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Brand New ― I love you の先へ
午前零時。
眠らない街の屋上で、彼はひとり空を見ていた。
赤と青のスーツ。顔を覆うマスク。背中には蜘蛛のマーク。
誰もが彼を知っている。
けれど、誰も彼の名前を知らない。
「今日も、守れたかな」
呟いた瞬間、ポケットの中でスマートフォンが震えた。
画面に映っていたのは、一番大切な人からのメッセージだった。
――無事?
彼は少し迷ってから、
――うん。大丈夫。
とだけ返した。
本当は、大丈夫なんかじゃなかった。
怖かった。
失うことが怖かった。
正体を知られることも、明日突然すべてを失うことも。
それでも、誰かが助けを求めているなら、見て見ぬふりはできなかった。
その夜、街の中心で大きな爆発が起きた。
彼は反射的にマスクをかぶる。
「行かなきゃ」
糸を放ち、夜空へ飛び出した。
ビルとビルの間を駆け抜ける。
何度も転び、何度も傷つき、それでも立ち上がる。
そしてようやく辿り着いた場所で、彼は彼女を見つけた。
「……どうしてここにいるんだよ!」
「あなたを探しに来たの」
彼女は震える声で答えた。
「ずっと、あなたが何かを隠してるって思ってた」
彼は黙った。
逃げることもできた。
けれど、もう逃げたくなかった。
ゆっくりとマスクを外す。
彼女の目が大きく開いた。
「……君だったの?」
「うん」
長い沈黙のあと、彼女は笑った。
「怖かった?」
彼は少しだけ笑って答えた。
「ものすごく」
ヒーローなのに。
誰かを守る力を持っているのに。
本当は、ただのひとりの人間だった。
彼女はそんな彼の手を握った。
「じゃあ、もう一人で怖がらなくていいよ」
その瞬間、彼は初めて気づいた。
愛するということは、誰かを傷つけないことでも、永遠に守り続けることでもない。
弱いところを見せても、隣にいてくれる人を信じることなのだ。
「愛してる」
彼は静かに言った。
彼女は笑った。
「知ってる」
たったそれだけだった。
でも、それで十分だった。
翌朝。
街はいつもと同じように動き始めていた。
昨日までの彼と、今日の彼は同じ人間だ。
それでも、何かが変わった。
過去を捨てる必要なんてない。
傷も、失敗も、怖かった夜も。
全部抱えたまま、新しい一歩を踏み出せばいい。
彼はマスクをかぶった。
そして、朝焼けの街へ飛び込んでいく。
昨日とは違う今日。
今日とは違う明日。
新しい自分へ。
新しい世界へ。
そして、言葉だけでは届かない場所へ。
愛してるの先へ。
I love you の先へ。
――Brand New。
𝓯𝓲𝓷
コメント
1件
アヤさん、第1話を拝読しました🌷 「マスクを外す」シーンが本当に胸に響きました。強くあろうとするヒーローほど、実は一番怖がっている—そのギャップが愛おしくて。彼女が「知ってる」と微笑むラスト、たった一言なのにここまで温かくなれるんだなって感動しました。 新しい一歩を踏み出す勇気、素敵な物語をありがとうございます。続きがすごく気になります!
#み!
shiro
370
#🍗❤️
らかに
36
みどりんりん #ROM中
206