り返している。
これは何か、話すべきなのだろうか。
すると、若井さんが口を開いた。
「……藤澤さん。」
「…はっはい、」
鋭い瞳がこちらを見つめた。
お見合い初とはいえ、とても気まずい。
そして、若井さんは海上自衛隊隊長。
いつか戦争に行かないといけなくなる。
「……天気がいいですね。」
少しぎこちない笑顔をこちらに向けながら若井さんはゆっくり話してくれた。
確かに雲ひとつない青空だった。
「……そうですね。」
何ひとつ話せることがない。
いつか、この青空に飛行機が飛び回り、
人々が叫び、血飛沫が飛ぶ。
こんな世界大嫌いだ。
戦争なんていらないんだ。
思わず拳を握りしめる。
すごく、辛かった。
「…若井さんは海上自衛隊隊長でしたっけ。
……大変そうですね。」
「いえそんなにですよ。
基本的にサボってるんで。」
「……えっ、ダメですよ……笑…?」
少し顔が和らいだ。
笑いが漏れた。
「立ってるだけなんですよ。」
「え」
「なので基本的には寝てます。」
「それ…大丈夫なんですか……」
「この前怒られました……笑
反省はしてません。」
「いや反省してください……??」
ふざけ合い。
若井さんは思ったより笑ってくれていて。
「… ああ。 」
「 ここは 楽しい。 」
そう呟いた。
そして静かに目を閉じた。
「 おい”ッ!! 」
「…ぁぇっ……」
また。この夢だ。
貴方はもう要らないのに。
なんなら貴方の方から僕を見捨てたじゃん。
なのに、なんで。
貴方は夢に出てくるの。
いつまで僕を苦しませるの……??
「調子乗んなよ。」
「ぅぇ”っ……」
蹴られて感覚が失せる。
気持ち悪い。貴方を見ると、
冷たい瞳。
息がうまくできない。掠れる。
溺れていく。
海底の底へ。
僕の体はふわりと浮く。
まただ。まただ。夢だ。醒めろ醒めろ。
願っても起きない体に腹が立つ。
そして。
波に飲み込まれた。
「藤澤さん、……??」
朝目が覚めた。
目の前に若井さんがいた。
「…大丈夫ですか………??」
「 あ 」
「だいじょうぶ です 笑 」
笑っちゃった。
本音なんて、言えるわけないじゃないか。
たとえ許婚であっても。
僕のトラウマ。
そんなの抱え込むしかない。
「 この人に 」
「 “ホンネ”を話せる日が来るかな ¿ 」
そうやって今日も願うばっかりだ。
next→300♡