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第5話:「予想外のドキドキ」
えりは朝から妙にそわそわしていた。姉の紗希と悠真が週末に出かけることになり、家に残ったのはえりと斗真だけという状況になったからだ。紗希から「仲良くしておいてね」と言われたのが、どうしても気にかかる。
「なんであんたと二人きりになるなんて最悪…」えりは本を読みながらぼやいていた。斗真のことが気になるわけではないが、何となく居心地が悪かった。
その昼、紗希と悠真が出かけると、家は一気に静かになった。えりはリビングでのんびりしていると、急にドアが開いて、斗真が顔を覗かせた。
「おい、俺の部屋でやることあるから、ちょっと手伝ってくれ。」
「え?あんたの部屋?」えりは驚いて立ち上がる。
「何か問題でも?」斗真はそのまま顔をしかめた。
「いや…別に。わかったわよ。」
読書してたんだよ!?こっちは!!
不安そうに斗真の部屋に入ると、そこには無造作に散らばった本や服が山積みになっている。まるで子ども部屋のような光景だった。
…あの?これ、斗真さんのお部屋ですか?
「お部屋というより汚部屋ですね」えりは驚きながら言う。
「ほら、頼むわ。」斗真は床に座り込んで、無理やり部屋の掃除を始めようとした。
「いやいや、この散らかりようはなんなの」
その時、えりが本棚の近くにある引き出しを開けると、何かが落ちてきた。それは、斗真の古い日記帳だった。
「え?」えりは手に取る。…面白そうな。
「それ、見るな!」斗真が急に立ち上がり、えりの手から日記帳を取ろうとした。
「あっ!待って、何よこれ…」えりは思わず中身をちらっと見ようとするが、斗真は必死に遮ろうとした。
その瞬間、斗真が思い切りえりに近づき、力づくで日記帳を取り戻そうとした。
「ちょっと!変態っ」
二人は少しの間、ぎこちなく体が触れ合った。えりはドキッとして、思わず顔を赤らめる。斗真もまた、慌てて離れようとしたが、目が合うとそのまま止まってしまう。
「…お前、そんなに近くで見られるとなんか…うん。早く返せ。」斗真が照れ隠しのように言う。
「もう返してますけど…?」えりはその言葉に目を見開く。斗真の顔がほんのり赤くなっているのに気づき、なんだか自分までドキドキしてきた。
「あーごめんごめん」斗真は冷静を装おうとしていたが、目の奥にはどこか焦ったようなものが見えた。
その瞬間、えりは自分の胸の高鳴りに気づく。なんだろう、この感じは…。斗真の態度に動揺した自分が、少し恥ずかしくなった。
「…ごめん、悪かったね。」えりはようやく口を開くと、冷静さを取り戻すように部屋の掃除を再開した。
「はぁ、もう…。お前、何であんなに勝手に引っ張ってんだよ。」斗真も納得がいかない様子で掃除を始めた。
「はぁ?そっちが手伝えって言ってたんでしょ?」
だが、えりの心臓はまだ少し早く鼓動していることに気づき、つい肩をすくめた。
その後、二人は黙々と掃除を続けたが、どこか微妙な空気が流れたままだった。
「こんなことでドキドキするとか…絶対おかしい。」えりは心の中で呟いたが、斗真の存在が、どうしても意識に浮かんでくるのだった。
その日を境に、えりは斗真の言動一つ一つに、少しずつ心を乱されていくのだった。